48 最強魔術vsレベル1魔術
48 最強魔術vsレベル1魔術
少年の活躍によって周囲は騒然となっていたが、当の少年はそれどころではないようだった。
自軍のゴールのそばで、大の字のうつぶせになったままのフローレンス。
顔の下から血だまりが広がっており、ただならぬ様子であった。
「おい、大丈夫か!?」
少年は試合そっちのけでフローレンスに駆け寄り、助け起こそうとする。
しかし「離せっ! 穢らわしい!」とはね除けられていた。
自力でフラフラと起き上がったフローレンスは、鼻血で顔を血まみれにしていた。
今なおドクドクと垂れながし、血飛沫を待ち散らしながら喚く。
「いまのシュートは無効だっ! そこにいるクソガキが、僕の足を引っ張ったんだぞ!」
フローレンスの豹変ぶりに、観客たちはヒソヒソ話をする。
「うわぁ、見て、アレ……」
「フローレンス様、めちゃくちゃブサイクになってる……」
「しかもミカンちゃんみたいないい子を、クソガキ呼ばわりして……」
「だいいち、自分からボディタッチを許可したんじゃない」
「それなのに反則負けにするだなんて、みっともなさすぎるだろ……」
「う……うるさいうるさいうるさいっ! ボディタッチが許されるのは、僕がボールを持っている時だけだ!
僕がボールを手放した後もこのガキは、何度も何度も……!」
声を荒げるフローレンスは、腰に提げていた杖を引き抜いた。
「試合再開だ……! 僕をこんな目に遭わせておいて、タダですむと思うなよっ……!」
「おいおい、落ち着けよ……」
少年の気づかいも、フローレンスは「黙れっ!」と一蹴。
これ以上の問答は無用とばかりに、一気にまくしたてる。
「咲き乱れる八百万の花! そのなかでももっとも気高く美しい薔薇たちよ!」
それまで呆然自失となり、蚊帳の外にいるように突っ立っていたアイスクリン。
しかし詠唱が始まった途端、弾かれるように顔をあげていた。
「ま……待ってください! 試合で使っていいのは、下級魔術までです! 決闘でもないのに、上級魔術は……!」
「王子であるこの僕に指図するなっ! この僕の持ちうる、最強魔術をお見舞いしてやるっ!
我が元にこぞりて、その諸身を剥けっ! 柔肌を捧げ、我が剣となりて、あやつを撃てっ!」
周囲の者たちはその最強魔術の威力を知っているのか、恐怖に顔を引きつらせ「ひぃぃ……!」と後ずさりしている。
しかし渦中の少年だけは、嬉しそうにしていた。
「おっ! お前の魔術を見せてくれるのか! だったら俺のも……!」
「落ちこぼれの魔術など、どうせそよ風程度だろう! 身の程を思い知りながら、ズタズタになるがいいっ!」
ついに放たれようとする最強魔術に、手をかざして迎え撃とうとする少年。
両者の間に、一陣の突風が割り込んだ。
「やっ……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
それはなんと、通せんぼするように両手を広げたアイスクリン。
彼女はなんと、誰もが怖れる最強魔術の矢面に、自ら立ったのだ。
普段は冷静極まりない彼女とは思えないほどの無謀さ。
そして姫と呼ばれるほどの少女が落ちこぼれをかばうなど、決してありえないことである。
周囲は姫が乱心したのかと大混乱に陥っていたが、いちばん混乱していたのはアイスクリン自身であった。
――え……え……? どうして……?
どうしてわたし、こんな人を、こんなに必死になってかばおうとしてるの……?
デュラン……いや、デュランダルくんは、最低のやり方でわたしの気持ちを踏みにじったっていうのに……。
なんでそんな人を、わたしは必死になって守ろうとしてるの?
気付いたら、飛び出しちゃってるだなんて……ど……どうしてっ!?
「バカ、やめろっ!」
不意にアイスクリンの襟首が掴まれ、強い力で引っ張られた。
そのまま後ろに引きずられ、なにかにぶつかる。
「きゃっ!?」
少女が全身で受けたその感触は、実に不思議であった。
頑丈なのにしなやかで、飾り気がないのに中身が詰まっているようで……。
そして……どこまでもたくましく、あたたかい……。
少年の、胸板であった……!
思わず顔を埋めていたアイスクリンは、ハッとなる。
顔をあげるとそこには、胸を焦がすような、微笑みが……!
「まったく、ムチャしやがって」
「でゅ……デュランくん、どうして……!?」
「それはこっちの台詞だよ。なんで攻撃魔術の前に飛び出したりした」
「そ、それは……!」
許されぬ恋をするように抱きあうふたりに、見とれる観衆。
嫉妬に狂う間男のように、喚き散らすフローレンス。
「うがぁぁぁっ! 呪われた血が売女というのは本当だったんだな!
ならば、いっしょに葬ってやるっ! ……幾千もの棘薔薇っ!」
フローレンスの杖の先から、鞭のようにうねりながら薔薇の棘が飛び出していく。
少年は少女を庇うようにしながら、迫り来る棘にふたたび手をかざしていた。
「シャーベラ、レベル1っ!」
……ドンッ!
号砲のような音とともにあたりの大気が震え、少年の手のひらから、周囲の空間を歪めるほどの空気の波動が撃ち放たれる。
それは単発だったのだが、砲弾のような大きさがあり、棘を弾き飛ばしながら空を引き裂いていく。
棘はすべて蹴散らされ、排挟のように少年の足元に転がる。
ただの一発も届くことはなかったが、しかし少年の砲弾は嵐のような棘のなかを突っ切ってもなお、威力が衰えることはなかった。
その差は歴然、まるで海の覇者のサメが、海のおやつである小魚を食い散らかすような有様であった。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」
「そっ……そんなぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」
観衆とフローレンスの絶叫が交錯し、砲弾はフローレンスのどてっ腹にめりこんだ。
フローレンスは強烈なボディブローを食らったように身体をくの字に曲げ、コートの端まで吹っ飛んでいく。
そのまま金網に、磔にされるように叩きつけられ……白目を剥いて動かなくなった。
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