53 久々の木刀作り
53 久々の木刀作り
木が倒れた衝撃で、森の鳥たちが飛び立ち、もうもうと砂煙が舞い上がる。
立ちこめた砂埃がおさまると、倒木の向こうで唖然とする剣士たちの姿が見えた。
「す……すげぇ……!」
「ほ……ほんの数秒で、木を切り倒しやがった……!」
「アイツ……何者なんだ……!?」
下敷きになった剣士たちは、目を回してノビている。
彼らは校舎の方角からやってきた救護隊によって木の下から引きずり出され、タンカに乗せられて去っていった。
……やっぱり、俺にチョッカイをかけたヤツは保健室送りになる運命なのかなぁ。
それにしても、ノコギリの刃を振動させたのは思いのほか威力があった。
この術式があれば、いくらだって木が切り倒せるかもしれない。
使い道もいろいろありそうなので、できれば『呪文化』しておきたいところなんだが……。
「でも、できないんだよな」
俺は無念さのあまり、思わずひとりごちてしまった。
『呪文化』できる術式にはいくつか条件というか、制約がある。
命名には一定の長さがないとダメというのがあるが、その他にも、術式が完結していないといけないんだ。
今回の高速振動の呪文の場合は、繰返しの術式により成り立っている。
繰返しの術式は、術者の精神力が尽きるまで永遠に繰り返そうとうするんだ。
だから繰返しを終了させるための術式を組み込んでやらなくてはいけないのだが、その術式を俺はまだ知らない。
ちなみにだが、永遠に繰り返す術式、俺はどうやって完結させているのかというと……。
「遏止!」
すると、俺の手のなかでいまだに振動を繰り返していたノコギリが、ピタリと止まった。
『遏止』は、魔術を強制中断する術式だ。
さらに余談になるが、体育の授業で空を飛んだときの術式や、バイト先でキャベツを刻んだときの術式も登録を試みたことがある。
でも、そのふたつも術式が完結していないから、『呪文化』できなかったんだよな。
「いつか繰返しを終了させる術式を覚えたいなぁ、そしたら登録できる呪文の数も一気に増えるのに……」
なんてことを言いながら、俺は木刀作りを再開する。
そこから先の作業も、かなりスムーズだった。
なぜならば俺は、実家にいた頃にさんざん木刀作りをやらされていたから。
プリン以外の兄貴たちは、使い捨て感覚でボキボキ折るので、毎日のように新しいのを作ってたんだよな。
なので作業手順は染みついていて、思い出さなくても身体が勝手に動く。
それにいまはなんといっても、アレがあるからな。
ノコギリを高速振動させて、倒した木を等間隔に切り分ける。
あとはナイフを高速振動させて樹皮を削り、角材サイズに切り分けた。
本当だったら重労働なこれらの手順も、魔術があるおかげであっという間だ。
あとは角材を細かく削って、形を整えてやれば……。
「できた! まずは1本目!」
できたての木刀を掲げると、周囲から「お……おお……!」と驚嘆のため息が漏れる。
「す……すごすぎる……! あれって、マジの木刀じゃねぇか……!
「ああ……! 武器屋で売ってる木刀みてぇだ……!」
「店で売ってるものが、あんな簡単に作れるだなんて……!」
「あれに比べたら、俺たちのは木刀っていうより、ただの、木……!」
見ると、まわりの剣士たちは、枝葉すら切り落としていない木の枝を手に立ち尽くしていた。
どうやら木を切り倒せなかったので、枝をもぎ取ったらしい。
彼らはただの枝と、俺の木刀を見比べたあと、手にしていた枝を投げ捨てた。
そして、ゾロゾロと俺のまわりに集まってくる。
「お……おい! 落ちこぼれ野郎! 俺にも木刀を作れ!」
「そうそう、そのくらいの木刀がありゃ、バカにされずにすむぜ!」
「おら、さっさと作れよ! ギタギタにされたくなかったらな!」
「まあそう脅すなよ! コイツ、ビビって手が震えてるじゃねぇか!」
手が震えてるのは、高速振動の術式がまだ残っているからだ。
俺が「断る」と言うより早く、人だかりの外から声がした。
「キモ」
その一言だけで、剣士たちはみな殺気立つ。
「だ……誰だっ!? 俺たちはキモくねぇ! ブッ殺すぞ!」
振り返るとそこには、木に寄りかかるようにして立つプリンがいた。
剣士たちの形相が、一瞬にして緩む。
「ぷっ……プリンさまぁ~っ」
「ど、どうされたんですか? こんな所に?」
「あっ、も、もしかして、僕たちを応援しに来てくれたんですかぁ?」
剣士たちは揉み手をしながらプリンに近寄ろうとしていたが、バッサリやられる。
「くせーから来んなし。10メートル以上離れろって、いつも言ってるし」
あまりの物言いだったが、剣士は「す、すいませんでした!」と直立不動になっていた。
「さっさと行けし」
「え? どこへですか?」
「校庭100周に決まってるし」
「あっ、しょ、勝負のことを聞いてらしたんですね! で、でも僕たちは負けたわけじゃなくて、コイツがインチキを……!」
「何度も言わせんなし! 消えろ、負け犬!」
プリンが苛立った様子でズダンと片脚を踏みしめると、剣士たちは本物の負け犬になったかのような悲鳴をあげる。
「きゃっ、きゃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーんっ!?!?」
そのまま追い立てられるように森から出ていき、律儀に叫びながら校庭を走り回っていた。
「ぼ……僕たちは負け犬でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっす!!」
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