51 プリンの宝物
51 プリンの宝物
落とし穴の中になにがあったのかはわからない。
でも救出されたデクノボ先生は全身が真緑色になっていて、そのままタンカで保健室へと運ばれていった。
「俺にチョッカイかけてくるヤツって、どうしてこう保健室送りになるんだろうな……」
なんて思っていたら、さっそく次のチョッカイがやって来る。
「デュラン」
「ああ、プリンか」
昨日あんなに怒っていたのに、プリンは嬉しそうだった。
「やっと剣士科の授業を受ける気になったし」
「受ける気は無かったんだが、担任の先生に言われて仕方なくな」
それだけで、木刀を作らなくていい『優秀な生徒』たちがどよめいた。
「おい、ストームプリン様が、男に話しかけてるぞ!?」
「男嫌いじゃなかったのかよ!? しかも、なんであんな落ちこぼれに!?」
「ストームプリン様っていつも厳しいお顔をされてるのに、あんなに笑顔で……!?」
プリンは後ろにいる生徒たちが全員、自分の下僕であるかのように振る舞っていた。
「へへ、あーし、人気あるっしょ?」
「ああ、たいしたもんだな」
「その点、弱っちいデュランはいっしょに木を切ってくれるパートナーすらいないし」
「ああ、だけどもう慣れたよ」
するとプリンは「そ、その……」と急に言い淀んだ。
所在なさげにしていたのだが、そばにあった岩に片脚を乗せ、女王様のようなポーズを取る。
「ど……どうしってもって、いうなら……」
「どうした?」
「ど、土下座してお願いしたら、パートナーになってあげなくもなくもないし」
「ああ、別にいいよ」
俺は軽い気持ちで断ったのだが、プリンは髪の毛を逆立てるほどに驚いていた。
「なっ……!? なんでだし!?」
「なんでって、他のヤツらのノコギリはふたり用の大きいヤツだけど、俺のはペラペラの小さいヤツだからな」
俺は事実を述べたまでだったのだが、プリンはぐぬぬ……! と歯噛みをしている。
まるで、金持ちの友達からオモチャを自慢され、いっしょに遊べるのかと思っていたら、「悪いね、これひとり用なんだ」と追い返された子供みたいに。
そんな顔をされたら手伝わせてやりたかったが、道具がないことにはどうしようもない。
「それに、お前は木刀をもう持ってるだろう? その木刀、俺が作ってやったやつだよな」
プリンの腰に差している木刀に目をやりながら言うと、プリンはハッとした表情で木刀を背中に隠した。
俺は実家にいた頃は雑用係をやらされていて、兄妹たちの練習用具とかも作らされていた。
木刀も作らされたのだが、兄貴たちはバカ力ですぐ木刀を折ってしまうので大変だったんだ。
「その点、プリンは俺が作った木刀をぜんぜん折らなかった。
最初に作ってやったやつを、ずっと大事に使い続けてくれてるよな」
俺が指摘すると、プリンはかぁ~っと真っ赤になる。
「ちっ……ちちち、ちげーし! こんなの、大事になんかしてねーし!」
プリンは背中に隠していた木刀を前に出し、岩に乗せていた太ももの上に置く。
足を使ってへし折るようなポーズを取った。
「そ……それを証拠に、今からポキッてしてやるし!」
「なに言ってんだお前」
精一杯、強がってみせるように、プリンは引きつった笑いを浮かべている。
「へ、へへーんっ! せ……せっかく作った木刀を、ポキッてされたくないっしょ?
だったらいますぐ土下座して、あーしの下僕になるって誓うし!」
「なんだかよくわからんが、その木刀はお前のものなんだから好きにしろよ。
っていうか、その木刀はもう10年以上になるから、いつ寿命が来てもおかしくない。
使ってる最中に折れると危ないから、いまから折って燃料にでもしたほうが……」
「ふ、ふざけんじゃねーし! ポキッてなんかしねーし!」
支離滅裂なことを喚きながら、我が子を守るように木刀を抱きしめるプリン。
しかし力加減を間違えたのか、ギュッとした瞬間に木刀にヒビが入ってしまう。
「あっ……あぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!」
ヒビ割れた木刀を目にした途端、プリンは半泣きで叫んでいた。
地べたにぺたんと座り込み、ヒビのところをフーフーしたり、ナデナデしたりしている。
「し……しっかりするし! 傷は浅いし! す、すぐ直してあげるんだし!
ああん、もうっ、チョー最低なんですけどぉーっ!? あーしのいちばんの宝物が……!」
「……ありがとう」
いまにも泣きそうな顔を「えっ?」とあげるプリン。
その頭を、俺は撫でてやった。
「その木刀が言ってるよ。いままで大事にしてくれてありがとう、ってな。
だから悲しまなくていい。」
「で……でも……」
「それに心配するな、いまから俺が、新しい木刀を作ってやるから。
それも、10年やそこらじゃない、20年……いや、一生使えるほどの立派なやつを、な」
言いながらプリンの髪の毛をわしゃわしゃしてやると、プリンは気持ち良さそうに目を細めている。
まるで、当時に戻ったかのように。
幼い頃に戻ったような我が妹に背を向け、俺は森の中へと入っていく。
前からは木々のざわめき、背後からは人々のざわめきを感じながら。
「う……うそだろ……? プリン様って、あんなに表情豊かだったんだ……」
「慌てたり照れたりするプリン様、めちゃくちゃ可愛かったなぁ……!」
「でも、なんでなんだ? プリン様は俺たちどころか、先生や兄上にだって不機嫌そうに接するのに……」
「なんであの落ちこぼれだけ、あんなに親しげに……?」
「アイツ……マジでいったい何者なんだよ……!?」
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