47 魔導バスケットボールの神
47 魔導バスケットボールの神
引きつれた悲鳴とともにブッ倒れるフローレンス。
シュートのポーズのままコートの床に叩きつけられ、ゴンッと鈍い音を響かせていた。
息を呑む観客たち。静寂のなか、テンテンとボールが転がる音だけがする。
俺は判断に迷う。あれはオンルールなのか? それとも反則なのか?
魔導バスケットボールではボディタッチは反則らしい。
しかし試合開始前にフローレンスは、ミカンにかぎりボディタッチOKと明言していた。
それでも足首を掴んで転ばせるというのは、いくらなんでも……。
俺は審判を見たが、笛を吹こうか迷っている様子だった。
そして俺は、一陣の冷風が肌を撫でるのを感じる。
見ると、誰もが迷っているこの中で、クリンだけは迷いなき瞳で転がったボールを追っていた。
これはオンルールなんだと悟った俺は、慌てて走り出す。
俺のほうがボールに近かったので、いちはやくボールを手にできるはず。
しかしクリンは杖を構えていて、走りながら詠唱していた。
「……眇然たる砕氷の礫っ!」
杖の先から小石サイズの氷塊が飛び出し、投石のように俺の頭を捉える。
「いてっ!?」とのけぞっているうちに、ボールをかっさらっていくクリン。
「な……なるほど、そうやって使うのか……! なら、こっちも……!」
俺も攻撃魔術でやり返そうとしたが、はたとなる。
俺の持っている攻撃魔術は最低でもレベル1、クリンの『皎々たる雹薔薇』と同程度。
上級魔法らしいので、使った時点で反則になる。それ以前に、クリンをケガさせちまうかもしれない。
即興で、威力をさらに減らした術式を唱えるという方法もあるのだが、考える時間なんてない。
クリンは低空を飛ぶ妖精のようなドリブルでゴールに迫っている。
いまから追いかけたところで、シュートを阻止するのは難しいだろう。
「ならば……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
アイスクリンはノーマークでゴール下までたどり着いていた。
倒木をくぐりぬけるような低いドリブルから身体を起こし、そのままジャンプシュートの体勢に入る。
それは魔導バスケットボールにおいてもっとも基本的ともいえるシュートで、悪くいえば地味であった。
しかし彼女にかかれば、それすらも目が覚めるほどの美しいシュートとなる。
観客たちは瞬きも惜しむように、その華麗なる姿を目に焼きつけていた。
しかしその目が、だんだんと大きく見開かれていく。
しかもそれは、シュートをしているアイスクリンも同じであった。
宙を舞いながら唖然とするアイスクリンと、口をあんぐりさせたまま、声のない絶叫をあげる観客たち。
彼らが目にしていたものは、なんと……!
バスケットゴールほどの高さにまで跳躍し、アイスクリンの遥か頭上から抜いていく、少年の姿であった……!
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」
ゴールリングにすっぽり収ろうとしていたボールを、少年は寸前で引き上げる。
そのまま身体を捻ってバッグボードに両足をついた。
まるで忍者のような動きで、バッグボードを蹴って方向転換。
自軍のゴールから、一気にセンターラインまで飛び去っていった。
「う……うそっ!?」
あまりに人間離れした動きに、アイスクリンは我が目を疑う。
しかしすぐに我に返って、追いかけながら氷の礫を撃ちまくる。
ちなみにその時、フローレンスもディフェンスに向かっていたのだが、転び続けるミカンに巻き込まれ、何度もビターンとなっていた。
ノーマークで敵陣を突破した少年は、ゴール下で叫んだ。
「奔出せよ ・ 筐裡の第一節を ・ 不踏よりっ!」
そして人々は目撃する。
『魔導バスケットボール』の、神が降臨する瞬間を……!
「とっ……とんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
誰もが思い込もうとしていた。
数秒前に少年がやってのけたシュート阻止は、朝焼けが見せた悪い幻なのだと。
そうだ、そうに違いないと納得しかけたところで、またしても悪魔が起こしたような奇跡を見せつけられていた。
ダンクと呼ぶにはあまりにも高すぎるシュート、いやシュートと呼ぶにはあまりにも現実とかけ離れた動き。
バッグボードを頭ひとつ追い抜くほどに高く飛んだ少年は、足元にあるカゴにでも入れるように、ゴールに向かってボールをやすやすと入れてしまう。
そして着地し、高く弾んだボールを片手でキャッチしていた。
しかし、まわりが静寂に包まれていたので、少年は戸惑う。
「あれ……? もしかして、やっちゃダメなことだった……?」
次の瞬間、爆音のような大歓声が、少年を包んだ。
「うっ……うそうそうそうそうそっ!? うっそぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?!?」
「なにあのディフェンス!? なにあのシュートっ!?」
「初めて見た! っていうか魔導バスケットボール史上で初めてじゃない!?」
「当たり前だろ! あんなとんでもないディフェンスとシュート、プロリーグでもありえねーぞ!」
「すっ、すげぇ!? なんだアイツ!? なんだアイツ!?」
「メイドの子が言ってたわ! 魔導バスケットボールの神様だって!」
ミカンはすでに立ち上がっていて、得意気に胸を張っていた。
「ふふん、やっぱりミカンの言ったとおりだったのです! ではみなさん、ごいっしょに! せーのっ!」
ミカンが音頭を取ると、観客たちは示し合わせてもいないのに、声を揃えていた。
「かっ……かみさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
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