1-3 憑き纏うモノ 質問
ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。
「……な、何言ってるんですか。俺が何を隠してるって……」
「…………」
琢磨は宏人を睨みつけたまま、言葉を続ける。
「お前には、ずっと違和感があった」
「そ、それは……こんな状況だから! 幽霊なんて信じてない俺からしたら、こんなのただの悪ふざけ――」
瞳子の冷静な声が昼間を射抜く。
「オカルトを否定するのなら、私が幽霊を視えると言った時、なぜ反応しなかったの?」
「あ、あの時は動揺してて……」
「夜野さん、彼と昼間くんは仲がよかった?」
「いえ、翔くんと宏人くんに面識はないはずですけど……。そうだよね?宏人くん」
「ああ、佐藤くんのことは明衣から聞いたくらいしか知らないよ。さっき山田くんに話したくらいの情報しか」
「……宏人、くん……?」
明衣はおずおずと宏人に話しかける。その瞳には疑念の色が浮かんでいた。
「なに?夜野さん」
「私、以前君に翔くんの話をしたとき、翔くんの苗字も名前も、出してないよ」
「……? それがどうかした?」
「……なんで、さっき最初に、山田くんに翔くんのことを聞かれたとき、“佐藤くん“って苗字を知ってたの……?」
「…………っ!」
矛盾点を突かれて、宏人は思わず言葉を失った。
「あなたが……何を隠しているのか……佐藤翔が何を伝えようとしているのか……」
彼女の左目が淡く黄色に輝く。
「それを、確かめる必要がある。ここで……あなたの目の前で、佐藤翔の声を聞く」
その言葉に、宏人の表情が凍りついた。
そして、その瞬間――
どこからか、掠れた声が聞こえた。
「……ひる……ま……」
「……っ!!」
宏人の顔が、一気に蒼白になる。
「……やっぱり……そういうこと」
瞳子は、冷たくそう呟いた。
「……ひる……ま……」
再び掠れた声が、部屋の隅から聞こえてくる。
「お、おい……やめろよ……!」
宏人の顔が青ざめ、彼の手が小刻みに震えた。
琢磨は息をのむ。明衣は驚きと恐怖で、身を縮こまらせていた。
瞳子は静かに、佐藤翔の霊を見つめている。
「……ひるま……おまえ……」
「……っ!!」
宏人は息をのんで後ずさった。
(――間違いない)
琢磨は確信する。
佐藤翔の霊は、間違いなく宏人に向かって呼びかけている。
瞳子の声は淡々としていた。
「怖がる必要はないわ。あなたにやましいことがなければ」
「ふ、ふざけんな! 俺は何も……!」
宏人は慌てて後ろを振り向く。だが、そこには何もいない。
「……っ、こんなのただの……偶然だろ!? 変なノイズとか、幻聴とか、そんな……!」
「それなら、試してみる?」
瞳子が、ふっと微笑む。
「佐藤翔に、直接問いかけるといい」
宏人の表情が一瞬にして固まる。
「……は?」
「佐藤翔に、『お前は何が言いたい?』って」
「ふざけんな!」
宏人が怒鳴る。
「そんなこと、やる意味なんてねぇだろ!!」
「できない?」
彼とは対象的に、瞳子の声は冷静そのものだった。
「本当に何も知らないなら……やってみても、問題ない」
「……チッ!」
舌打ちし、宏人は拳を握りしめる。
琢磨は彼の表情を観察しながら、静かに明衣の肩を支えていた。彼女は怯えたままだったが、宏人の反応を見て何かを感じ取ったのか、
「……宏人……くん」
彼女の声は震えていた。
「翔くんに、なにか、したの……?」
宏人の肩がビクッと揺れる。
「……俺が、アイツのことを殺したって……そう言いたいのか?」
「違うよ……ね……?」
明衣が問いかけると、宏人はギリッと歯を食いしばった。
「……俺は……」
沈黙が落ちる。
その時――
「ひる…………ま……が………ころ……」
かすれた声で佐藤翔の幽霊が呟く。
「!!!」
宏人の瞳が見開かれた。
「や、やめろ!」
「聞こえた? ――『お前が殺した』 って」
宏人の顔から血の気が引いた。
「ち、違う……違う、違う違う違う!! 俺は……アイツを殺してなんか……!!」
瞳子は微かに息をつき、じっとその方向を見つめる。
「佐藤翔……あなたがここにいるなら……私たちに、真実を教えて」
「……ひるま……に…ころ……さ……れ……た」
先ほどより鮮明に、再び、掠れた声が響いた。
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