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64 酒場にピッタリの魔術

64 酒場にピッタリの魔術


 ロックやグラシア、上級生たちはいつの間にかいなくなっていた。

 そんなことよりも俺は、呪文化(スペリスト)に夢中。


「ねーねー、デュランくん、なにやってるの?」というミントの声も、耳に入らないほどに。


 嵐を起こす魔術は『ヘドウィド』という名前で登録に成功。

 それで俺は連鎖的に、あることを思い出す。


「あ、そうだ。せっかくだから、アレも登録しておこう」


 アレというのは、今朝、魔導バスケットボールの時に見た魔術。

 アイスクリンの『眇然たる砕氷の礫ラ・ブリーズ・グリッサード』と、フローレンスの『幾千もの棘薔薇サウザンド・ローズ・ソーン』のことだ。


 氷のつぶてを飛ばす『眇然たる砕氷の礫ラ・ブリーズ・グリッサード』は、また魔導スポーツをする時に使えるかもしれない。

 威力が低い魔術だから、呪文の名前のほうは『アイスクリン レベル0』としておこう。


 フローレンスの『幾千もの棘薔薇サウザンド・ローズ・ソーン』は……まあ、なにかに使えることもあるだろう。

 なんてことを考えていたら、待望のアレが現われた。



原初魔法(オリジン)に、新しいスキルが増えました!』



「やった! またレベルアップしたぞ!」


 駄々っ子のように「ねーねー」と俺の服の袖を引っ張るミントをよそに、ステータスウインドウを開いてみる。

 そこには、呪文たちがそうそうと、そして新しいスキルがあった。



 原初魔法

  デュアルマジック

  ショートキャスト

  インフィニットマナ


 登録呪文

  アイスクリンレベル0 アイスクリンレベル1 アイスクリンレベル2 アイスクリンレベル3

  ザガロレベル0 ザガロレベル1 ザガロレベル2 ザガロレベル3

  グラシアレベル0 グラシアレベル1 グラシアレベル2 グラシアレベル3

  シャーベラレベル0 シャーベラレベル1 シャーベラレベル2 シャーベラレベル3

  ダッシュレベル0 ダッシュレベル1 ダッシュレベル2 ダッシュレベル3 

  ヘドウィドレベル0 ヘドウィドレベル1 ヘドウィドレベル2 ヘドウィドレベル3 



「新しく増えたのは『インフィニットマナ』か……。なんだか強そうな名前だな」



 インフィニットマナ

  1日1回、精神力を消費せずに魔法を使うことができる

  ただし自分の最大精神力を上回る魔法を使うことはできない



 俺は思わず「おおっ!」と声をあげていた。


「これはいい! いざって時に役に立ちそうだな!」


 実を言うと、ヘドウィドからコピーした嵐は、けっこうな精神的負担をもたらした。

 威力がバツグンなだけあって、精神力消費もかなりのものだったんだ。


 でもスキルが増えたのもあって、その疲労すらも心地いい。

 ふと気づくと、ミントが散歩に行きたがる犬みたいに、俺の手を引っ張っていた。

 同時に塔内に、夕刻の鐘が鳴り響く。


「デュランくーんっ! ねえってばー! もう行こうよぉー!」


「あ、もうこんな時間か。じゃ、そろそろ帰るとするか」


 と、その前に……。

 俺は、ズタボロになった剣士たちが、四つん這いのままソロリソロリと這い逃げていくのを見逃さなかった。


「おい、先輩」


 その尻に声をかけてやると、先輩方は尻尾を踏まれた犬みたいに飛びあがる。


「きゃぃぃぃぃーーーーんっ!? ななな、なんでしょうっ!?」


 俺は床の片隅に散らばっているキノコを示した。


「救護室に行くんだろう? だったらうちのクラスの連中がいるはずだから、ついでにキノコを届けてやってくれないか? 明日、授業で使うんだ」


「はっ……ははは、はひっ! よよよ、よろこんでぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」


 先輩剣士たちは、取ってこい命令を出された犬みたいに、ピューッと片隅に走っていく。

 キノコを拾い集める姿を横目に、俺たちは『フクラキノコ狩場』を出た。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 それから俺とミントは昇降機を使って塔を出る。

