童の力が怖いか ラング視点 その3
奥の方でのそりと動く気配がしたものの、こっちに来る様子はにゃい。耳を澄ましてじっとしてると、「フーッ、フーッ」と荒い息遣いが聞こえてくるにゃ。
「怪我してるにゃ?」と恐る恐る聞いてみる。
『なんだ貴様、話ができるのか』と低く唸るような声が聞こえてきた。
「おいら、『ケットシー』のラングって言うにゃ」
『ほう、ケットシーとは珍しい。貴様も捕まったのか』檻の入口を照らす月明かりが一瞬強くなった。
その光に照らされて銀色に輝く毛並みが見えた。高貴な雰囲気もありながら恐ろしい妖気を放っている。
「お前、いや、あなた様は誰にゃ」と聞いてみる。
「童か、そうさなぁ昔からいろいろな名で呼ばれてきたが、さぁどうかな。ここ何百年かは『天狐』と呼ばれているかのぉ」と遠くを見つめるような瞳で答えた。
「どうして、こんなところにいるにゃ?」
「・・・寄る年波には勝てずいい湯宿があると聞いて来てみれば、のんびりできるいい湯だった。あんまりのんびりしてしまってこの始末よ」と捕まっているのにクツクツと自分の状況を楽しんでいるかのように笑う。
「貴様はどうしたのだ。ケットシーは珍しいと捕まったのか」
「おいら他の仲間と一緒に風呂に入ってて、リューが倒れちまって宿の人を呼びに行こうとしてたら捕まったにゃ。リュー大丈夫かにゃぁ・・・」
「そうか、それは災難だったな。こやつらは従魔を捕まえては好き者に売りつけているらしい。懲らしめてやれればと思ったが、童がこれではのぉ」と足を見つめる天狐。
よくみると全ての足に血が滲んでいる。
「血が出てるにゃ」とハッと気づくラング。
「童の妖力を封じ込めた上、逃げないように足を切って行きおった」と忌々し気に話す天狐。
少し弱々しく感じる声に「おいらが治してやるにゃ」とラング。
ゆっくり近づいていく。近くで見ると、銀色に輝く毛並みから滲み出る妖気や鋭い眼差しに圧倒されてしまう。
「童の力が怖いか?」と天狐に聞かれ、
「いんにゃ。あまりに綺麗で見とれてしまうにゃ」と強がってみせるが、
「耳が垂れてしまっているぞ」と笑いながら指摘される。「これでも妖気を封じられて弱くなっている。これ以上加減ができなくてすまぬな」と申し訳なさそうに話す。
天狐の足元に行き、傷に触れる。触られると痛むようで目を閉じる天狐。
「直ぐに終わるにゃ。あんまり大きい声で歌うと上に聞こえちゃうから、小さい声で歌うにゃ」と目をつむり、渾身の気持ちを込めて歌う。(こんな傷を受けるなんてかわいそうにゃ。おいらが絶対治してやるにゃ)
ラングの体がわずかに光り、心地よい歌が流れる。優しい歌声は天狐を包み、痛みをこらえるように閉じられていた瞼がわずかに緩む。歌が続くにつれ次第に穏やかな顔となっていく。
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