74 男殺しスマッシュ
このお話が書籍化され、1巻が発売となりました!
Web版をベースに大幅な加筆修正を行ない、オリジナルのお話になっています!
デュランダルやヒロインたちの活躍がさらにパワーアップして面白くなっておりますので、ぜひお手に取ってみてください!
このお話のあとがきの下に表紙があります!
カッコいいデュラン、かわいいヒロインたちをご覧ください!
74 男殺しスマッシュ
地面に埋めたマイモを覆う俺の手からは、地下水が流れるような音が響いていた。
その音に地面が呼応するかのようにふるふると振動し、指の間からポンポンと芽が出てくる。
それはミカンが「あっ」と口をポカンとさせている間に伸びていき、ふさふさして緑々しい枝葉を生い茂らせる。
ミカンは「あわわわっ!?」とひっくり返るほどに驚いていたが、まだまだこれからだ。
俺はマイモに手を当てたまま祈る。
「いいぞ……! その調子だ……! 葉はきれいで、健康そのものだ……! このまま、すくすく育ってくれよ……!」
その願いが通じたのか、マイモの葉っぱは色あせていく。
ミカンはしゅばっとしゃがみこんで、葉っぱに向かって叫んでいた。
「ああっ!? 色がへんになっていくのです! このままだと、枯れてしまうのです! がんばるのです、おいもさん!」
「大丈夫、これは黄変といって、収穫が近くなったジャガイモは葉が黄色くなっていくんだ」
みるみるうちに、イチョウのような黄色の葉っぱとなり、さらに茶色く色ずいていく。
葉っぱ全体が均一に染まったところで魔術の効果が切れたので、俺は土から手を離す。
「ふぅ、これでいいはずだ……!」
ジャガイモはおよそ半年で収穫できるようになる。
近しい品種のマイモも同じくらいだろうと思って、俺は魔術で5ヶ月ほど時間を進めてみた。
牛肉を熟成させたときも同じくらいの期間をかけたが、精神力の消費が膨大で、終わったあとは精魂尽き果ててしまった。
体感的には、肉を熟成させるよりも、植物を育てるために時間を進めるほうが、より精神力の消費が大きいようだ。
でも今回は『インフィニットマジック』があったおかげで、精神消費の代償なしに魔術を使うことができた。
「あとは、どれくらい育っているかだな」
マイモを育てるのは初めてだったし、魔術を使って育てたのも初めてのこと。
下手をすると、種芋までダメになっている可能性があるが……。
「たのむぞ……!」
俺は祈るような気持ちで、マイモの茎に手をかける。
ミカンが、やりたそうにじーっと見ていたので、
「よし、それじゃあミカン、お前が引っこ抜いてくれ」
するとミカンは、初めてイモ掘りに来た子供みたいに顔を輝かせた。
「よ……よろしいのです? なら、ミカンにお任せくださいです!」
ミカンは力こぶのない腕をむん、と振り上げ、気合いじゅうぶんにマイモの茎を両手で掴む。
両足を突っ張るように伸ばして、うんうんとマイモを引っ張りはじめた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次の日の朝、デュランダルはいつもよりすこし早く起きる。
昨晩手に入れた、原初魔法の本のページの過去を視るためだ。
まるでクリスマスの次の日の子供のように、待ちきれない気持ちのデュランダル。
昨晩はカラッポだった精神力が満ち足りていることを確認すると、ベッドから飛び起きた。
枕元に置いておいたページを取り、グラシアの呪文を使ってみる。
が、なにも起こらなかった。
『グラシア』は人間に対して使うと、俺の手のひらから光が現われる。
その光を壁に向かって投影すると、対象の人間の過去の行動を、魔導映写装置のように見ることができるのだが……。
だが物に対してかけてみても、彼の手から光は現われなかった。
呪文のレベルを上げてみても、それは変らない。
「ダメか……」
アテが外れてガッカリするデュランダル。
しかしクヨクヨしてもしょうがないと思い直し、気分転換に庭に出る。
昨晩、彼が庭に出しておいた妹へのおすそ分けは、ぜんぶきれいに食べられていた。
しかし、手紙がビリビリに破かれていたのと、皿が舐めたみたいにピカピカにになっていたので、すこし不審に思う。
「もしかしたら野犬が食べたのかもしれないな」
なんにしても、登校までまだ時間がある。
庭には昨日、ミカンが庭に開けた大穴があったので、スコップを使って埋め戻した。
