52 はじめての伐採魔法
52 はじめての伐採魔法
森の中では生徒たちが思い思いの木を選び、えっちらおっちらとノコギリを振るっている。
しかしその音はいまいちで、ガギッグギッと耳障りな雑音ばかり。
どうやらノコギリの刃が木に引っかかっているようで、樹皮の表面を傷付けるだけで精一杯のようだった。
あちこちのペアが「お前が悪い」と言い争いをしている。
「ノコギリの使い方がいいと、ギコギコってスムーズな音がするんだけどな。
まぁ、みんな剣士だから、ノコギリの使い方は慣れてないんだろう」
それは独り言のつもりだったのだが、まわりにいた剣士たがゲラゲラわらった。
「おい聞いたかよ、今の!」
「みんな剣士だから、ノコギリの使い方は慣れてないんだろう、だってよ!」
「ぎゃははははは! ノコギリなんかに使い方もクソもあるかよ!」
「そうそう! ただ突っ立ってる木を切るだけなんて、アホでもできるってのによ!」
「だったら寮対決といこうぜ! 俺たち『ウォーリア寮』全員と、『バッド寮』の木こり勝負だ!」
「いいな! より早く木を切り倒したほうが勝ちで、負けたほうは『僕は負け犬です!』って叫びながら校庭100周な!」
出会ったばかりのクラスメイトたちは、勝手に勝負に仕立てあげていく。
魔術師もそうだったが、剣士たちも決闘や勝負が大好きなんだよな。
そして両者とも、自分の職業こそが最高で、他の職業をバカにするきらいがある。
俺のオヤジもよく言っていた。
木こりは、剣士になれなかったヤツが仕方なくやる職業だ、って。
俺は、そうは思っていない。
実家の近くの森で働いている木こりたちといっしょに仕事をしたことがあるが、彼らは自分の職業に誇りを持っている。
彼らは偉大だ。
だって彼らがいなきゃ家もできないし、家具だって作れないんだからな。
それはさておき、『木こり勝負』はすでに始まっていた。
しかしクラスメイトたちは俺が最下位になると思い込んでいるのか、俺をニヤニヤ見ながらのんびりノコギリを動かしている。
「おらおら、早くしないと負けちゃうぞぉ~?」なんて言いながら。
勝負はともかく、木刀は作らなくちゃいけないので木を切り倒さないといけない。
しかし俺に与えられていたのは、小木を切り倒すのも苦労しそうな小さなノコギリだ。
「普通にやってたら、木を切るだけで授業が終わっちまうぞ……
となるとやっぱり、アレに頼るしかないか……」
でも原初魔法で木を切ることなんて、できるんだろうか?
そう思いかけてすぐ、俺はあることを思い出す。
「そうだ、バイト先でキャベツを千切りにしたときの術式を応用すれば、いけるかもしれないな」
俺の『絶対感覚』があれば、いちど唱えた術式は一言一句忘れない。
「たしか……。
筐裡の第一節に ・ 依代せよ ・ フィンフラ
變成せよ ・ 筐裡の第一節を ・ 喚声から ・ 発破なり……」
あとは繰返しの術式だが、キャベツを千切りにしたときは、包丁の刃と峰から力を放出させ、上下運動をさせた。
しかし、ノコギリは水平に倒して使うものだから、ちょっとアレンジが必要だな。
「えっと……。
「回帰し。
筐裡の第一節を ・ 奔出せよ ・ 腹壁より。
筐裡の第一節を ・ 奔出せよ ・ 裡門より」
包丁を動かしたときは間に休止の術式を挟んだが、今回はナシだ。
詠唱を終えた瞬間、手にしていたがノコギリがブルブル震え出す。
俺は周囲を見回し、木刀に最適な木を探す。
ちょうど良さそうなのがすぐに見つかったので、試しにノコギリをあてがってみると、高速振動する刃が幹を穿った。
……ギィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
まるで火花を散らすように木くずが舞い散る。
ノコギリの刃はどんどん木の中に入っていき、あっという間に幹を半分ほど切ってしまった。
周囲の剣士たちのニヤニヤも、あっという間に消し飛ぶ。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」
「な、なんだあれ!? なんだあれぇーーーーっ!?」
「な……なんであんなに高速で切れるんだよっ!?」
「俺たちはまだ、ノコギリが木に入ってすらいないってのに……!?」
「ば……バケモンか、アイツはっ!?」
「い、急げ! バッド寮に負けたりなんかしたら、一生バカにされるぞっ!」
大慌ての剣士たち。
しかしマトモにやっても勝てないと思ったのか、光の速さで悪知恵を絞りだしていた。
「あっ、そうだ! おい、誰かあの落ちこぼれのところに行けっ!」
「そういや、切ってる最中は邪魔しちゃいけないってルールは無かったな!」
「よぉし、それなら絶対に負けねぇ! 木より先に、アイツを切りたおしてやらぁ!」
数人の剣士たちが「うおーっ!」とノコギリを振りかざし、俺のほうに向かってくる。
しかしもう、決着していた。
「倒れるぞーっ」
いちおう注意してやったのだが、手遅れのようだった。
木はメキメキと音をたてて、妨害役を買って出た剣士たちめがけて倒れていく。
「ふっ……ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
……ずずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーんっ!!
木が倒れ、あたりに激震が走る。
その近くを一列になって走っていた剣士たちは、見事なまでに下敷きとなっていた。
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