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ひとつの顔は神の贈り物、もうひとつの顔は自分で造るもの
不可思議だった。あまりにも。
不思議な景色。
自分の周囲は「熱気」。
ステージ上の「普通」。
「何か」膜でもあるのか、切り離されているとしか、思えない。区切られていた。
それくらい「隔絶」して見えた。
そう、客席の熱狂に対してステージ上の「おじいさん」があまりに「普通」すぎて、俺は強烈な疎外感を感じた。
俺は確かに「彼」のファンではない。
しかし、ここまで理解できない感覚は初めてだった。
俺の魂はここにいる誰とも、かの「音楽家」と会えた歓喜を、分かち合えていない。
それぐらい、熱量に差がありすぎた。
周囲に対し、俺が冷めきっていた。
そして、ステージ上の「普通」。
理解できなかった。
二層に塗り分けられた中に、一点、黒いシミが滲んだ。
Ode An die Freiheitが、叫ぶように「そしてそれがどうしてもできなかった者はこの輪から泣く泣く立ち去るがよい」と、白日に晒された。
そして、それは俺が、今までどこにも居場所がなかったこと、離職率3%以下の職場ですら馴染めずに辞めてしまうことの根源原因を、突きつけられた気がした。