55 デュランダルvsスターフィッシュ
55 デュランダルvsスターフィッシュ
タンコブ兄弟たちは、ほとんど柄だけになった木刀を手に大騒ぎ。
「なっ、なんだ、なんだよいまのっ!?」
「こ、この木刀、学院の購買で買ったばかりなんだぞっ!?」
「そ、それなのに、それなのになんで!? なんでなんでぇーーーーっ!?」
プリンもすっかり驚いていて、目をパチクリさせている。
俺は、彼女に声を届けるつもりで言う。
「お前たちの木刀は、ヤワカシの木で作ったやつだな。
ヤワカシは加工が簡単だし、ニスを塗ると黒光りして強そうに見えるから、木刀ではよく使われる。
でも柔らかいから、シロカシ相手だと簡単にへし折れちまうんだ。
だから木刀を買うことがあったら、なんの木でできてるか必ずチェックするんだぞ」
俺の説明に、プリンは「う、うん……」と思わず返事をしていた。
そのプリンの姿がいきなり見えなくなる。
……ぬぅっ……!
まるで、星が降ってきたかのような巨躯が、タンコブ兄弟たちの後ろに立つ。
俺は、大いなる影に覆われていた。
「デュランダル、だーいぶ、いい調子みたいだねぇ!」
その男は巨体に似合わない甲高い声とともに、タンコブ兄弟たちを片手で軽く払いのける。
それだけでタンコブ兄弟たちは「わあっ!?」と紙クズのように吹っ飛んでいった。
俺は、少々のことでは驚かないだけの胆力は身に付けているつもりだった。
チョーカーを相手にしても、ナイツ・オブ・ザ・ビヨンドとやりあっても、取り乱したりすることはなかった。
だがこの男に睨まれると、俺は蛇を前にしたカエルのようになってしまう……!
「す……スターフィッシュの兄貴……!」
「デュランダル、お前もこの学院にいたなんてねぇ! だーいぶちっこかったから、見えなかったよぉ!
よし、それじゃあ、久々に手合わせしようか! お互い、だーいぶ本気でね!」
俺はギョッとなる。
それまで決め込んでいたプリンも、青い顔で割って入ってくれた。
「ま、待つし、スターフィッシュの兄貴! 本気の手合わせだなんて、デュランには荷が重すぎるし! ぜってー死んじゃうし!
手合わせしたいなら、あーしが……!」
するとスターフィッシュの兄貴は、さも意外そうな顔をした。
「おや? ストームプリンはオヤジからの手紙、だーいぶ届いてないのかい?」
「手紙? なんのことだし?」
「ああ、そっか! ストームプリンには別の用途があるしね! だったらだーいぶ傷付けるわけにはいかないなぁ!」
「兄貴、なに言ってるし!? ぜんぜん意味わかんないんですけど!?」
俺にとっては巨女のストームプリンですら、スターフィッシュの兄貴の前には子供扱いだった。
となると俺は赤子同然だったし、実際、実家にいた頃はそうだった。
兄貴たちがいるだけで、自然と身体が震え、背中にじっとりと汗がにじんでくる。
でも俺は、拳を力いっぱい握りしめて自分を奮い立たせた。
「い、いいぜ……! やってやる、本気の手合わせを……!」
「デュラン!?」と目を剥くプリン。
「だーいぶ! そうこなくっちゃねぇ!」と喜ぶスターフィッシュの兄貴。
「俺たち兄妹でダントツに弱くて、手合わせのたびにだーいぶ泣き喚いたあのデュランが、自分からやりたがるだなんてねぇ!
新聞であれこれ書き立てられたせいで、だーいぶ自分が強くなったって勘違いしちゃってるみたいだねぇ!」
俺は逃げ出したい衝動と、熱い胃液が込み上げてくるのを必死に抑えながら、生まれて初めて兄貴を睨んだ。
「俺も家を出て、少しは強くなったんだ……! いいからさっさとやろうぜ、兄貴……!」
周囲の剣士たちは、嵐の木々のようにざわめいていた。
「ま……マジかよ!? スターフィッシュ様が、手合わせするってよ!」
「しかも相手は、あの落ちこぼれひとりだって……!?」
「や……やべぇよ! あの技にかかったら、5人相手でも一発で保健室送りで、半年は出てこられない重傷になるんだぞ!」
「そんなのをひとりで受けたりしたら……新学期早々だってのに、死人が出るぞ!」
どうやらあの技のことは、すでに知れ渡っているようだ。
プリンも百も承知だったからこそ、あんなに必死になって止めてくれたんだ。
実家の山にいた獰猛なクマですら、あの技の前にはウサギのように無力だった。
本気のあの技を受けたら、俺は間違いなく即死するだろう。
実家にいた頃、かなり手加減したあの技を受けたときに、俺は何度も死にかけたことがある。
その時のことは俺にとってはトラウマで、思い出すだけで吐き気がこみあげてくる。
そして気がつくと、周囲の剣士たちは俺のまわりから離れていた。
決闘場のような大きな輪を作っていたのだが、その中心には、対峙する俺とスターフィッシュの兄貴が。
プリンも輪の外に連れて行かれており、他の兄貴たちの手で取り押さえられ、口を塞がれていた。
「さて! それじゃ、だーいぶやるとしようか! ……フンッ!」
目の前にいたスターフィッシュの兄貴が踏ん張ると、盛り上がった筋肉で服が弾け飛ぶ。
そこには筋骨隆々した肉体を、オイルとブーメランパンツ一枚で包むという、兄貴独特の戦闘スタイルがあった。
のっけからあの格好になるということは、兄貴は武器の挨拶すらする気がないらしい。
兄貴なら木刀でやりあったところで、俺を赤子扱いできるだろう。
しかし、木刀のくだりをすっ飛ばすということは……。
兄貴は、本気で俺を殺しに来ている……!?
周囲が止める間もなく、あの技で、俺をひと思いに……!?
その予想の答えは、すぐに出た。
「マッスルゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
スターフィッシュの兄貴は、ボディビルダーがよくやる、筋肉を見せつけるようなガッツポーズを取る。
丸太のような下肢の筋肉が膨れ上がったかと思うと、まっすぐ垂直に跳躍した。
そのジャンプ力たるや人間離れしていて、まるで飛行の魔術でも使っているかのよう。
俺はその後を追うようにして天を仰ぎ、身構えた。
兄貴は俺の頭上高く飛び上がったあと、太陽を背にする。
そして、まるで自分が太陽になったかのように、両手両足をめいっぱい広げた。
テカテカの身体が陽光を浴び、まぶしくてたまらなかったが、俺は決して目を反らさない。
「く……来るっ……!」
「ダァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーイブッ!!」
……ゴッ!
兄貴は俺めがけ、大気を震わせるほどの速度で降下する。
まるで隕石のように迫り来る、かつての肉親。
着弾すると、爆音とともに大地が炸裂した。
……ドゴォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「いっ……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
天を衝くほどに噴き上がる砂煙、そしてプリンの悲鳴。
観客たちは誰もが「終わった……」とつぶやいてる。
「最初に死んだのは、バッド寮の落ちこぼれかぁ……」
「でもせいせいしたな! アイツ落ちこぼれのクセして、でかいツラしてたから!」
「そうそう、今頃はペチャンコになって、あの世に……!」
大の字のポーズのまま、地面に埋もれているマッスルボディに視線が集中する。
しかし土煙が晴れていくにつれ、もうひとつの人影があることに気付いたようだ。
それは、他でもない……。
「あ……あれ? 埋まってるスターフィッシュ様の隣に、誰かが立って……えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」
そう、この俺だ……!
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