59 暴風モンスター暴走
59 暴風モンスター暴走
話し合いの結果、『フクラキノコ狩場』はフリーになった。
あれほど入りたがっていたはずのミント、そして他の入場希望者たちは、立ち尽くしたまま俺を見ている。
「でゅ……デュランくん……いま、なにをやったの……?」
手品を見たかのようなミント。
「え? ただ話し合っただけだ。物わかりのいい先輩で助かったよ」
すると、ざわめきが止まらなくなる。
「あ、アイツ、誰だよ……!?」
「バカ、知らねぇのかよ、アイツがデュランダルだよ!」
「マジかよ……! アイツが、噂の落ちこぼれ……!?
新入生のクセして、上級生の門番をあんなにビビらせるだなんて……!」
「お前、なんにも知らねぇのな! 午前の授業で、スターフィッシュ様をワンパンで保健室送りにしたんだぞ!」
「マジでっ!? あのバケモンみたいなスターフィッシュ様をワンパンできるのは、悪魔くらいのもんだろ!?」
「ああ、アイツは悪魔だよ……!」
入場希望者はみんな上級生のようだったが、すっかり怖れおののいていた。
そのなかでひとり、ジャラシを振られた猫みたいに目を輝かせている先輩がひとり。
「す……すごい……! すごいすごいすごいすごいっ! すっごぉぉぉーーーーいっ!!」
ミントはあふれる感情を抑えきれなくなったかのように、ピョーンと飛びあがって俺に抱きついてくる。
そして感極まった様子で、ゴロゴロ頬ずりしてきた。
「もうっ! デュランくんってば、どこまですごければ気が済むのっ!?
ああん! デュランくん、最っ高ぉぉぉぉーーーーっ!
もう離したくない! 離さないんだからっ! うにゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」
「興奮しすぎだよ。それよりもキノコを採りに来たんだろう? だったら……」
「そろそろ降りてくれよ」と言おうとした直前、悲鳴が割り込んでくる。
「たっ……たいへんだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
見ると、廊下の先のほうから、ひとりの男子生徒が血相を変えながら走ってきていた。
「へ……『ヘドウィド』が出たぞっ! こっちに向かってやって来てる!
アイスクリン様とコインコ様が食い止めてくださっているが、いつまで持つかわからない!
早く逃げろっ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」
『ヘドウィド』……。
たしかタチの悪い風の精霊で、嵐を起こして人を襲うモンスターだったはず。
俺はミントを降ろすのも忘れ、男子生徒が来た方角に向かって走っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エントランスを出てすぐの廊下は、大河のように広い。
しかしその先では、濁流のような突風が氾濫していた。
高い天井の上には、腕組みをして見下ろしている風の精霊『ヘドウィド』。
彼の視線の先には、見えない荒波に翻弄されるような少年少女たちがいた。
ヘドウィドはこの廊下を嵐で包みながら、エントランスに向かって突き進んでいる。
エントランスに到着したが最後、そこにいる生徒たちは大惨事に見舞われるだろう。
誰もが逃げ惑うなか、ふたりの少女が立ちはだかっていた。
「……皎々たる雹薔薇っ!」
「……黄金の熱血潮流っ!」
少女たちのかざした手から、ナイフのような氷柱と弾丸のような金貨が放たれる。
しかし、彼女たちは立っているのもやっとの状態で、狙いがまったく定まらない。
しかも、ヘドウィドは風を自在に操り、自分の前に飛んできた魔術の軌道を歪めている。
ヘドウィドはその場から一歩も動いていないにもかかわらず、一発の被弾も許していない。
それどころか、氷柱とコインを自分の周囲にグルグルと巡らせ、ジャグリングのように弄んでいる。
「つ……強い……!」
「わ……わたくしたちの攻撃魔術が、まったく通用しないだなんて……!」
少女たちは、ふたりとも魔術の天才少女としてもてはやされてきた。
相手が人であってもモンスターであっても、模擬戦では圧倒的な勝利を収めてきた。
たとえ実戦であったとしても、この塔の2階に出現するモンスター程度であれば、彼女たちなら瞬殺できただろう。
しかしいま、目の前にいるモンスターは違う……!
完全なる、ボスクラス……!
圧倒的な、格上……!
それをまざまざと、思い知らされていたのだ……!
すっかり戦意を喪失しつつあった少女たちを、ヘドウィドはつまらない表情で見下ろしている。
飽きたオモチャを捨てるように、クイ、と手を払った。
……ゴオッ!
回廊が震えるほどに鳴動、ヘドウィドの周囲にあったツララやコインが、まるで意志を与えられたかのように、かつての主人にたちに襲いかかる。
突風のせいで、立っているのもやっとの少女たちは、自分の放った魔術でズタズタに……!
「いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
死の嵐に飲み込まれかけた直前、ふたりの身体は横薙ぎの突風によってさらわれる。
腰を抱えられ、フワッと浮き上がるような感覚。
ふたりとも目をきつく閉じ、最後の時を待っていたのだが、なぜか痛くもかゆくもない。
おそるおそる瞼を開けてみると、そこには……。
「でゅっ……デュランくぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
疾風のように現われた少年に、少女たちは大絶叫。
少年は彼女たちに、待たせたなと言わんばかりの笑みを返していた。
「ふたりとも、よくがんばったな。あとは、俺がなんとかするよ」
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