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1ー1 憑き纏うモノ 相談

主人公、山田琢磨が最初に遭遇する事件です。

 翌日、山田琢磨がオカルト研究会の部室に足を踏み入れたのは、大学の講義が終わった夕方のことだった。ドアを開けると、薄暗い部屋の中に黒髪のロングヘアの女性がひとり座っている。オカルト研究会の部長、神崎瞳子だ。

「こんにちは」

「ええ」

彼女は言葉少なげに答える。

(なにかオカルトの話題でも振るか)

琢磨がそう考えていると、部室のドアがノックされる。

「すみませーん! ここ、オカルト研究会ですよね?」

明るい声が響く。琢磨がドアを開けると、赤い髪でロングのポニーテールの女性と、爽やかな雰囲気の青年が立っていた。女性の方が琢磨に気づくと、ぱっと表情を明るくする。

「あれ? 山田くんもいるの?」

「夜野さん? なんでここに?」

彼女の名は夜野明衣。同じゼミの同級生で、活発な性格の持ち主だ。その隣にいるのは昼間宏人。琢磨とは何回か顔を合わせたことがあるくらいだが、清潔感のあるイケメンという印象だ。いまも人当たりのいい笑顔を浮かべている。

「えっと……ちょっと相談があって来たんだけど……山田くんも相談?」

「いや、俺は昨日から体験入部」

「そうなんだ!ちょっと意外かも。あ、失礼します」

明衣は屈託なく笑いながら、来客用の椅子に腰を下ろした。その様子をじっと見つめる瞳子が口を開く。

「神崎瞳子」

「夜野明衣です。隣にいるのは友達の昼間宏人君。……えっと……私、1カ月前に彼氏と別れたんですけど、それからずっと体調が悪くて。頭痛とかめまいとか、病院に行っても原因が分からなくて……」

彼氏と別れてから体調が悪い? それだけ聞くと、精神的なストレスのせいにも思える。しかし、彼女がオカルト研究会を訪れたということは、単なる体調不良では片づけられない何かがあるのかもしれない。

「まさか、呪いとか?」

琢磨が冗談めかして言うと、明衣は苦笑しながら頷いた。

「うーん、そういうの信じてるわけじゃないんだけど……なんとなく、気味が悪いっていうか……」

その隣で宏人が口を挟む。

「いやいや、絶対気のせいだって。単なるストレスだよ、ストレス」

彼は笑いながらそう言ったが、その表情の奥に僅かな感情の機微が現れたように琢磨は感じた。

「詳しく」

瞳子の静かな声が響く。

明衣は少し考え込むように視線を落とした後、小さく息をついた。

「えっと……彼氏と別れたのは、一カ月くらい前です。別に大喧嘩したわけでもなくて、なんとなく価値観が合わなくなって、私から別れを切り出しました」

「体調不良はその後から?」

瞳子が確認すると、明衣は頷いた。

「はい。最初は気のせいかなって思っていたんですけど……朝起きるとひどい頭痛がするし、何もしていないのに急にめまいがして倒れそうになることもあって。最近は大学に来るのもしんどくなってしまって……」

「病院では?」

「行きました。でも異常なしって言われてしまって。ストレスとか生活習慣の問題じゃないかって。それに……ちょっと変なこともあるんです」

明衣は言葉を選ぶように、ゆっくりと話し続ける。

「夜、部屋でひとりでいると、誰かに見られている気がして……」

「気のせいじゃない?」

宏人が笑いながら肩をすくめる。

「うーん、そう思いたいんだけど……あと、変な音がするんです」

「音?」

瞳子が聞き返すと、明衣は少し戸惑った様子で言葉を続けた。

「……何かが、部屋の隅で動いているような音がするんです。でも、振り向いても誰もいないし、何もなくて。最初はネズミかなって思ったんですけど、見たことないし……。それに、たまに声みたいなのが聞こえることもあって」

「どんな声?」

瞳子が問いかけると、明衣は少し眉を寄せた。

「……男の人の声です。だけど、はっきり聞こえたことはなくて、かすれているというか……囁くみたいな感じで」

部室の中に沈黙が流れた。

琢磨は考えながら、瞳子の様子を窺う。彼女は静かに明衣を見つめたままだった。

「元彼氏さんの声?」

「えっ?」

瞳子の質問を受けて、明衣の表情が強張る。

「…………なんか、そんな気がして」

「気がする、か……」

琢磨が腕を組んで考えていると、瞳子がすっと立ち上がった。

「部屋を見に行く」

「えっ? い、今からですか?」

「ええ」

瞳子の声音には、迷いがない。

「…………分かりました」

明衣が頷く。

「俺も含めてそうだけど、知らない人を家に入れるのは反対だな」

宏人が呟いた。

「宏人は過保護すぎ、別に私は構わないから大丈夫」

「夜野さんがそういうならいいけどさ……」

こうして、琢磨たち四人は夜野明衣の部屋へ向かうことになった。

しかし、その時はまだ誰も知らなかった。

――その部屋に、「何か」が潜んでいることを。

ご拝読、ありがとうございました。

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