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魔神の見る夢  作者: 椿朋香
9/18

シーウェル王との謁見

 彼女の薄紅色の瞳を見た。


(やっぱりそうなのか?)


 ある程度予想していた事が確信へと変わった。

「ねえ、聞いているの!デールったら」

 デールはゴクリと乾いた唾を飲み込んだ。

「ああ、魂が生まれ変わるだけだから同じ顔形になるわけじゃないけど、心を映すと云われる瞳は同じ特徴で生まれる場合が多い・・・」


(そう、あんたのように―――)


 と、デールは心の中で呟いた。

 エリカは大きく瞳を開いて彼が答えてくれた言葉を反芻した。

「おい、だけど偶然の一致と云うのもあるから気にするな。運命まで前世と一緒じゃないからな。そんなんじゃ生まれ変わる意味が無いだろう?」

「そ、そうよね。デールって嫌な奴かと思っていたけど本当は優しいのね。ありがとう」

 エリカはそう言うと彼に抱き付いた。

 デールはバランスを崩して再びエリカと共に床の上に倒れてしまった。

「おい!馬鹿!」

 と、言いかけた時に扉の開く音がした。

 入り口に立つのは当然、サイラスだった。冷めた瞳で、床で抱きあう二人を見下ろしていた。最悪だ―――


(我が君。誤解です)


 と、言いたかったが声を出すのも勇気がいる程、主の目線が恐ろしかった。

 その日はデールにとって受難な一日だった―――


 その夜には国王から見舞いとして数々の品が届けられた。嵐で全て流されてしまっていたからだ。特にドレスは寸法も色もどれをとってもエリカにピッタリだった。まるでエリカを見た事あるようにだ。たぶん、グレンが手配したのだろう。

 翌朝、早速グレンが迎えにやって来た。本来なら到着早々、シーウェル王に挨拶に伺わなければならなかった。しかし嵐で散々な格好だったし、エリカがあの調子だったから今日になってしまったのだ。彼女達の与えられた居住区は王宮でも国王の住まう後宮に近かった。いわゆる王宮でも中心部であり、他の姫君達よりかなり良い待遇のようだった。

 年中温暖な南国気候のせいか王宮は開放的な造りで、何処から何処までが部屋なのか回廊なのか区別出来ないような様式だ。そのせいかエリカ達一行が通る度に、あらゆる所から視線を感じるのだった。それは当然だろう。最後に到着したのは今話題のオルセンの王女で、出迎えの護衛船は軍の最高司令官であるバイミラー提督が指揮。見舞いとはいえシーウェル国王直々の贈り物が山と積まれ、後から来たのに最高の部屋を与えられたとあっては他の姫君達からしたら面白く無いところだ。だからエリカ自身の値踏みをしている様子らしい。侍女達と密かに耳打ちして笑う者もいれば、あからさまに主人に代わって中傷的な言葉を投げかける者達もいた。


 エリカは気にする様子も無く無視していたし、サイラスも同様完全に無視状態で、グレンは言ったもの達を確認するかの様にチラリと視線を流すだけだった。

 ところがデールは怒って悪態つきながら睨み返していた。自分が言うのは良いが他人がエリカの悪口を言うのは許せ無いらしい。

 エリカはその様子に思わずふき出した。

「デールも何時も言っているじゃない?」

「はん?オレは良いの。他の奴が言うとムカつくんだよ!」

「変なデール」

「おいっ!笑うなよ!お前が笑うと馬鹿にされているようでムカつくんだよ!」

「あはははは、もう~駄目。デール、おかし過ぎるんだもの」

 身をよじって笑い始めたエリカに悪態をつきまくるデールは、まるで子犬がじゃれ合うような感じだ。

 グレンは羨ましげにその二人を眺めながらサイラスに話しかけた。

「姫は貴殿の従者がお気に入りのようですね。昨日といい今日といい・・・どういう関係ですか?失礼ですが貴殿が姫の本命と思っていましたが、もしかして彼が?ですか?」

 サイラスは問いかけるグレンを一瞥したが答える様子は無かった。

 グレンは肩を竦ませた。

「まあ、良いでしょう。では、貴殿には知ってもらいたかったので申し上げますが、私は本気です。言っている意味はお分かりですね?」

「・・・・・・・・・」

 サイラスは無言で瞑目しただけだった。そして心の中で答えた。


(いつの時代も過ぎ行く時を只見つめるだけだ。いつの世でも彼女の微笑みを只見つめる―――繰り返し、繰り返しその輪が回る限り・・・・・)


