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領主さまは救世主  作者: 長久保いずみ


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11

「おい、ウェンディ。さっきのはなんだったんだ?」


 二人だけになった応接室で、オズワルドが口を開いた。その口調にも表情にも非難の色が浮かんでいる。


「お前、そんなに番号札(ナンバーズ)のことが嫌いだったっけ?」


 一部の人は、番号札(ナンバーズ)に対する生理的嫌悪から彼らへ辛く当たる傾向がある。王都で生活している頃にはそうした光景も見かけたりしたが、そこにウェンディの姿はなかったはずだ。


「……わからない」


 ウェンディは自分を抱きしめたまま、絞り出すように言った。


「自分でもよくわからないの。別に番号札(ナンバーズ)が嫌いなわけじゃない。道を走る馬車と同じくらいにしか考えていなかったはずなの」


 ほとんどの人は、番号札(ナンバーズ)に対して特別な感情を抱いたりしない。それこそ道を行く馬車や、露店に並ぶ山盛りの野菜や果物と同じくらい無関心だ。


 ウェンディもそうだったはずだ。学校の清掃や式典の準備に駆り出される番号札(ナンバーズ)より、パーティでどんなドレスを着るか、成績の順位や就職先の方が大事だった。


「っかー、なんだそりゃ。わけわかんねえ」


 オズワルドが頭を掻く。わからないのはウェンディ自身も同じだった。


 これほど取り乱したことなんてない。それだけディムが番号札(ナンバーズ)だったという事実にショックを受けていたのだ。さらに国が自分たちを殺しに来ると知って、動揺しない方が無理である。混乱した感情が発散先を求め、無意識にディムを選んだなんて、この期に及んでも認めたくなかった。


 オズワルドが席を立つ。


「俺は行くぞ」


 ウェンディはがばっと顔を上げた。


「ど、どうして?」


「勝手に殺されてむかつくんだ。それ以外に何がある?」


 ウェンディが動揺をディムにぶつけたのに対して、オズワルドは怒りの矛先を国に定めた。


「相手は国だよ? こっちのリーダーは番号札(ナンバーズ)なんだよ?」


「それがどうした」


 オズワルドは不敵に笑った。


「俺は武勲を立てるんだ。それがどこだろうと関係ねえ。それに、あいつがいるんなら百人力だろ?」


 彼の言うとおり、ディムは剣も魔法も強く、知恵も回る。一見すれば非の打ち所のない彼についていくのは、正しい判断だろう。


 だが、それは彼が番号札(ナンバーズ)でなければ、という前提がつく。


「……それでも、私は行けない」


 前提が崩れた今、ウェンディには彼のもとへ下る選択肢がなかった。


「ふーん」


 そして、オズワルドも彼女を説得するだけの情も言葉も持っていなかった。


「じゃ、勝手にすれば?」


 そう言い残して、オズワルドも応接室を出ていく。向かう先は執務室だろう。


 ウェンディものろのろとした動作で応接室を出る。そのままあてがわれている客室へ向かうと、ベッドに倒れ込んだ。


 番号札(ナンバーズ)に対して特別な思い入れはない。


 ディムはたしかに変わった人だった。そこに惹かれたのも事実だ。


 だけど、番号札(ナンバーズ)に対して抱いていい感情ではなかった。


「…………っ」


 感情も理屈もごちゃまぜのまま、ウェンディは毛布の中で自分の体をぎゅっと抱きしめた。


◆   ◆    ◆


「おい、ディム!」


 執務室に向かう途中、追い付いたオズワルドが呼びかけた。


「この戦争、俺は参加するぞ」


「そうか」


 ディムは頷いた。


「心強い。お前がいれば勝率も大きく跳ね上がる」


「へへっ、そーかい」


 好敵手(ライバル)にそう言ってもらえると鼻が高い。


 だが、すぐに表情を引き締めた。


「けどよ、実際どーすんだ? こっちと向こうじゃ戦力差ありすぎだろ?」


 一辺境領の私有軍をかき集めたとしても、王国軍には到底及ばない。頭の悪いオズワルドでも、正面衝突が愚行なのはわかる。負けを回避するのは大前提としても、いったいどうやって勝利ないしは停戦に持ち込むのか。


「そうだな。でも、あっちがこちら側を舐めているのもわかる」


 ディムはそう言って執務室にオズワルドを招き入れた。


「戦略もだいたい読める。俺が番号札(ナンバーズ)なのを知っているから、向こうも番号札(ナンバーズ)を利用してくるだろう」


「じゃあ、そいつらを人質にとる?」


「人質じゃない、保護するんだ」


 オズワルドは眉をひそめた。


「……保護? 倒すとかじゃなくて?」


「そうだ。あいつらにとって番号札(ナンバーズ)はあくまでも消耗品。そこを突く」


 ディムは護身用のナイフを取り出し、自らの指先に傷をつけた。


「早速だがこの作戦、要はお前になるぞ、オズワルド」

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