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5.パートナーのかたち


 12時40分頃に、小柄な男女の二人連れが店に入ってきた。ボクたちの席のほうへとやってくる。コトネさんとカケル君だ。

「すみません。夜勤明けで仮眠をとって、目が覚めたら12時ちょっと前。あわててミカさんに連絡して、支度して来たので遅くなっちゃいました」とコトネさん。

「実は僕も、うたた寝してて寝過ごしました」とカケルくん。

「注文しておいでよ」とミカさん。

 二人がカウンターへ行っている間に、お兄さまとヨッシーさんが隣のテーブルに移る。


 戻ってきて席に着いた二人を、ミカさんがボクらに紹介する。


 女性のほうが、コトネこと永山ながやま 琴音ことねさん。県立天歌あまうた高校のタイシさんの1年後輩にあたる。中学・高校と走り幅跳びの選手だった。高校の陸上部の先輩だったノエルさんの縁でミカさん、タイシさんと知り合いになった。天大あまだい医学部看護学科を卒業し、今年から付属病院で看護師として働いている。

 男性は、カケルこと宮内みやうち かけるくん。コトネさんと同学年で短距離の選手、同じく高校の陸上部でノエルさんの後輩だった。卒業後は天大経済学部に進み、今は天歌市の栄優食品流通に勤務している。

 中学時代からのつき合いだった二人は、今年晴れて入籍したとのこと。


「本部長には、いつもかわいがっていただいています」とカケル君がタエコに言った。

 彼が勤める栄優食品流通グループは、タエコのおじいさまが創業し、天歌市で最大手の企業グループに育て上げた会社。タエコの上のお兄さまが、SH大を卒業して入社し、今は営業本部長をされている。

「病院の夜勤は大変でしょう」とタエコがコトネさんに言う。

「そうですね。最近やっとサイクルに慣れてきました。でもゲーム制作のお仕事こそ、夜昼無しなしですよね」

「ふたんはそうでもないけれど、リリースが近くなったりトラブルがおこるとね」


 1時を回った頃、さっきのバイトの子が色紙とマジックを持ってやってきた。名前を聞いて色紙にサインをしようとしかけて止める。

「こちら、SLデビルズのプログラマーだけれど、彼女のサインもいかがですか」とタエコを指して聞く。

「わあ、嬉しいです。是非、お願いします!」

 ボクが宛名とタイトル名、自分のサインを慣れた手つきで書いて、タエコに色紙を渡す。たしかタエコはサインは初めてのはず。緊張気味に自分の名前を書いて、その子に色紙を渡す。

「ありがとうございます!」とお礼を言う彼女。

「これからも『こわカワイイ』路線でいかれるのですか?」

「そうですね。まあ、いろいろと考えてますので、楽しみにしてください」

 彼女は色紙を大事そうに抱えて立ち去った。


 入れ替わるように、背が高くて髪の長い女性がやってきた。ルカさんだ。

「ごめん、ごめん。クライアントとの打ち合わせが長引いちゃって」

 タイシさんが隣のテーブルに移り、注文を終えたルカさんが席に着く。


 タエコが紹介する。


 ルカこと浅山あさやま 輝佳てるかさんは、ルミ女でタエコたちの2年上の先輩。系列のルミナス女子大学在学中に、司法試験受験サークルでお兄さまとヨッシーさんと知り合った。同学年のお兄さまと同じタイミングで予備試験に受かり、翌年に本試験に受かった。今はお兄さまと同じ事務所の先輩弁護士。

「東京でミクに会ったとき、もうすぐ結婚するって聞いたよね」とルカさん。

「はい。5月とか」とボク。

「そうすると、私は晴れて彼女の年上の妹になる」

「じゃあ、お相手は」

「そう、私の兄。それでヨッシーは私の妹分だから、いずれ君はミクの義理の弟分になるということさ」

 家系図のようなものを頭に描いて、やっとボクは合点がいった。


 話が弾んで30分ほどたったところで、スーツ姿の女性の二人連れがやってきた。ルミ女の先生をしているマーちゃんとクーちゃん。ルカさんとコトネさん、カケル君が隣のテーブルに移り、カウンターで注文した二人が席に着くと、隣のテーブルからヨッシーさんがやってきた。


 タエコが二人のことを紹介する。


 マーちゃんこと早川はやかわ 纏衣まといさん。タエコと同じくドラマーで、ルミ女軽音部の代々続く看板バンド「ルミッコ」のリーダーだった。ミクッツとのコラボセッションはいまでも伝説になっているという。地元の県立十海とおみ大学で物理学を専攻し、卒業後は母校のルミ女で理科の教諭として勤めている。

 そして、クーちゃんこと羽根田はねだ 空良そらさん。ルミ女でタエコたちの1年後輩。文芸部の部長で、文科系の部活の部長会でマーちゃんと知り合い、仲良くなった。マーちゃんを追うように県立十海大学で物理学を学び、卒業後ルミ女の数学の教諭となった。


「このお店はね、私とクーちゃんの思い出の店でもあるんだよ。ねえ」とマーちゃん。

「ええ。節目々々をこのお店で」とクーちゃん。

 十海市では、天歌市より2年遅れて、去年の4月から同性パートナーシップ宣誓制度が始まった。二人はその適用第1号。

「それを決めたのも、このお店なんだよ」とマーちゃん

「でも、お嬢様学校の先生だと、いろいろと言われないんですか?」とボク。

「理事長も学校長もリベラルな考えの方で、二人とも祝福してくださった。理事長は『多様性を認める社会のよい実例となってください』と、校長は『変に言われると貴女方が損をするから、学内での振る舞いには気をつけて』とおっしゃった」


 マーちゃん、というか早川先生とは、ボクは何度かWeb会議で話をしたことがある。AGLの事業開発グループが参画している教育ゲーミフィケーションプロジェクトで、生徒たちにプレイしてもらう教育用ゲームのキャラクターデザインをボクが担当している。県立十海大学と十海市のITベンチャーが中心となって立ち上げた企画で、ルミナス女子大、天大、そして早川先生からタエコを通じて紹介されたAGLがJVパートナー。実証実験がこの秋にもルミ女で実施される予定で、キャラクターのイメージについてボクは早川先生と打ち合わせをした。


 2時を回った頃に、店長の半澤さんがアルバイトの女性を連れて、トレーに載せたスウィーツを運んできた。

「はい。これは店からの差し入れ」

「わあ。ミニチョコレートサンデー」とミクッツメンバーから声が上がる。

「ライブの後とか、ご褒美でいただいていたのさ」とタエコがボクに説明する。

「これからもJUJUを、どうぞご贔屓に願いますね」と半澤さん。

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