54 あたらしい宝物
54 あたらしい宝物
『優秀ではないとされる生徒』たちが全員いなくなったせいで、森のなかは俺とプリンだけになってしまった。
他の『優秀な生徒』たちは、森の外に見える校庭で、思い思いに手合わせをしている。
プリンも本当は他の生徒と手合わせをしたいんだろうが、木刀にヒビが入ったからできないんだろうな。
「なんだプリン、気になって見に来たのか?」
「キモ。デュランのことなんて、前世から気にしたことないし」
俺は妹から毒づかれつつ、2本目の木刀の作成に入る。
1本目の木刀を渡してもいいんだが、あれは俺用。
最初に俺用のを作ったのは理由があって、俺が木刀を作るのが数日ぶりだったから、感覚を取り戻すための練習をしたかったんだ。
俺のは多少出来が悪くてもいいけど、プリンが使うものだったら、ちゃんとしたものを作ってやりたいからな。
それにプリンは身体が大きいから、木刀も長くしなくちゃいけない。
切り分けた木材を選んでいると、プリンがひょいと覗き込んできた。
「なんか、超白いんですけど」
「ああ、これはシラカシの木っていって、中が白いのが特徴なんだ」
「デュランといっしょで弱っちそう」
「シラカシは木刀を作るのにいちばん適した木材なんだ」
「木なんてどれも同じっしょ?」
「そんなことはないぞ、木は種類によって得意な用途があるんだ。俺たち人間と同じでな」
「木を人間扱いするなんて、超キモい」
またまた毒づかれつつ、俺は切り分けた木材の中から、真芯にあたる木材を選んだ。
「木なんて、どこを使ったって同じっしょ?」
「いや、それも違う。木っていうのは、年輪の外側にあるほど水分を多く含んでるんだ。
加工したあとにその水分が飛ぶと、木にヒビが入ったり、割れたりすることがある。
でも年輪の中心にある木は水分が少ないから、加工したあとでも変形しにくいんだよ」
「ふーん、デュランのクセして、なんでそんなに詳しいし?」
「実家の近くの森で働いてた、木こりたちに教えてもらったんだよ」
「木こりと話すだなんて、マジキモいんですけど」
「やめろ」
「えっ?」
「俺や剣士たちのことはキモがってもいいが、他の職業をバカにするのはやめろ。いいな?」
俺はついムッとなって、いつもより強い口調になってしまった。
するとプリンは、叱られた子供みたいな表情になる。
「わ、わかったし、もう二度と……って、なんであーしがデュランの言うことなんか……!」
「ほら、できたぞ」
俺が作り上げた2本目の木刀は、野太刀やグレートソードにも匹敵しそうなほど大ぶりの木刀。
しかし白い刀身に流麗に走る木目は美しく、まるで木の聖剣のよう。
思わずプリンも「ちょ……超きれい……!」と見とれてしまうほどだった。
「こ……これ……本当に、あーしがもらっても……?」
「ああ、もちろんだ。俺の、木刀作りの集大成の傑作だぞ」
「あ、ありが……」
まさに聖剣を授かるように両手を差し出すプリン。
しかし受け取る直前、急に夢から覚めたようにハッと手を引っ込めてしまう。
引きつる顔で、ふふん、と斜に構えなおしていた。
「そ……そんなに……このあーしにもらってほしいし?」
「そりゃそうだろ。だって、お前のために作ったんだからな」
「ふ、ふぅん……そこまで言うなら、もらってあげなくもなくもないし」
プリンは、俺の手からサッ! と奪うようにして木刀をひったくり、両手でしっかりと抱きしめていた。
「これはもう、あーしのもんだし。もうぜったいに返さないし」
「返せなんて言わないよ。前の木刀と同じように、大事にしてやってくれよな」
しかし前の木刀は、まだプリンの腰に差さっている。
しかもよく見ると、ヒビ割れたところを包帯でグルグル巻きにしていた。
新旧ふたつの木刀を構え、弾ける笑顔のプリン。
「じゃじゃーんっ! これで二刀流もできるし!」
「お前、二刀流は苦手だっただろ」
「うるせーし、こうやって、ちゃーんと使えるし、うりうり」
プリンはすっかりはしゃいでいて、二本の木刀でツンツン俺を突いてきた。
「おいおいやめろよ、っていうか、なんで他のヤツらにはそうしてやらないんだ?」
「え?」
「お前、先生や他の生徒にすごく冷たいらしいじゃないか」
「そんなの、あーしの勝手だし」
「そりゃそうなんだが、俺といる時みたいに少しは笑顔を見せてやれよ。
そしたら今よりもっとモテて、ボーイフレンドのひとりでも……ぐふっ!?」
おふざけの力加減を越えた突きが、俺の腹にめりこむ。
俺は息ができなくなって、思わず縮こまってしまった。
「お、お前、いきなりなにを……!?」
「うるっせーし! 死ね! このバカデュランっ!」
最近のプリンとのやりとりはぜんぶ、いつもこの捨て台詞で終わる。
プリンは俺に背を向けると、夜叉のように走り去っていく。
森の外で組手をしていたクラスメイトたちに八つ当たりするように、手当たりしだいに打ちのめしていた。
「まったく……あの情緒不安定をなんとかしないと、彼氏なんてできないぞ……」
俺はやれやれと、自分用の木刀を拾いあげる。
たくさん残っている角材を、運びやすいように植物のツタで縛った。
「シラカシの木はいろいろ便利に使えるからな。授業が終わったら荷車でも借りてきて、寮まで運ぼう」
それからようやく森を出ると、いきなり絡まれてしまう。
さっきプリンにボコボコにされていた剣士たちだった。
彼らはアザとタンコブだらけで、兄弟のように見た目の区別がつかなくなっている。
5人兄弟のようにソックリな顔で、俺にすごんでいた。
「おい、待てよテメェ」
「ストームプリン様にちょっと気に入られてるからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ」
俺はなにを言われても構わないと思っていたが、こればかりはプリンに対しての誤解が含まれていたので言い返した。
「気に入られてるわけじゃねぇよ。プリンは俺の妹だから……」
するとタンコブ剣士たちは、ゲラゲラ笑った。
「ぎゃはははは! マジでゴッドファー様が新聞で言ってたとおりじゃねぇか!」
「この落ちこぼれ野郎が、ブッコロ家の人間だってウソつきまくってるってのは本当だったんだな!」
「いや、俺はもうブッコロ家の人間じゃない。でもストームプリンは俺の妹で……」
「コイツ、マジでイカれてやがる! ブッコロ家の人間じゃないのに、俺の妹とか抜かしてやがるぜ!」
「意味わかんねぇ! きっと落ちこぼれすぎて、頭がおかしくなったんだな、ぎゃはははは!」
「とりあえずボコボコにして、二度とこんなホラが吹けねぇようにしてやろうぜ!」
まさに兄弟のように揃った動きで抜刀する、タンコブ兄弟たち。
遠巻きはプリンがいて「助けてほしい?」みたいなニヤニヤ顔で見ている。
しかしその必要はなかった。
俺が腰に提げていた木刀を、引き抜きざまに一閃させると……。
……スパカァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
手刀でビール瓶を切ったかのように、タンコブ兄弟たちが構えていた木刀が、まとめて真っ二つにへし折れた。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」
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