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7.朝ですよ。お姫様?


 内田家のダイニングも広々としている。4人掛けのテーブルが最大4つは置けそうな広さ。今夜は8人で食卓を囲むので、テーブルを2つ並べてクロスが掛けられた。

 おじいさま、おばあさまは離れで別にお食事をされるとのこと。すべては明日、対面をすませてからということのようだ。


 天歌あまうた漁港で上がった新鮮なお刺身の数々。海の幸、山の幸に恵まれた天歌の食材をふんだんに使った真弓美さんの手料理。JUJUのクラシックバーガーセットが一気に消化されて、食欲がもりもりと湧いてきた。

 ビールで乾杯し、しばらくすると男性陣とお母さまは日本酒に。

 タエコは専ら食べるほうだ。

「小さい頃からこの子は、柔道やってた恵一よりも食べるんですよ」とお母さま。

「それだけ食べて全然太らないのは、ほんと羨ましいわ」と真弓美さん。


 7時頃から始まった夕食は9時頃に終わった。ヨッシーさんをタクシーで恵一お兄さまが送っていく。

 2つある浴室のひとつを最初に使わせてもらう。交替でタエコが浴室に入る。

「じゃあ、どうぞごゆっくりしてくださいね」と客間へ向かう廊下ですれ違ったお母さま。

 敷いていただいたお布団の上で、ジャージ姿で一息つく。横になると眠ってしまいそうになるので堪えていると、タエコが顔を見せる。

「わたしの部屋に来る?」

 タエコについて2階の彼女の部屋へ入る。東京の部屋と同じように、置かれている物は少なくてきれいに片付いている。これが、タエコが育ち少女時代を過ごした部屋と思うと、感慨深い。


「小学校までは普通だったけれど、中学時代はつらかった。学校でいじめられて、ドラムスの練習とこの部屋でゲームに耽っていた」

「ドラムセットの部屋は?」

「明日見せるね」

「でも、キミは本当にいい友達に恵まれているね」

「すべては高校からかな。マイに声かけてもらって、ミクとヨッシーに出会ってミクッツ始めて。マーちゃん、それからミカ...そうやってできた人の輪が広がっていく」

「ボクもその輪に加えてもらえるんだね」

 タエコは黙って、ボクにキスをした。


「この部屋で寝る?」とタエコ。

「いや、今夜は客間で寝る」

「家族は大丈夫だよ。じいさん以外は」

「おじいさまが筋を通そうとされているなら、ボクはボクで筋を通したい」

「...そう言うと思った。ツバサなら」


--------- ◇ ------------------ ◇ ---------


 目覚めると朝6時。ジャージ上下のままで、タエコの部屋へ向かう。ノックするけれど当然のごとく反応はない。そっと扉を開けて、ベッドで布団にくるまっている彼女のところへ行く。

 顔にかかった布団をずらして、かわいい寝顔をしばらく堪能してから言う。

「朝ですよ。お姫様」

 彼女が目を開いて、ゆっくりと上半身を起こす。

「...朝はたしかに朝のようだけれど...」

 あくびをしながら大きく背伸びするとタエコが続ける。

「わたしはお姫様じゃない。お姫様なら、ミクとルカさんだよ」

「ミクさんは苗字からしてお姫様だとわかるけど、ルカさんもそうなんだ」

 ミクさんは旧公爵家の一族。ルカさんは、天歌あまうた藩十万石の藩主の家柄で、お父さまが旧伯爵家の当主だという。

「じゃあミクさんの結婚は、天歌のロイヤル・ウェディングなんだね」

「そういうことだね」

「なんか改めて気後れしちゃうな」

「心配するな。内田家はじいさんが裸一貫で事業を立ち上げた、生粋の平民だから」


 二人で歯磨きして顔を洗うと、庭に下りて、おじいさまが彼女のために作った防音室を見せてもらった。中にはドラムセット。置いてあったスティックを持って、タエコがドラムスを披露してくれた。さすがに堂に入っている。


 そんなに寒くなかったので、ボクはジャージ上下にコートを羽織って、タエコと約束の散歩にでかけた。

 ところどころ石垣の残っている広々とした城址公園。桜の並木と、背が低いのはモミジだろうか。春は花見、秋は紅葉の名所で賑わうという。

「次は桜が咲いた頃に来ようか」とボク。

「そうだね。みんなでお花見がしたいね」とタエコ。


 城址公園をずっと進むと、十海とおみ県でも随一の文教地区に入る。国立天歌大、ルミナス女子大などの大学。県下有数の進学校の県立天歌高校。そしてタエコの母校、私立ルミナス女子高校。

 日曜の早朝の学校近辺は、さすがに人通りもなく静かだ。

 ルミ女も校門が閉まっていた。隙間から中を覗いただけだけれど、伝統あるお嬢様学校の洗練された雰囲気は味わうことはできた。

「このへんの界隈で、キミは高校時代を過ごしたんだね」とボク。

「制服を着たマイやミカたちが、そのへんの角から曲がって現れそう」とタエコ。

「ルミ女の文化祭は5月だっけ」

「うん」

「来るとしたら花見の時期か、やっぱり文化祭か、迷うね」

「いっそのこと両方?」

「それもありだね」


 内田邸に戻ったのは8時前。ボクはジャージからスーツに着替えると、ダイニングにむかう。日曜日の朝食の食卓を、昨晩のメンバーからヨッシーさんを除く7人で囲む。

「すみません。お待たせしてしまいました」とボク。

「いやいや。だいたい日曜日はこんなものだから」と恵務お兄さま。


 ヨッシーさんが9時頃に内田邸に到着した。

 持ってきたワンピースにタエコが着替えた。そのあと、恵一お兄さま、ヨッシーさん、タエコ、ボクの4人は、タエコの部屋で今日の趣向の最終確認をした。

 オペレーター役になるヨッシーさんが心配そうに言う。

「わああ、緊張しちゃう。私で大丈夫かな?」

「大丈夫。なんかあったら、わたしが駆けつけるから」とタエコ。


 10時少し前。応接間に入る。

 タエコとボクは、昨日と同じ手前側の席。向かって右手のソファーに、奥からお父さま、お母さま、恵一お兄さまの順で並ぶ。左手には奥から恵務お兄さま、一人飛ばしてヨッシーさんの順で並ぶ。

 着座を待つ席も含めて、すべての席の前にはお茶が置かれている。


 10時ちょうど、真弓美さんが先導する形で老夫婦が入って来られた。

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