せっかくだからと、そこに畑を作ることにする。
収穫したマイモはまだだいぶ余っていたので、種芋として畑に植えてみた。
畑に魔術をかければすぐに収穫できるが、デュランダルは、今回は普通に育ててみようと決める。
マイモはまだ台所にたくさん残っていたからだ。
そうこうしているうちに登校時間になったので、デュランダルはいつものようにミカンを引きつれて寮を出た。
通学路の途中にあるバスケットコートを通りかかったところで、彼は違和感に気づく。
昨日まではバスケットコートにだったそこは、テニスコートに変っていた。
男子のチームがコート内で練習しており、女子が外の芝生でシュート練習をしている。
一夜にしてバスケットコートがテニスコートになったので、デュランダルはわずかに面食う。
「なんで変ったりしたんだ? でもまぁ、部活をやってない俺には関係ないことか」
「あっ、ご主人さま! あそこに、グラシアさまがいるのです!」
ミカンが指さした先には、壁際に立っている、というかどう見ても立たされているグラシアがいた。
彼女の後ろにある壁には、テニスコートの相手サイド風の絵が描かれている。
グラシアの前には数人の女子テニス部員が立っていて、グラシアめがけてサーブを放っていた。
顔めがけて飛んできたボールに、グラシアは「きゃっ!?」としゃがみこんでしまう。
「ちょっとぉ、なんでよけるのよ!」
「それじゃ練習にならないでしょ!」
「かばうような顔じゃないでしょうが!」
制服姿のグラシアを、容赦なく怒鳴りつける女子部員たち。
リーダーらしき女子部員の手には、デュランダルが昨日グラシアに貸したリュックがあった。
「これ、返してほしいんでしょ!? 次よけたりしたら、これ、焼却炉に入れちゃうから!」
よろよろと起き上がるグラシア。
「そ……それ……だけは……許して……くださいっ……!」
「へぇ、こんな汚いリュックがそんなに大事なんだ! だったら、ちゃんと練習に付き合ってよ!」
「は……はひ……!」
「じゃあ次は、マジの必殺スマッシュいくからね! よけたら焼却炉だからね!」
「そ、そんな……!?」
青ざめるグラシア。対象的に、取り巻きの女子部員たちは大盛り上がり。
「うわぁ、マジで『男殺しスマッシュ』やっちゃうの!?」
「あんたのスマッシュって、男子でも止められないのに!」
「グラシア、死ぬ気で受けなさいよ! そのブッサイクな顔面で!」
「そうそう! あんたの場合、ボールを受けたほうがかわいくなるって!」
「ロックくんもそのほうが喜んでくれるわよ!」
ゲラゲラ笑う女子部員たち。
リーダーはサディスティックな笑顔とともに足を後ろに振り上げ、ヒステリックなかけ声とともに、テニスボールを頭上に放り投げる。
「男殺し……スマァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッシュ!!
グラシアは処刑される囚人のように、きつく目を閉じていた。
そのボールが、彼女の顔面を捉える直前、
……バシィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
何者かが手を伸ばし、ワンハンドキャッチを決める。
男子テニス部員のラケットを弾き飛ばすほどのスマッシュが、片手だけで止められてしまった。
グラシアは雷を怖がる子供のように震えていたが、いつまで待っても顔に衝撃がやってこない。
「大丈夫か?」と声をかけられたので、おそるおそる目を開ける。
そして、そこに立っていた人物を目にした途端、メガネごしの瞳をぱちぱちさせていた。
驚きのあまり、言葉が出てこない。
かわりに女子部員たちがその名を叫ぶ。
「でゅっ……デュランダルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
このお話が書籍化され、1巻が発売となりました!
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デュランダルやヒロインたちの活躍がさらにパワーアップして面白くなっておりますので、ぜひお手に取ってみてください!
このあとがきの下に表紙があります!
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