 学院からも出て、街の大通りを歩いていた。


 俺たちは大きな包みを抱えていたので、道行く人たちはみな何事かと立ち止まる。

 ミントはそんな視線も気にせず、ニコニコ笑顔だった。


「いやー大漁大漁! これだけあれば、余裕でしのげそうだよ!」


「しのげるって、何が?」


「ああ、うちの酒場、ステーキコンテストの優勝がきっかけで、いま多くのお客さんが来てるんだ。朝から行列がでてきてて、食材が1日ぶん持たないかもしれなかったんだけど……」


「なるほど、それでフクラキノコを採りに行ってたのか」


「うん!」と弾ける笑顔のミント。


 フクラキノコは水に浸けると膨れ上がるという性質があり、大きくなっても風味は損なわないときている。

 キノコにしては腹持ちも悪くないので、大食漢だらけが訪れる剣士たちの酒場には、ピッタリの食材だろう。


 俺たちが角を曲がって通りに出ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 酒場『剣の舞亭』の外には、冒険から帰ったばかりのような、薄汚れたむくつけき男たちが列をなしていた。

 ミントは飛びあがる。


「うわぁ、大変! まさかまだ行列ができてるなんて! しかも朝よりも長くなってる! 急ごう、デュランくん!」


「ああ!」


 俺は『剣の舞亭』でバイトしているので、この事態は他人事ではない。

 走り出すミントのあとに続いて、裏口から厨房へと飛びこんだ。


 するとそこは、戦場のような有様だった。


 料理長である旦那さんは汗びっしょりでてんてこまいになって、フライパンを振るい、鍋をかき回し、足で生地を踏んでいる。

 臨時で雇ったのだろう料理人たちが、そのまわりを右往左往していた。


「み……ミント! 早く帰ってきてくれぇーっ! もう、食材が……!」


 普段は寡黙な旦那さんが、最前線の兵士のように叫んでいる。


「お……お待たせ! パパっ! デュランくんのおかげで、こんなにたくさんフクラキノコが採れたよ!」


 ミントは弾丸補充をする兵士のように、戦列に加わる。

 俺もあとに続こうかと思ったのだが、


「なっ……ないぃぃぃぃぃーーーーっ!?」


 カウンターにいるおかみさんが、またしても弾切れの兵士のように叫んでいた。

 厨房はひとまずミントに任せることにして、俺はおかみさんのほうへと走る。


 おかみさんは魔導保冷庫の前で、絶望に打ちひしがれていた。


「おかみさん、どうしたんだ!?」


「あ……ああっ、デュランダル!? どうもこうもないよ! 客が多すぎて、酒に入れる氷が無くなっちまったんだ!」


 保冷庫の隣にあるカウンターには、おびただしい数の木のジョッキが並んでいる。

 その奥にある店内では「酒はまだかーっ!」と暴動寸前の客たちが。


 実家のオヤジがそうだったように、剣士たちは、熱い料理を冷たい酒で流し込むのが大好きなんだ。

 キンキンに冷えたビールですら、氷を入れて飲むくらいだからな。


 そんな相手に、ぬるい酒を出したりなんかしたら、怒って帰ってしまうかもしれない。


「よし! おかみさん、俺に任せろ!」


「任せろったって、どうやって!? あああっ、せっかく繁盛したのに、これじゃなにもかもおしまいだよぉ!」


 全財産を失った人みたいに、うなだれるおかみさん。

 俺はジョッキに向かって手をかざしていた。


「アイスクリン、レベル0っ!」


 ……どばばばばばばばばばばばばばばーーーーーーーーーーーーっ!!


 俺の手のひらから、舞い散る花びらのような氷のつぶてがあふれ、ジョッキの中に次々と着弾。

 アイスクリンの氷は普通の氷よりも冷たいようで、コップの表面まで氷結したかのように、キンキンに冷えていく。


「えっ……!? えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」

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