短話7 覗く目
アイデアが出たので、粗削りですが文章にしてみました。
オカルト研究会の部室には、夜がよく似合う。
外には冷え切った夜風が吹きすさび、窓の外には薄雲の隙間から覗く頼りない月が浮かんでいた。
古びた蛍光灯が机を淡く照らし、天井にはかすかに揺れる影が映る。
書棚には埃をかぶった怪談本や都市伝説の資料が並んでいる。
琢磨は湯呑みを手に取り、ふうっと息を吐く。ぬるくなった茶の香りが、妙に湿っぽく鼻をくすぐった。
「……今日は、先輩の番ですよね?」
対面に座る黒髪の女——神崎瞳子は、何も言わずに琢磨をじっと見つめた。
部屋の空気が、静かに淀む。
瞳子は細い指でさらりと髪を撫でながら、ゆっくりと口を開いた。
「ええ、そうね」
彼女の声は、夜の空気に溶け込むよう。
「これは、私がまだ高校生だった頃の話よ」
その夜、瞳子は部屋で本を読んでいた。
時刻は深夜二時。
窓の外は月もなく、漆黒の闇が広がっていた。
雨は降っていないはずなのに、なぜか湿気が肌にまとわりつく。
カーテンは閉められ、部屋の電気は灯っていた。
それなのに——
「……ふと、気配を感じたの」
窓の外、なにかが、そこに"いる" 気がした。
読んでいた本からゆっくりと顔を上げる。
——カーテンがわずかに揺れていた。
風はない。窓も閉まっている。
なのに、その揺れ方はまるで何かが"外側から" 触れているような、そんな動きだった。
心臓がどくん、と鳴る。
(……誰かがいる?)
ありえないはずなのに、そう考えずにはいられなかった。
窓の外に、"何か" がいる。
部屋の空気が重くなる。
心臓の鼓動がうるさいほど響く中、瞳子はゆっくりとカーテンに手を伸ばした。
カサ……
布越しに、微かに何かが"動いた"。
一瞬、背筋が凍りついたが、好奇心がそれを押さえ込んだ。
瞳子は、そっとカーテンをめくった。
——窓の外には、"目" があった。
琢磨は思わず喉を鳴らした。
「目……?」
「ええ」
瞳子は淡々と頷く。
「それは、大きくて、黒くて、私をじっと見つめていた」
彼女の言葉が、ひたりと部室に落ちる。
「……人の目ですか?」
「……分からない」
瞳子は、小さく首を振る。
「でも、それはただ"そこにある" だけ」
その"目" はただ、暗闇の中にぽっかりと浮かび、何の感情もなく、ただこちらを"見て"いた。
ぞわり、と背筋を寒気が駆け抜ける。
「それで……どうしたんですか?」
琢磨は無意識に声を潜めていた。
「……怖くなって、カーテンを閉じた」
けれど、カーテンを閉じても、"それ" はまだこちらを見ている気がした。
まぶたの裏に焼きついたかのように、暗闇の奥でひたすら見つめてくる感覚が消えない。
「心臓の音が、やけに大きく聞こえた。部屋の時計の秒針が止まったように感じるくらい」
——そして、気がつけば朝になっていた。
恐る恐るカーテンを開けたが、そこには、もう何もいなかった。
「それだけよ」
そう言う彼女の声は、どこか遠くを見つめているようだった。
「ただ、一つだけ分かるのは——」
瞳子はゆっくりと琢磨を見た。
静かな声で囁く。
「——"あれ" は、今もどこかで、誰かを見つめている」
琢磨は、思わず背後を振り返った。
部室の扉は閉まっている。
窓も閉じている。風はない。
なのに——
カーテンは、微かに揺れていた。
"誰か“がこちらをじっと覗いているかのようにーー
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