 そして開いた瞳には深い孤独と葛藤が映し出されていた。なんと孤独な魂なのだろうか?グレンは人では有りえない絶望的な孤独を彼から感じた。思わず背筋が寒くなる様だった。しかしサイラスがエリカに視線を戻した時は彼から感じられていた、凍るような感覚が跡形も無く消え失せていた。


(やはりそうなのか・・・)


 この男は彼女を愛しているのだ、とグレンは思った。自分が今同じ気持ちだからそう感じるようになったのだろう。


(だが、孤独なのはお前だけでは無い―――)


 中傷を気にする事無く明るく笑っているエリカをグレンは想いを込めて見るのだった。

 今から王と謁見するというのに何の気負いも緊張さえも感じられない。興味が無いと言ってはいたが本来そういう性格なのだろう。臣下や国民から愛される存在。愛され過ぎるから逆に自分の恋愛には疎そうだ。


(恋には試練が付きものか・・・・)

 グレンは最近芽生えた自分の感情に呆れながら歩を進めるのだった。


 そして定刻どおりに謁見の間の控え室へ到着し、取次ぎの為にエリカ達の側から離れた。それから迎えに来たのはグレンでは無かった。エリカは一抹の不安を感じた。この見知らぬ国でグレンだけが頼りだったからだ。心細い思いを感じながら次々と開かれる扉をくぐって行くと、最後の扉の向こうに彼はいた。振り向いて微笑む空色の瞳を見ると、ほっと安心した。

「どうぞ姫。シーウェル王をご紹介します」

 そうだった!王との謁見だったのだ。

 エリカは玉座を見上げた。オルセンとは比べものにもならない壮麗で豪華な王の間は、それに相応しい玉座が一番奥の中央に据えられていた。それに座するのは当然シーウェル王だった。やはりこの国の特徴である褐色の肌と金の髪。左目は宝石をあしらった眼帯で隠している。これが噂に聞く王なのかとエリカは不躾に見てしまった。父や兄がこの王について言っていた事を思い出せば、冷静沈着であり掴みどころが無く何を考えているのか分からない人物と評していた。確かに遠目でもあるが眼帯のせいで表情が見え難いが印象は?と、聞かれれば特別な感じでは無く至って普通だと思った。

 エリカは一呼吸すると挨拶しだした。


「初めまして私はオルセン王国第一王女エリカと申します。この度はお招き頂きましてありがとうございました。それに先日は沢山のお見舞いの数々ありがとうございました。感謝しております。本当に助かりました」

 そして親しみを込めてにっこりと微笑んだ。

「・・・・オルセンの姫、遠方をようこそ。ゆっくり過ごされるように」

 王は短くそう言うと玉座から立って後ろの扉から退室して行ったのだ。予想外の短い会話にエリカは呆気にとられて王が出て行った扉をぽかん、と見つめてしまった。

「な、なんって口数の少ない王様なの?これじゃ話にならないわ!」

 早く親しくなって〝魔神の瞳〟の件をお願いしないといけないのに・・・どうしよう?と、大きな溜め息をつくしかなかった。

(そうだ!グレンがいた!彼に頼んだらいいわ)

 エリカは後ろに控えていた彼に近づくと背伸びをして耳打ちした。

「あのねグレン、先日話した〝魔神の瞳〟の件だけどシーウェル王と直接お話をしたいの。どうにかならないかしら?」

「ああ、そうでしたね・・・」

 エリカの関心を引きたくて話した話題だったが、彼女の探しているもので無いという事はハッキリしていた。探しているのは宝玉であり王の左目は〝魔神の瞳〟と呼ばれているが宝玉では無いのだ。

