短話1 学食の幽霊
短編の怖い話です。本編の時系列からは外れています。
昼休み、大学の学食でランチを取るために、山田琢磨と神崎瞳子は並んで席を確保していた。学食は賑やかで、学生たちが話しながら食事をしている中、二人は静かに自分の食事を楽しんでいた。
「先輩、それよく食べてますよね。好きなんですか?」
琢磨が神崎瞳子に聞くと、瞳子は無言で頷き、再び食べ物に集中する。
ふと、目の前の長テーブルの角に座る、女性が目に入った。彼女はどこか不安げに辺りを見回しながら歩いている。長い黒髪を後ろでまとめ、顔色が異様に青白い。まるで血の気がないかのようだった。
彼女が通り過ぎると、学食の空気が一瞬、ぴんと張り詰めたような気がした。
琢磨は気になるようにその女性を見つめた。瞳子もそれに気づいて、静かに視線を向ける。
「……気になる?」
瞳子は淡々とした声で問いかける。
「ええと、気になるっていうか、どこか……」
その時、琢磨がふと目を逸らした隙に、瞳子が冷静に言った。
「彼女はもう、いない」
琢磨は驚いて、その女性を探すが、もうその姿はどこにも見当たらない。
「え、でもさっき……」
「学食の角で、姿を消した。」
瞳子はもう一度、学食の角をじっと見つめる。
「……どういうことですか? どこに行ったんです?」
「彼女は……もう、いない。」
瞳子の目は真剣そのもので、琢磨は何も言えなくなった。
その時、ふと学食の端に座っていた学生の一人が、ぼそりと話し始めた。
「あの女性、あそこに座ってたんだよ……でも、急に顔色が悪くなって、目が泳いでる感じだった。それから、学食の角で立ち止まって、急に消えた。」
その学生の話に、琢磨は戦慄を覚える。
「……もしかして、あれは……」
瞳子は静かに答える。
「ここ、昔は大学病院で、戦時中に負傷した兵士を収容するために使われていた」
「戦時中?」
「ええ。当時は手術室や病室が並んでいて、多くの人がここで亡くなった。特に、あの学食の角……あそこは、もともと処置室があった場所」
琢磨は思わず学食の角を見た。
「でも、彼女は普通の学生たちにも見えてました」
「……そうね。でも、それが"見えてしまう"のがこの場所」
瞳子は目を細める。
「負傷したまま運び込まれ、亡くなった人。彼らの未練が、今も残っているのかもしれない」
琢磨は黙って考え込んだ。学食にこもるなにか。
「……忘れた方がいい。もう、誰もその女性を見かけることはない」
瞳子は食べ終わった皿を静かに片付けたながらつぶやく。
その後も、二人は学食で静かに過ごしたが、琢磨は無意識にあの学食の角を何度も振り返ってしまった。
こんな感じの短編も織り交ぜて行こうと思っています。ご感想、ご要望などあればどしどし教えてください。