61 懲りない面々
61 懲りない面々
ヘドウィドの胸にあいた穴、それは身体を蝕むように広がっていった。
ヤツは身悶えしながら断末魔を轟かせ、勢力を失った台風のように小さくなっていく。
「ウォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!」
吹き荒れる嵐、耳を塞ぐような風鳴りも、やがてはそよ風となる。
あたりに静寂が訪れ、俺はホッとひと息ついた。
「やれやれ、静まり返ってこんなに嬉しいのは初めてだな」
ふと全身に震えを感じる。
俺のかと思ったらそうではなくて、俺に密着しているクリンとコインコとミントのものだった。
「う……うそ……」「ほ……本当に……」「勝って……しまいましたわ……」
3人ともよっぽど怖かったのか、歯の根があわないほどに声まで震わせている。
周囲で見ていた生徒たちは、すっかり腰を抜かしていた。
「ま……マジで、倒しちまった……!」
「すっ……すげぇ……!」
「すっ……げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
クラスメイトたちは大歓声とともに立ち上がると、クリンとコインコのまわりに殺到する。
「す、すごいです! おふたりとも、すごすぎます!」
「ヘドウィドって、ボスクラスのモンスターなんですよ!?」
「あまりにも強いから、ヘドウィドと戦うときは、ひとつのクラスの魔術師が集まって戦うのに!」
「それを、たったのふたりで倒しちゃうだなんて!」
「さすがは氷菓姫と、金貨姫……! もう、一生ついていきますっ!」
クラスメイトは大盛り上がりだが、クリンとコインコは戸惑っていた。
「いえ、わたしたちが倒したわけじゃなくて……」
「ここにいるデュランダルくんの力で……」
「またそんな、謙遜しちゃって!」
「デュランダルは逃げてばっかりだったじゃないですか!」
「それもたしかにすごいかもしれませんが、おふたりの活躍に比べたらゴミみたいなもんです!」
クリンとコインコは否定してほしそうに俺を見た。
「そうだな、クリンとコインコ、そしてミントのおかげで倒せたんだ」
俺がそう後押しすると、クリンとコインコは目を丸くして、クラスメイトたちはさらに調子に乗る。
「ほぉら、デュランダル自身もそう言ってるじゃないですか!」
「ミント先輩の矢も、たしかにすごかったですね!」
「偉大なる3人の姫に、拍手、拍手ーっ!」
俺以外に浴びせられる賞賛。
まぁ、無理もない話だ。
俺の放った『シャーベラ』は、ショートキャストでほぼ無詠唱のようなものだったし、嵐のなかじゃ空気の砲弾なんて見えないからな。
「とりあえず、アイスクリン様とコインコ様を、救護室に連れて行きましょう! クラスでキノコ狩りに行くはずだったけど、おふたりのことが心配だわ!」
ふと気付くとクラスメイトたちが、俺からクリンとコインコを引き取ろうとした。
しかしふたりともまだ恐怖が残っているのか、俺の腰に食い込むほどに腕を回している。
しかもまだ足が笑っているようで、ひとりでは歩けなさそうだった。
「おいおい、あまりムチャするなよ、もう少しこのままのほうが……」
「って、デュランダルくんはなんでまだふたりに引っ付いてるんだよ!」
「そうそう、離しなさいよ、嫌らしい!」
俺はもう用済みだといわんばかりに、彼らは強引にクリンとコインコを俺から引き剥がしていった。
クリンとコインコはグッタリしていて、女生徒の肩を借りつつ、俺の前から去っていく。
その背中をやれやれと見送っていたら、まだ俺の胸にしがみついているミントは唇を尖らせていた。
「……デュランくんは、なんでそんなに無欲なの?」
「え? そんなことはないさ。俺にだって欲はあるよ」
「無欲だよ! ヘドウィドを倒したのは自分だって、なんでクラスの人たちに言い返さなかったの!? それに本当だったらステーキコンテストの栄光も、デュランくんに与えられないといけないのに!」
「なんだ、そんなことか。俺はそういうのは興味ないんだよ」
「そんなことか、って……! ……うぅ~ん、デュランくんは本当に変わってるね……」
ミントは驚いたような呆れたような唸り声を漏らし、仙人でも見るかのような目つきになった。
俺が賞とか成績に興味が無いのは、たぶん、幼い頃からずっと争いのなかにいたからだと思う。
実家では、トイレひとつ入るのも戦争だった。
しかしいくらがんばっても、俺は家にいるときは最底辺を抜け出せなかった。
いや……もしかしたら、本気でがんばってなかったのかもしれない。
自分がいちばん下にいることで他の兄弟たちが幸せに暮らせるなら、それがいちばんだって……。
「っていうかミント、そろそろ降りてくれよ」
「いいじゃん別に。せっかくだから、このままフクラキノコの狩場まで連れてってよ」
なにがせっかくなのかはわからなかったが、離れてくれそうもなかったので、俺は『フクラキノコ狩場』へと戻ることにする。
遠巻きに見える入口のところには、さっき俺がとっちめた門番と、グラシアがいた。
「えっ……? 2万……です……か?」
「そうだ。他の職業は1万だが、魔術師科の生徒は2万になったんだ」
「そ……そんな……高すぎ……ます……」
「嫌なら入らなくったっていいんだ。ほら、金を払わねぇんだったらあっちへ行け!」
門番に突き飛ばされてよろめくグラシア。
近くにある物陰にはロックがいて、やりとりを覗き込んでいたのだが、タイミングを見計らったように飛び出してきた。
「ったく、世話が焼けるぜ、このメガネブスは」
「なんだぁ、テメェは?」
「魔術師科の2年のロックだ。2万ってのはボリ過ぎじゃねぇか?」
「ったく、うるせぇのが出てきやがったなぁ……」
「そうカッカすんなって、先輩。こんなところで俺とやりあうつもりかよ?
どうだ、ここはひとつ、お互いの顔を立てて、1万でどうだ?」
「うるせぇって言ってんだろ! こっちはロクでもねぇヤツにインネンつけられてイライラしてたんだ!
2万払わねぇならブッ飛ばすぞっ!」
鬱憤をぶつけるように拳を振り上げる門番だったが、俺がロックの隣までやってくると、またサッと青くなる。
これでもかと避けて、狩場への道を譲っていた。
「どっ……どどど、どうぞ……!」
門番の態度が急変したので、グラシアもロックもポカーンとしている。
俺は振り返って、ふたりに言った。
「どうした? 入らないのか?」
「え……入場料は……?」とキツネにつままれたようなグラシア。
「この塔はみんなのものだ。入場料なんているかよ。さぁ、入ろうぜ」
するとロックは「だ……誰がテメーなんかの助けを……!」と強がっていた。
しかしグラシアは「は、はい……! ありがとう……ござい……ます……!」と喜々として俺のあとに続く。
「お、おい、待てよ、グラ……メガネブスっ! ……チクショウっ!」
ロックは壁を蹴りつけていたが、やがてしぶしぶ俺のあとについてきた。
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