09 魔導人形対決
09 魔導人形対決
入学式を終え、始業初日を迎えた『王立高等魔術学院』。
校舎の城の周囲には専攻科ごとの寮があり、デザインの全くことなるその建物からは、多くの生徒たちが吐き出されていた。
校舎までの通学路は並木道になっていて、ちょっとした散歩コースのようになっている。
そしてこの通路は金持ちの生徒たちにとって、お披露目の場所にもなっていた。
今日も歓声に包まれる男子生徒がひとり。
彼は魔導人形を従え、衆目を集めながら鼻高々に歩いていた。
「すげぇ……! 見ろよ、あれ、魔導人形だぜ!」
「マジかよ!? 俺、初めて見た!」
「魔導人形って、ごく一部の王族か富豪しか持ってないんだろ!?」
「ああ、とんでもなく高価らしいな!」
「すげーな、あれっていくらだろう?」
噂の男子生徒が立ち止まると、キッチリセットされた髪をさらに撫でつけながら言った。
「キミたちみたいな貧乏人には、逆立ちしたって手に入らないロン」
男子生徒のまわりに、すかさず取り巻きたちが集まってくる。
「おはようスローンくん! まさか魔導人形まで持ってるとは思わなかったよ!」
「さすが、魔導装置では右に出るものがいないリボルビング家の跡取り息子! 憧れちゃうなぁ!」
「ふふ、このくらいは当然ロン」
「しかもメイド型の魔導人形を持ってるだなんて、この学院じゃスローンくんだけだよ!」
「メイド型の魔導人形は学院どころか、この街でもこの一体だけだロン」
「マジで!? 本当にすごいなぁ! 触ってもいい!?」
取り巻きのひとりが魔導人形に触ろうとしたが、スローンと呼ばれた少年はその手をピシャリと叩いた。
「汚い手で触るんじゃないロン。この子に触れていいのは僕だけロン」
スローンは魔導人形の肩に手を回す。
それは人形というよりもカカシにメイド服を着せただけのもので、しかも台車の上に乗せられている。
いちおう台車の車輪の動きにあわせて、せわしなく足をシャカシャカ動かしてはいるが、二足歩行と呼ぶには程遠い。
しかしそれでもこの世界では最先端の魔導人形だったので、それを所有するスローン少年は注目の的であった。
「うおおおっ! すっ……すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!!」
背後から大歓声がおこり、スローンは顔をほころばせながら振り返る。
「まったく大げさだロン、この僕の魔導人形がそんなに珍し……えっ……ええええええーーーーっ!?!?」
大通りのような通学路、その向こうから歩いてくる存在を目にした瞬間、スローン少年は二の句を失う。
桜舞い散るなかを歩く少年は、入学早々バッドと呼ばれるほどの鼻つまみ者。
そんなどうしようもない少年の後ろに、ひとりの少女が付き従っていた。
白磁のような肌の、メイド服の美少女が……!
スローン少年は言葉を忘れたように立ち尽くしていたが、周囲の歓声とざわめきは止まらない。
「す……すげぇ……! あれって、魔導人形だよな!?」
「ウソだろ!? 生きてるっていうか、まるで天使みたいだ……!」
「か……かわいいーっ! こっち向いて!」
スローン少年は嫉妬に狂いそうになっていた。
「ぐっ……! ぎぎぎぎぎ……! あんなに可愛い魔導人形が、この世にあるだなんて……!
僕の理想のとおり……いや、それ以上に、完璧な魔導人形だロン……!
な……なんとかして、僕のものに……!」
スローンは憎き少年の前に立ち塞がった。
「キミ、バッド寮のデュランくんだロン? まさかキミも魔導人形のオーナーだとは思わなかったロン。
どうだい、同じオーナーどうし、ここはひとつ決闘といくロン。
お互いの魔導人形を比べて、どっちが優れているかの勝負をするんだロン。
勝ったほうが負けたほうの魔導人形をもらえるっていう条件ロン」
「いや、いいよ、興味ない」
デュランは断って横を通り抜けようとしたが、取り巻きたちが取り囲んだ。
「おおっと、そうはいかないよ、デュランくん!」
「この学園じゃ、同学年どうしで決闘を申し込まれた場合、正統な理由がない限り断ることはできないんだ!」
「もし断ったことがバレたら、バッド寮が減点されるよ? それでもいいのかい?」
デュランは「別にいいけど」とあっさりしたものだったが、ミカンはそうではなかった。
「やりますです! 相手の方がメイドである以上、逃げるわけにはいかないのです!
