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10.ヴァリスから見た二人

え、すご!! なにあれーーー!!


 私は目の前の少年……フェインの鬼気迫る表情に驚きを隠せなかった。クールな大人の女っぽく動揺は隠しているつもりだが素がばれていないだろうか……だって、それもむりはないだろう。普通は痛みを感じればびびるものだが、彼にはそれがない。

 火や氷、風など様々な属性の矢を受けては治癒して立ち上がる彼を見て私は驚きと感嘆の吐息ももらす。

 だけど……



「……これが本当に勇者なのかしら?」



 どうしても疑問に持たざる負えない。エルフは長命種である。長老に至っては千年も生きるものもいる、そのため、過去の勇者に出会ったものもそれなにいるのだ。

 

 彼らは口をそろえて言っていた。勇者とは圧倒的なカリスマ性をもち特殊な才能がある天才だと……


 そう、例えば一度見ただけで自分が半年かけて覚えた技をマスターし、最年少でエルフの試練をクリアした最愛の妹であるアニスのような……

 だが、目の前のフェインはどちらかというと自分のような持たない側の人間のように見えるのは気のせいだろうか?



「ありがとう。おかげで魔法矢は大体見切れたよ、これでエルサールと戦っても少しは楽ができると思う」

「いえ、気にしないで。むしろ、エルフの里のためにこんなに苦労させてごめんなさい……」

「はは、気にしないで。困った人を救うのが勇者の役目だし、影の英雄を目指す俺もそれは同じだからね」



 私が持つすべての属性矢を見切った彼はさわやかな笑顔をうかべて頭を下げてくる。

 彼から頼んだことだが痛かったはずなのに……つらかったはずなのに……それをおくびにも出さない。

 確かにこういう勇者もいるのかもしれない。そう、納得し、考えたいことがあるという彼に魔物や動物があまりこない場所を教え、私は近くの泉へと向かう。



 そこは木々に囲まれてとても美しい湧水のある私のお気に入りの場所である。フェインとの訓練で流れた汗を流そうと思い、何者かがいることに気づく。



「魔物除けの魔法を突破するなんて……何者!!」



 矢を構え飛び出した先にいたのは下半身を水の中に沈めた美しい銀髪の少女だった。さらされている上半身は起伏こそ小さいものの、細身の体ときめ細かい肌とあいまってまるで彫像のように美しい。



「ヴァリス!? フェインと訓練をしていたはずじゃ……」

「なんで、私の名前を……?」



 こちらに気づいた銀髪の少女が胸元を手で隠しながら驚くの表情を浮かべ……しまったとばかりに自分の顔に触れる。

 その姿はまるで今はなき仮面を探しているようで……



「あなた……ジークなのね。だけど、なんで男のふりを……」

「それは……事情は話します。ですから、フェインには私が女であることは内緒にしてはいただけないでしょうか?」


 銀髪の少女は申し訳なさそうに頭をさげるのだった。




「なるほど……つまり、あなたは死んだ兄に囚われているフェインのために、ジークになりすましているのね……」

「ええ、彼は私の話は聞いてくれません。ですが、兄の言葉ならば聞き入れてくれるのです」



 濡れた体を魔法で作った熱風で乾かした少女……テレジアは私に事情を話すと神妙な顔でうなづいた。

 なぜ彼がそこまでジークという少年に固執しているかは教えてくれなかったが、二人のいびつな関係には納得がいった。

 


「あの人は自分が兄を殺したのだと……だから、兄の代わりに自分が世界を救うのだと追い詰めているのです。私の言葉が嘘ではないというのはあなたも先ほどの特訓でわかってくれたのだと思います」



 確かにあの訓練は異常だった。見切りが有効だとわかっていても試すものはそうそういない。なにせ痛いし下手したらしんでもおかしくないのだ。

 となると、まさか、本当の勇者はフェインではなくジークだったのだろうか? そんなことが一瞬頭をよぎるがすぐに否定する。


 だって、フェインはすでに七大罪の一人ファフニールを倒しているのだ。偽物の勇者には成し遂げることはできないだろう。

 だけど、もしも、彼が偽物なのに成し遂げたのだとしたら……偽物でありながら本物の勇者になったのだとしたら勇者よりもすごいことだとおもう。

 だって……



「私は本物を前にあきらめることしかできなかったんですもの」

「ヴァリスさん?」

「ごめんなさい、なんでもないわ」



 どうやら口に出してしまっていたらしい。怪訝な顔をしているテレジアさんだったが、咳ばらいをするとこちらをじっと見つめて口を開いた。



「これは断っていただいてもいいのですが、もしも、フェインさんに少しでも好意を抱いていたら彼と恋仲になっていただけないでしょうか?」

「は?」



 思わず間の抜けた声をあげたのも無理はないだろう。もちろん、予想外の言葉だったのもある。だけど、そういう彼女の表情は複雑そうで……



「あなたはフェインのことが好きなんじゃないの?」

「あの人は一度も私のことをそういう風にはみてくれたことはありませんから……それにエルフが大好きらしいですからね」



 少しすねた顔で言う彼女は初めて年相応の表情を見せる。



「変なことかもしれませんがあの人が年相応の反応をするのは慣れていない恋バナだけなんですよ……」

「だから、やたらとからかっていたのね」

「はい……からかった時の反応に懐かしさもありましたが……」



 テレジアは本当にフェインを大切におもっているのだろう。彼を語る表情はとても柔らく魅力的だと思う。

 そんな彼女の仮面の下の素顔を見た私は好感を覚える。



「まあ、考えておくわ。だけど、エルフが好きなら私じゃなくて妹を選ぶと思うわよ」



 ぼそりと呟いた言葉はテレジアさんには届かなかったようで仮面をつけて私の秘密基地へとむかっていく。

 そう、エルフが好きならば自分よりもずっと魅力的で、強力な力を持ち、勇者であるフェインに強くあこがれている妹がいるのだ。恋人としても旅の仲間としても私を選ぶ理由はなかった。

 だけど、もしも……妹と出会っても私を選んでくれたら好きになっちゃうかもね。そんなことを一瞬考えて明日の戦いに備えるために家へと戻るのだった。




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