「姫、実はですね。王の左目は確かに〝魔神の瞳〟と呼ばれていますが普通の目なんです。関連性があればと思って話ましたが宝玉ではありません」

「えええ――そんな!だって、あの」

 エリカは、はっ、として喋りかけた口をつぐんだ。海の魔神と話したなんて知られる訳にはいかなかった。

「・・・じゃ、じゃあ、グレンは王様の目を見た事あるの?」

「・・・・王の目が何故〝魔神の瞳〟と呼ばれているのかは知っています。左目を海神に捧げたからです」

 エリカは尚更分からなくなってきた。海の魔神は言った、王は〝魔神の瞳〟を持っていると。だがその王の瞳は海の魔神に捧げたからそういう呼び名が付いたと?

 どちらが真実なのか分からなくなってしまった。しかし手がかりなのは確かなのだ。

「う~ん。いずれにしてももっと調べなくてはね。早く見つけてオルセンに帰らなくっちゃ!」

 ねっ、と首を横に傾げてサイラスとデールに向かってにっこり笑った。

 グレンは謎めく色を瞳に湛えながらエリカを見るのだった。




 ―――昨日の深夜シーウェル王宮内、王の居室。


 南国とはいっても夜になればそれなりに肌寒く、王はゆったりとした部屋着を肩から羽織った状態で書き物をしていた。政務は深夜にまで及んでいたのだろう。手元だけ明るい灯りの中でも左目にしている眼帯にあしらった宝石が煌いていた。

 誰もが寝静まる中、扉が遠慮がちに叩かれた。王は、入れ、と言葉をかけた。

 男が一人、頭を下げながら入室して来た。

「失礼致します。お申し付けのオルセン王女への見舞いの品は確かにお届け致しました。他に御用はございますか?」

「ご苦労。取り敢えず今は良い。下がれ」

 王は振り向く事無く、そう命じると書き物の手を止めて窓の外を見た。瞬く星は静かに流れる音色のようだった。

「これで皆、揃った・・・・」

 明日はその最後に到着したオルセン王国の王女との謁見だった。今回この馬鹿げた〝花嫁選び〟の真意はベイリアル帝国と対抗する諸国の動向を読む一つの布石だった。シーウェルか?ベイリアル、どちらにつくのか?カルヴァートの様に同盟していても裏切る者がいる情勢の中、本当に信頼出来る国を選別するのだ。より良い関係を望む者は掌中の玉である姫を差し出し、そうで無い者や気弱で日和見な者はそれなりの人選の様だった。当然だろう、そのまま人質に取られる可能性もあるのだから。これだけで国を判断するつもりでは無いが分かり易い基準だ。だから本当に信頼出来ると思った国と絆を深める為に何人もの姫を娶っても構わなかった。それで強固な連合体制が整える事が出来るのだったら簡単な事だった。

 昔から使われる馬鹿らしい手段だが有効なのは確かだ。しかもそれは対等であってはならない。目的の為には我が国が優位に立たなければ意味が無いものだった。他国も当然そう考えているだろうが、まさかシーウェル王が何国ともそういう関係を結ぼうと考えているとは思ってもいないだろう。

 シーウェルも海神の加護が何時まで続くのか定かで無い。魔神は戯れでそうしているだけだから当てには出来ない。もちろん当てにはしない。確実な駒を進めるのがこの王のやり方だった。


「エリカ姫か・・・・」

 王はそう呟くと再び休めていた手を動かし始めるのだった。


話を盛り上げてくれるデールはエリカと良いコンビなんです。本当に彼の存在は助かっています。グレンとサイラスでは何だが睨み合いのままで、全てが終わってしまいそうなんですよねぇ…グレンは牽制かけているようですが、サイラスはまだそんな段階では無いし。私的にはもんもんとしている章だと思います。

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