2-1 リゾートバイト プロローグ
本編二話 リゾートバイト 開幕です。
四月下旬、山田琢磨がオカルト研究会に入部してから、二週間が経った。
その間にも、いくつかの心霊現象に巻き込まれたのだが、なんとか無事でいまも元気に生きられている。
入学してから一カ月が経ち、大学に入って初めての大型連休を控えたある日のこと、授業終わりの教室で、琢磨は同級生の夜野明衣に声をかけられた。
「あ、琢磨くん! ちょうどよかった」
特徴的な赤髪のポニーテールを揺らしながら、明衣が身を乗り出してくる。明るく社交的な性格で、男女問わずよく話しているのを見かける。
二週間前、オカルト研究会に体験入部しているときに、彼女の問題を神崎瞳子先輩と解決して以降、よく話すようになった。当時と比べると、だいぶ元気を取り戻したように感じる。
「ちょうどよかった?」
「うん。琢磨くん、ゴールデンウイークって、空いてる? もし予定とかなかったら、リゾートバイト一緒に行かない……?」
「リゾートバイト?」
「そう! 三泊四日で海の近くのバーベキュー場で働くやつ! 本当は友達と二人で行く予定だったんだけど、その子が急に予定入っちゃってさ。代わりに誰か誘わなきゃいけなくて……。どう?」
「なるほど……楽しそうだな」
確かに、普段のアルバイトとは違う新鮮さがありそうだし、ちょっとした旅行気分も味わえそうだ。特にゴールデンウイークは予定もないし、せっかくの機会だから行ってみてもいいかもしれない。
「分かった。俺でよければ行くよ」
「ほんと!? 嬉しい!」
夜野は満面の笑みを浮かべて、ぱっと手を叩く。その様子につられて、俺も少しだけ気分が浮き立つ。普段相手にしているのが感情の起伏が少ない女性だからこそ、明衣の屈託のない笑顔に癒される。
「まだ定員は埋まっていないみたいだから、良ければ誰か誘ってみて」
「分かった。何人かあたってみる」
「うん!詳細はまたラインで送るね!」
「ありがとう」
明衣と別れると、琢磨は部室へ向かい、いつものようにオカルト研究会の扉を開けた。部室の奥には、黒髪のロングヘアを持つ神崎瞳子先輩が、いつものように静かに本を読んでいた。
「こんちは」
「……嬉しそうね」
瞳子先輩は、俺の表情を見ていぶかしむ。
「実は、明衣にリゾートバイトに誘われて、三泊四日で海辺のバーベキュー場で働くことになったんです。夜は旅館に泊まれるらしいですよ」
「そう……」
瞳子先輩は少し考え込むように指先でページをなぞった。そして、不意にこちらを見つめ、静かに言った。
「どこ?」
「まだ詳細は……」
そう答えると同時にスマホが振動する。開くと明衣からバイトの詳細が送られてきていた。
「あ、ちょうど来ました。雲仙町の不帰浜ってとこらしいです」
「不帰浜…………」
「……? どうかしました?」
「私も行く」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
「……先輩も、ですか?」
「ええ」
不帰浜がオカルトが関係あるのかは分からないが、瞳子先輩の興味を引いたのなら仕方ない。
「先輩って、バイトできるんですか?」
「さあ?」
(大丈夫か?この人……)
こうして、一抹の不安を抱えつつ琢磨は瞳子と明衣の三人でリゾートバイトに参加することとなったのだった。
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