どちらが立派なメイドなのか、ハッキリさせるのです!」
デュランは入学式の日に続き、またしても朝から決闘をするハメになってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
通学路で始まったメイド決闘、その内容はメイドに必要な能力をアピールし、どちらが優れているかをその場にいる生徒たちで判定するというもの。
当然、生徒の支持数が多いほうが勝ちとなる。
スローンと名乗るお坊ちゃんが名乗りをあげた。
「まずは僕からだロン! メイド魔導人形に必要なのは荷物を運ぶ能力ロン!
見るロン! 僕のメイドは僕のカバンをこうやって運んでくれるんだロン!」
スローンが指さした先は、ヤツの魔導人形の台車。
台車はもうひとつの台車を牽引していて、そこにはリュックサックが乗せられていた。
「いや、ミカンも俺のカバンを持ってくれてるんだが……」
俺がそう言うと、隣にいたミカンがくるりと背を向ける。
その背中には俺のリュックサックがあった。
周囲にいた女生徒たちが「かっ……かわいいーっ!!」と声を揃える。
「リュックサックをちゃんと背負えるなんて偉いねぇ!」
「しかもついて歩いてくるところ見た!? ヒヨコみたいで超かわいかった!」
「その点、スローンくんの魔導人形のほうは、持ってるっていわないでしょ?」
「そうそう、っていうかそもそも歩いてすらいねーし!」
リュックサックを背負っているだけでここまで褒められるのはミカンくらいのものだろう。
だが実際、小さな身体に似合わない大きなリュックサックを背負う彼女はとても健気で、とても愛らしく見えた。
そしてスローンは取り巻きたちに支持させて、強引に勝利をもぎ取るつもりだったのだろう。
しかし女生徒たちから総スカンにあい、それもできなくなっていた。
「ぐっ……ぐぎぎぎっ! リュックサックを背負えるくらいなんだっていうロン!
僕の魔導人形には、応援機能がついてるんだロン!」
スローンがそう言うと、ヤツの魔導人形の口がパカッと開き、べーと巻き紙を吐き出した。
そこには、『スローン様 世界一かっこいい 愛してます がんばって』と書かれている。
「応援なら、ミカンも得意なのです!」
気がつくとミカンは、エプロンドレスの腹ポケットから出したポンポンを手にしていた。
「フレー! フレー! ご主人さま! がんばれがんばれご主人さま!
チャチャチャ! チャチャチャ! ご主人さまこそ世界一! ミカンはお慕いしております! わーっ!!」
おかっぱの髪とスカートをふわりとなびかせ、まぶしい笑顔で元気いっぱいに踊るミカン。
仔ウサギのようにぴょんぴょん飛び跳ねてポンポンを振り上げ、腰に手を当ててお尻をふりふり。
それはとても愛らしく微笑ましく、見ているだけでこっちまで笑顔になるほどにエネルギーに満ちあふれていた。
その応援パワーはすさまじく、まわりの生徒たちはすっかりメロメロ。
とうとうスローンの取り巻きたちまで「きゃっ……きゃわいいーーーーんっ!」と虜にしてしまう。
スローンもすっかり見とれて頬を染めていたが、ふと我に返り、怒りで顔を赤くしていた。
「ぐぎぎぎぃーーーーっ! そつ、そのくらい、たいしたことないロン!
魔導人形に求められるのは強さなんだロン! 行けっ! デュランをやっつけるロン!
デュランさえいなくなれば、ミカンたんは僕のものだロンっ!」
スローンが指さすと、ヤツの魔導人形はぐるりと方向転換し、車輪を空転させる勢いで俺めがけて突っ込んでいくる。
俺は隣にいるミカンを巻き込んではまずいと思い、彼女に「離れろ!」と言った。
ミカンはいつでも俺に従順だったが、この時ばかりは命令を無視。
俺の前に立って通せんぼをする。
「ご主人さまを傷付けるのはダメなのです! このミカンがお相手するのですっ!」
スローンの魔導人形は猛牛のように突っ込んできていたが、無理に飛ばしていたのか途中で車輪が外れてしまう。
傾いた魔導人形は火花を散らす勢いで、俺たちの目の前でドリフトをかましていた。
そのままUターンし、ブーメランのごとくスローンの元へと戻っていく。
予想外の挙動に、スローンは大慌てして。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?
くっ、来るなロン来るなロン来るなロンっ!? 来るなロォォォーーーーンッ!!」
暴走した魔導人形とその持ち主は正面衝突。
スローンは馬車に轢かれたかのごとく吹っ飛ばされ、魔導人形はバラバラになっていた。
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