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「おい、ウェンディ。さっきのはなんだったんだ?」

 二人だけになった応接室で、オズワルドが口を開いた。その口調にも表情にも非難の色が浮かんでいる。

「お前、そんなに番号札のことが嫌いだったっけ?」

 一部の人は、番号札に対する生理的嫌悪から彼らへ辛く当たる傾向がある。王都で生活している頃にはそうした光景も見かけたりしたが、そこにウェンディの姿はなかったはずだ。

「……わからない」

 ウェンディは自分を抱きしめたまま、絞り出すように言った。

「自分でもよくわからないの。別に番号札が嫌いなわけじゃない。道を走る馬車と同じくらいにしか考えていなかったはずなの」

 ほとんどの人は、番号札に対して特別な感情を抱いたりしない。それこそ道を行く馬車や、露店に並ぶ山盛りの野菜や果物と同じくらい無関心だ。

 ウェンディもそうだったはずだ。学校の清掃や式典の準備に駆り出される番号札より、パーティでどんなドレスを着るか、成績の順位や就職先の方が大事だった。

「っかー、なんだそりゃ。わけわかんねえ」

 オズワルドが頭を掻く。わからないのはウェンディ自身も同じだった。

 これほど取り乱したことなんてない。それだけディムが番号札だったという事実にショックを受けていたのだ。さらに国が自分たちを殺しに来ると知って、動揺しない方が無理である。混乱した感情が発散先を求め、無意識にディムを選んだなんて、この期に及んでも認めたくなかった。

 オズワルドが席を立つ。

「俺は行くぞ」

 ウェンディはがばっと顔を上げた。

「ど、どうして?」

「勝手に殺されてむかつくんだ。それ以外に何がある?」

 ウェンディが動揺をディムにぶつけたのに対して、オズワルドは怒りの矛先を国に定めた。

「相手は国だよ? こっちのリーダーは番号札なんだよ?」

「それがどうした」

 オズワルドは不敵に笑った。

「俺は武勲を立てるんだ。それがどこだろうと関係ねえ。それに、あいつがいるんなら百人力だろ?」

 彼の言うとおり、ディムは剣も魔法も強く、知恵も回る。一見すれば非の打ち所のない彼についていくのは、正しい判断だろう。

 だが、それは彼が番号札でなければ、という前提がつく。

「……それでも、私は行けない」

 前提が崩れた今、ウェンディには彼のもとへ下る選択肢がなかった。

「ふーん」

 そして、オズワルドも彼女を説得するだけの情も言葉も持っていなかった。

「じゃ、勝手にすれば?」

 そう言い残して、オズワルドも応接室を出ていく。向かう先は執務室だろう。

 ウェンディものろのろとした動作で応接室を出る。そのままあてがわれている客室へ向かうと、ベッドに倒れ込んだ。

 番号札に対して特別な思い入れはない。

 ディムはたしかに変わった人だった。そこに惹かれたのも事実だ。

 だけど、番号札に対して抱いていい感情ではなかった。

「…………っ」

 感情も理屈もごちゃまぜのまま、ウェンディは毛布の中で自分の体をぎゅっと抱きしめた。


◆   ◆    ◆


「おい、ディム!」

 執務室に向かう途中、追い付いたオズワルドが呼びかけた。

「この戦争、俺は参加するぞ」

「そうか」

 ディムは頷いた。

「心強い。お前がいれば勝率も大きく跳ね上がる」

「へへっ、そーかい」

 好敵手ライバルにそう言ってもらえると鼻が高い。

 だが、すぐに表情を引き締めた。

「けどよ、実際どーすんだ? こっちと向こうじゃ戦力差ありすぎだろ?」

 一辺境領の私有軍をかき集めたとしても、王国軍には到底及ばない。頭の悪いオズワルドでも、正面衝突が愚行なのはわかる。負けを回避するのは大前提としても、いったいどうやって勝利ないしは停戦に持ち込むのか。

「そうだな。でも、あっちがこちら側を舐めているのもわかる」

 ディムはそう言って執務室にオズワルドを招き入れた。

「戦略もだいたい読める。俺が番号札なのを知っているから、向こうも番号札を利用してくるだろう」

「じゃあ、そいつらを人質にとる?」

「人質じゃない、保護するんだ」

 オズワルドは眉をひそめた。

「……保護? 倒すとかじゃなくて?」

「そうだ。あいつらにとって番号札はあくまでも消耗品。そこを突く」

 ディムは護身用のナイフを取り出し、自らの指先に傷をつけた。

「早速だがこの作戦、要はお前になるぞ、オズワルド」


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