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創星暦八四七年 一一月二日 風曜日 子どもを拾った。番号札の子どもだ。黒髪の綺麗な子で、男の子だ。
私が彼を連れ帰ると、使用人たちは血相を変えた。当然だ。誰かの所有物を勝手に持って帰ってきてしまったのだから。
だけど、私は彼を元の主のもとへ返す気はなかった。
キツネ狩りの最中に部下に捕らえられた彼は、一切の怯えを見せなかった。
とても強い意志を込めた瞳で私を睨みつけ、少しでも油断や隙を見せたらこの喉を掻き切りそうだった。
今までの番号札は無気力で、無抵抗で、無表情で、維持費のかかる道具だと思っていた。
だけど、この子は違う。
上手く言い表せないが、この子は何か特別な可能性を秘めている気がする。
この予感が当たるかどうか、それを確かめるために、ここに書き残していく。
(中略)
創星暦八四七年 一一月二八日 火曜日
ようやく食事や着替え、風呂に抵抗を示さなくなった。毎回毎回この小さな猛獣を相手にしてくれた乳母らには頭が上がらない。お礼に有休を出したら、逆にめちゃくちゃ感謝された。
こっそり彼の出生記録を調べてみたが、どうやら今は五歳くらいらしい。いまだに口を利いてはくれないが、文字の勉強には強い興味を示している。今から覚えれば、平民の子と同等くらいには知能が向上するだろうか。
(中略)
創星暦八四七年 一二月二〇日 風曜日
素晴らしい学習能力だ! 一月で簡単な文章まで読み書きができ、足し算や引き算まで計算できるなんて!
精霊の加護がないだけでこれほど素晴らしい才能を埋もれさせていたとは、なんという損失だろうか。
今では勝手に図書館に入り浸って本を読んでいる。一応、監視の目は緩めないつもりでいるが、ここまで来るといっそどこまで才能が伸びるのか、楽しみで仕方ない。
(中略)
創星暦八四八年 一一月一〇日 水曜日
今日、子どもがついに自分から声を上げた。今までこちらが呼び掛ければ答える程度だったのが、拾ってから一年、自分から言葉を発したのだ!
子どもは自分のことを「ディム」と名乗った。根暗を意味する言葉だが、どうも彼はこの音を気に入ったらしい。
しかし、番号札に個体名をつけてもいいのだろうか。まずいよな、やっぱり。
(中略)
創星暦八四八年 一一月一五日 水曜日
子どもが最近どこかへ姿を消してしまう。本人はかくれんぼのつもりなのか、我々が見つけると嬉しそうな、悔しそうな表情をする。
いつも張り詰めた顔しか見ていないから、こんな表情もするのかと意外だった。
今気付いた。
「ディム」って「ディネージュ」の頭三文字を読み間違えたのか?
(中略)
創星暦八四九年 一一月二日 火曜日
私がディムを拾ってから三年。彼はすっかりこの家の一員だ。
最初は難色を示していた家族も、今は彼を受け入れて、一緒に食卓を囲んでいる。
とはいえ、かくれんぼもいい加減飽きてきた。あと、監視役からの苦情がすごい。三人に増やしたのにその目を掻い潜るとか、どうやっているんだ?
(中略)
創星暦八四九年 一一月一九日 水曜日
まずい、まずい、まずい
どうしよう、信じられない
国(この先は黒く塗りつぶされている)
死にたくない。
処分しなければ
あんなもの拾うんじゃなかった
創星暦八四九年 一一月二〇日 土曜日
暗殺術に長けた者を雇った。
闇の精霊の加護。存在しない加護。その恩恵をあれは十二分に持っていた。
番号札に祝福持ちがいるなんて。
知られたらおしまいだ。
あれの食事に、寝つきを良くするための薬を混ぜた。
殺したら、地中深くに埋めなければ。
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