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8.内田家の面接 Lv.9


 御年89歳のおじいさま、内田うちだ 恵之介けいのすけさんが奥のこちらから向かって右、85歳のおばあさま、知子ともこさんが左のソファーに着座された。先導してきた真弓美さんは、恵務お兄さまとヨッシーさんの間に座られた。

「エ、エヘン」と深く腰掛けたおじいさまが咳払いをされる。おばあさまはソファーの前のほうに背筋を伸ばして腰かけておられる。

 背筋を伸ばしていたボクは、さらに上半身が緊張する。


「お前は、髪の毛はばあさんの遺伝だな」とお茶をひとくち口にしたおじいさまが、お父さまにむけて話し出す。

「今のお前の年の頃、わしはもう、頭のてっぺんが光っておった」

 そう言うと、おじいさまは、横にわずかに髪の毛が残った頭のてっぺんあたりを右手で撫でた。

「それとも、やはりわしのほうが苦労が多かったからか」

と言うとおじいさまは、もうひとつ咳払いをして続ける。

「恵務、隔世遺伝かもしれんから、お前もそろそろ...」

「おじいさん。お客様を前にして、何をおっしゃてるんですか」とおばあさま。


「本題に入りましょうか。父さん、母さん」とおじいさま、おばあさまに向けてお父さまが言う。

「あちらにおられるのが、ツバサ君です」とボクを指す。

「は、初めまして。城之内 翼と申します」

 一礼して続ける。

「タエコさんとは...同じ会社で働いて、懇意にしていただいています」

「Aなんとか、とかいう会社だったな」

「AGLですよ。おじいさま」と恵務お兄さま。

「何人ぐらいいるのだ?」

「ええと、フルタイムのアルバイトを含めて150人くらいです」とボク。

「ちっちゃな会社だな」

「ゲームの制作会社としては中堅で、人気作も続けて出しているとのことです」とお父さま。


「で、タエコはコンピューターの仕事をしていると聞いておるが、君はどういう仕事をしているのだ」

「グラフィックデザインです」

「なんだ、その、グラなんとやらというのは」

「ゲームの中に登場する人物や物、風景とかを作り出す仕事です、おじいさま。作品の人気を左右する、重要な役割です」とタエコが助け舟を出してくれた。


「タエコ。お前には、それなりの大学で学位をとってから、社会に出てもらいたいと思っておった」と重々しくおじいさま。

「休学してゲームの会社で働くのは、社会勉強の一環ということで黙認しておった。それが、大学をやめるというのはどういうことだ」

 徐々におじいさまの声が大きくなる。

「お前が東京に行くのを許した条件が、学士号を取るということだったはずだ」

「おじいさま。約束を破るようなことになってしまって、本当に申し訳ありません」とタエコ。しっかりとおじいさまを見つめて話し続ける。

「でも、いま心の底からやりたいことは、ゲーム作りなんです」

「大学に戻って卒業して、それからでも遅くはなかろう」

「このままAGLに残れば、ステップアップできるチャンスが、目の前にあるんです。だから...わかってください」


「わしは中卒で、学歴が無くて苦労した。孫にはちゃんとした学歴をつけてやりたいのだ」

「たしかにタエコは成績もいいし、2年間で単位もしっかりと取っていますから、うまくいけばあと1年で卒業も可能でしょう」とタエコの先輩にあたる恵務お兄さま。落ち着いたトーンでさらに続ける。

「ただ、SH大には退学後5年以内なら復学できる制度があります。世の中では社会人入学の門戸も広がっています。学士号なら、その気になればあとからでも取る方法が、いくらでもあります」

「おじいさまは、学歴はなくともこれだけの事業を作り上げられました。大学の間、少しの時間とはいえ事業の最前線を経験させていただいて、改めておじいさまのやってこられたことの偉大さを感じています」と恵一お兄さま。家業に加わらずに弁護士を目指す条件として、大学生の間、休みの日に配送の仕事の手伝いをされていた。

「忘れないでください、お父さま。私も最終学歴は高卒ですよ」とお母さま。彼女はルミ女の前身の一条女子高校出身だが、お家の事情で進学を諦め、栄優食品流通に就職された。


「ではもう一つの話だ。タエコはそこのツバサ君と一緒になりたいということだが、「入籍」というのは一体どういうことだ。わしの孫が嫁に行くのに、式も挙げぬというのか」

「お気持ちはわかりますが、当人たちの意向ですから」とお父さま。

「式を挙げる甲斐性もない奴に、かわいいタエコをやるわけにはいかん!」と声を荒げるおじいさま。

「おじいさま、落ち着いてください。ツバサ君に失礼です」と恵務お兄さま。

「たしかに...」とおじいさまをしっかりと見つめてボクが言う。

「たしかにうちは母子家庭で、内田家と釣り合うような式を挙げる財力はありません。甲斐性がないと言われても否定しません。けれど、それだからこそ、タエコさんとパートナーになって、一緒に人生を切り開いていきたいと思っています。ボクには...タエコさんがどうしても必要なんです」


「そうか」声のトーンを落としておじいさま。

「お母上が一人きりで君を育て上げたのか。さぞや...苦労も多かっただろう」

「私たちだって」とおばあさま。

「挙式どころか、家族が猛反対する中を、身一つで私があなたのところに転がり込んだじゃないですか」

「そうだったなあ」しみじみとおじいさま。

「たしかに私は苦労をしました。けれど、あなたと一緒に苦労した日々を楽しく思い出します。もしも今のような成功がなかったとしても、決して後悔はしていませんよ」

 そう言うとおばあさまは、ボクとタエコのほうに視線を向けた。

「あなた方二人に、ともに苦労をして絶対に後悔しない覚悟があるなら、私は、反対はしません。いかがですか?」

「はい。その覚悟です」とボク。

「わたしも。おばあさま」とタエコ。


 恵一お兄さまがヨッシーさんに目配せした。二人は立ち上がると応接間を出て行った。

「どうしたんだね」とお父さま。

「ええ。ちょっとした趣向があって」

 そう言うと、タエコは、後ろの大型ディスプレイの電源を入れ、自分のノートPCの蓋を開けてスリープモードを解除する。

 少し間があって、大型ディスプレイにWeb会議の映像が映し出された。

 9分割された画面に、勢ぞろいした面々。

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