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4.城之内のジョー


 列車は12時少し前に天歌あまうた駅に着いた。改札で12時の待ち合わせにちょうど間に合った。

「お疲れさま」と言ってタエコとボクを迎えてくれたのは4人。

「あれ、少なくね? マーちゃんたちは土曜講習あるから遅れてくるって言ってたけれど」とタエコ。

「うん。いろいろあって、さらに3人、遅れてくると連絡があった」とタエコのお兄さま。

「まあ、とりあえず行こう」とお兄さまに先導される形で、6人でランチのお店に向かった。


「JUJU」というハンバーガーショップについては、タエコから何度も話を聞いていた。ミクッツの御用達で、バンドの練習やステージの後は、ほぼいつもこのお店で反省会や打ち上げをやっていたという。

 タエコによれば、食欲旺盛な腹ペコさんにはクラシックバーガーのセットが、そうでない人には野菜たっぷりのベジタブルバーガーのセットがおすすめとのことで、ボクは、食欲旺盛とは言えないけれどクラシックバーガーセットに挑戦することにした。

「わたしはもちろん、クラシックバーガーセット」とタエコ。

「相変わらず『たらふくプリンセス』だね、タエコは」と言った女性は、ミカさん。


 カウンターで6人分の注文をすると、予約席としておさえてあった6人掛けのテーブル2つのうちの一つに着席する。

「忙しい?」とタエコに、ボブカットでつぶらな瞳の女性が聞く。彼女はヨッシーさん。

「今はそんなでもないけれど、昨日の晩に別のグループのトラブル対応に駆り出されちゃって、部屋に戻ったのは朝5時」とタエコが答える。

「大変だね。眠くない?」とミカさん。1000人中999人が文句なく認めるであろう美人。

「うん。新幹線の中でずっと寝てきたし。今は大丈夫」

「しかし、毎日必ず8時間以上は寝ていたタエコが、様変わりだね」とお兄さま。

「人生の最初に十分『寝溜め』してきたってとこかな」


 お店のオーナーらしき男性が、アルバイトの女性2人を従えて6人分のセットを運んできた。

「タエコちゃん。こちらが、フィアンセの方?」

「はじめまして。城之内 翼です」

「こちら、JUJUのオーナーの半澤さん」とタエコ。

「店長って呼ばれてるけどね」と半澤さん。

「店長には高校のときからお世話になりっぱなし。ヨッシーは今でもバイトに入ってるんだよね」

「うん。週に2回か3回」


「あの...」とバイトの女性の一人がボクに向かって言った。

「ジョー・ツバサさんですよね」

「え、ええ。そうですけど」

「私、『SLデビルズ』の大ファンなんです。あとで...サインいただいてもいいですか!?」

「あ、はい。よかったら、どうぞ」

「じゃあ、1時になったらシフト明けるんで、そのあとよろしいですか?」

「いいですよ」


 バイトの女性2人がカウンターに戻って行った。

「ごめんね、プライベートのところ。悪い子じゃないから大目に見てやってね」と半澤さん。

「あの子と私、仲が良くって。『高校の仲間にAGLの人がいる』って言ったら、話に食いついてきて白状させられちゃったの。悪いのは私だから」とヨッシーさん。

「気にしないでください。ファンサービスも大事な仕事のうちですから」とボク。

「じゃあ、どうぞごゆっくり」と言って半澤さんも戻って行った。


 運ばれてきたバーガーに、みんな一斉にとりかかる。ひとくち口にして思わず「おいしい」の言葉がボクの口から洩れた。

「バーガーも絶品だけれど、ポテトもただものじゃないよ。食べて、食べて」とミカさんの隣の男性。タイシさん。

 ボクは夢中で一気に食べて、10分くらいで完食した。

「ツバサにしては珍しい。よほどおいしかったんだね」とタエコがニッコリ。


「ところで『ジョー』は、城之内のジョー?」とお兄さま。

「ええ。『ジョーノウチ』は長ったらしいので」

「私もやったよ、SLデビルズ。ゲームはほとんどやらないけど、面白かった」とヨッシー。

「私は...ごめんなさい。やってみたけれど、やっぱりゲームは苦手で」とミカさん。

「いいんです。そういう方にも楽しんでいただけるような仕掛けを作るのが、ボクたちの使命ですから」

「正式タイトルは『スケアリー・ラブリー・デビルズ』だよね。『ラブリー』が先でもよかったんじゃない?」とお兄さま。

「ええ。そういう案もありました。けれど、イニシャルが...」

「そうか。『LSD』じゃ禁止薬物になっちゃうよね」とタイシさん。


 頃合いを見計らっていたように、タエコが口を開く。

「じゃあ。ひとまずここにいる面々から紹介するね」


 最初に、ミカこと森宮もりみや 美香みかさん。ルミ女のミクッツの二代目ベーシスト兼メインボーカル。市立中学時代のクラスメイトだったノエルさんという男性が、闘病生活の末に亡くなったことをきっかけに医師になることを志し、一浪して国立天歌大学、通称「天大あまだい」の医学部医学科に進んだ。今は5年生で臨床実習中。

 その隣に座っているのが、タイシこと中村なかむら 大志たいしさん。県立天歌高校時代のノエルさんの親友。ノエルさんの最後の日々にミカさんと知り合った。お父さまが医師で、天大医学部に現役で進学。今は6年生で、2月初めに受けた医師国家試験の合格発表待ち。


 タイシさんの隣が、ヨッシーこと吉野よしの 未来みくさん。ミクッツではキーボード兼サイドボーカル。高校2年のときに知り合ったタエコのお兄さまの影響で弁護士を目指し、お兄さまのカテキョーを受けて天大法学部に合格した。今は天大の法科大学院の2年。来年はいよいよ司法試験に挑戦する。

 ヨッシーさんの向かい、タエコの隣に座っているのがタエコのお兄さま、内田うちだ 恵一けいいちさん。タエコの2歳年上で、天大法学部4年のときに司法試験予備試験に合格。翌年の司法試験は不合格だったけれど、その次の年に合格。1年間の司法修習の後、今年から十海とおみ市の法律事務所に勤務している。お兄さまのことをタエコはふだん「アニキ」と呼び、ヨッシーさんは「ケイさん」と呼ぶ。


 ミカさんとタイシさん、ヨッシーさんとお兄さまは、去年の秋、ちょうど同じ頃に婚約した。ミカさんとタイシさんは、ミカさんが卒業するタイミングで結婚する予定。ヨッシーさんとお兄さまは時期未定。「お兄さまが弁護士として独り立ちしたら」とのこと。

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