短話2 助手席の瞳子
ご拝読、ありがとうございます。
今回も短話になります。
夜の国道を、山田琢磨は車を走らせていた。
ヘッドライトが照らし出す先には、誰もいない暗闇の道が伸びている。 隣の助手席には神崎瞳子が座っていた。
深夜の心霊スポット巡りの帰り道——。
「今日は収穫なしですね。何も出ないとは」
琢磨はハンドルを握りながらぼやいた。
「……ええ」
瞳子は窓の外をぼんやりと眺めている。
月明かりが黒髪に淡く反射し、彼女の横顔を青白く浮かび上がらせていた。
琢磨はちらりと助手席を盗み見た。彼女はいつも通り無表情——のはずなのに、どこか違和感がある。
「……先輩?」
呼びかけると、瞳子はゆっくりと、まるで機械のような動作でこちらを向いた。
「……なに?」
琢磨は思わず息をのむ。
いつもの彼女と何ら変わらない。だが、本能が告げていた。これは——違う。
「……先輩、ですよね?」
冗談のつもりで聞いたが、胸の奥がざわつく。 瞳子は何も答えず、ただじっと琢磨を見つめていた。
その目が、いつもより黒く、深く——。
ぞくりと、背筋が凍る。
助手席に座っているのは……本当に神崎先輩なのか?
琢磨は無意識のうちにバックミラーを覗いた。
その瞬間、心臓が跳ね上がる。
後部座席に—— 黒く長い髪の女が、じっとこちらを見つめていた。
「ッ!!」
琢磨は悲鳴を飲み込み、反射的にブレーキを踏んだ。
キイイィィッ——!タイヤが悲鳴を上げ、車内に不快な振動が走る。
――静寂。
鼓動だけが、やけに大きく響く。
琢磨は息を呑みながら助手席を見た。
——そこにいたのは。
いつもと変わらぬ、無表情な神崎瞳子。
「…………危ない」
低く、落ち着いた声。
「え、いや……すいません……」
琢磨は慌ててバックミラーを確認する。
後部座席には——誰もいなかった。
(幻覚か? それとも……)
琢磨は震える手でハンドルを握り直した。
「……気をつけてね」
瞳子の声が、どこか遠くから響く。
「助手席は時々、違うものが座ることがあるから」
琢磨はもう、助手席を見ないようにした。
瞳子がふと呟いた。
「……さっきの子、私に似てた?」
確かに、後部座席の女は瞳子と同じ黒髪のロングヘアだった。
「……ええ、少し」
乾いた声で答える。
「そう……あの子、私の〇〇かもしれない」
一部分が聞き取れなかったが、瞳子の声音はどこか寂しげだった。
夜の国道は、暗闇の中へと続いていた——。
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