聞き取れないthe curtain calls
相変わらずな駅前から寂れた風俗街を抜けて、自宅に戻る。さて、この部屋は明日にはもう何もなくなる。
今日は朝から駅前に買い出しに出掛けていた。次の生活で必要なもの、不要なものを選り分ける。そして、必要だが足りないものを入手した。
毎回、不要なものを捨てるための粗大ゴミシールを貼る時の、得体の知れない溢れ出る気持ちは、形容し難い。
夢を諦める。才能だとか、運だとか、いろんなものが足りなかった。今までの人生に必要だったもの。これからの人生に不要なもの。人やもの、選別していく。
引っ越し屋の指定時間は9時。そこから、掃除して駅近くにあるホテルに宿泊。明後日の14時に不動産屋に引き渡して、神奈川に出発。寮の手前の駅で宿泊して、翌日の午前中には、次の会社の寮か。
なんにせよ、終わった出来事含めて己を構成しているということは否定しようがない事実であり、それを結局、どのように自分の中で消化したのかというのは、本人にしかわからないし、それは死ぬ日にわかるのだろう。
人は「今」しか生きられない。
過去にも、未来にも生きられない。過去を調べたところで、トラブル事例集にしかならない。
過去トラは大切だが、あくまでも次期車開発に必要なのであって、過去に販売した自動車を変更することはできない。
時間は連続している。少しずつ、緩やかに、残念ながら解き放たれた状態に俺が何かしらによって遷移してきたように。
ぼんやりと自転車を走らせながら戻っていく。壊されたイオンモール横の住宅展示場。イオンモールを挟んで、その逆側には新しい住宅展示場が建てられ始めている。
さあ、Here we go!
友人の一発ネタ。マリオ・ダリオさん、だったか。イタリア人の医者。Brindisi出身で三代まとめてお医者様というエリート。名前が長過ぎて覚えられないと言ったら「マリオ・ダリオでいいよ」といわれたので、それ以来、マリオさんとしか呼んでない。
身長は俺ぐらいなイタリア人。ヨーロッパ特有の長期休みを利用してドイツ語を習得しようとしていた彼とは語学学校で出会った。歳は俺より幾つか若かった。
そんな彼の一発ネタがスーパーマリオの真似。子供達には人気なネタだと笑っていた。
「何故?」片言のドイツ語やグーグル翻訳しながら話をしていた休み時間。
「これで子供に興味を持ってもらってください。それでrepairできたら私は感謝します」。
それで子供が興味を持ってくれて治ればいい。そんなことが言いたいらしい。
ネタ用に付け髭を持っていたマリオさんは、シリア人に「髭生やせば?」と言われながら「髭が浸かったカプチーノは飲みたくない」と拒否していた。
マリオさんは別に一発ネタができなくても、医者である。その本質、技量は別に一発ネタに左右されない。
クソッタレ。やってられないな。
最期は、この部屋か。
自転車を止めて、オートロックをカードキーで開ける。郵便受けは空。ため息を吐きながら、階段を登る。




