表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/74

45 意地悪な朝

45 意地悪な朝


 次の日。

 俺はいつものようにミカンといっしょに寮を出て、校舎の城に繋がる通学路を歩いていた。


 後ろからツカツカと足音がして、爽やかな芳香とともに俺を追い抜いていく。

 風になびく長い銀髪に、俺は声を掛けた。


「よう、クリン」


 しかしクリンは振り向きもせず、一瞬だけ立ち止まると、


「もう二度と、わたしに関わらないで」


「え? なんでだよ?」


 しかしクリンはそれ以上答えず、そのまま足早に去っていった。


 なんだありゃ?

 プリンといいクリンといい、女心ってのは本当にわからねぇなぁ……。


 俺にはとうてい理解できないことだと思ったので、深くは考えないようにする。

 気を取り直して歩いていると、ふと道から外れた芝生のところで、女生徒たちがいるのに気付いた。


 集団の中心にはグラシアがいて、木の上を困ったように見上げている。

 その周囲には、見知らぬ女生徒たち、おそらくグラシアと同じ上級生たちが取り囲んでいた。


「ロックくんに色目を使うだなんて、やってくれるじゃない」


「大人しそうなフリして、とんだ女ね」


「あたしらのロックくんにチョッカイかけたりしたら、そんなんじゃすまないよ?」


「いまからそれを、たっぷり思い知らせて……」


「よぉ、グラシア」


 女生徒たちの垣根ごしに声をかけると、グラシアは「ひうっ!?」と振り向いた。


「あっ……あああ……! でゅ、デュランダル、くんっ……!?」


 俺と目があった途端、グラシアは真っ赤になってうつむいてしまう。

 グラシアを取り囲んでいた女生徒たちは、俺を睨みながら舌打ちしていた。


「チッ、落ちこぼれ野郎かよ……」


「マジキモい。こんなのと関わったら、こっちまで落ちこぼれになっちゃう」


「行こう行こう」


 女生徒たちはシラケた様子でグラシアから離れていく。

 俺はまたしても、なんだありゃ? と思ってしまった。


 そんなことよりも、うつむいたまま震えているグラシアのほうが気になる。


「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」


「あっ……ありがござますなら!」


 グラシアはうつむいたままの顔をがばっと下げながら、よくわからないことを叫びつつ、そのまま逃げ去っていく。


 俺がいったい何をしたっていうのか、朝っぱらから嫌われまくりだ。

 なにがなんだかわからないことの連続で、俺は困惑しきり。


 しかし隣にいたミカンは違うようで、キラーンと目の端を輝かせていた。


「あのひと、怪しいのです! なにかを隠しているのです!」


「そうか?」


「ディテクターミカンと呼ばれたミカンには、わかるのです! 追いかけて、聞き出すのです!」


「いや別に、追いかけなくても……」


 俺が止めるよりも早く、ミカンはエプロンドレスをなびかせ走り出していた。

 ミカンはすばしっこいようで走るのが速く、逆にグラシアは走るのが苦手なのか遅い。


 ミカンはあっという間にグラシアに追いついていたのだが、あと少しというところで躓いて転んでしまう。

 「きゃん!?」という悲鳴ともに倒れ、びたーんと地面に叩きつけられていた。


 しかもちょうど伸ばしていた手が、運悪くグラシアの足首をガッと掴んでしまい、グラシアもびたーんとなっていた。

 見かねた俺は、連なって倒れる少女たちの元へと向かう。


 ミカンは土まみれの顔で、グラシアに迫っていた。


「さぁさぁ、観念してくださいです! 隠していることを洗いざらい吐いてくださいです!」


「やめろミカン。悪かったなグラシア、ケガはないか?」


 グラシアは取りだしたハンカチで顔を拭いながら「はひ……」と答える。


「さっき一緒にいたヤツらに、なにかされてたのか?」


「い……いえ……別に……」


 しかしグラシアはチラチラと、さっきまでいた木の上のほうに視線をやっている。

 なにがあるのかと見上げてみたら、そこには魔術の杖が引っかかっていた。


「あれは、お前の杖だな」


 「ははぁ」と全てを悟ったようなミカン。


「謎は全て解けたのです! グラシアさんは、あの杖を使って完全犯罪を企んでいるのです!」


「たぶん違うと思うぞ。意地悪されて、杖を木に引っかけられたんだろう?」


「い……意地悪……だなんて……そんな……。ただ……ちょっと……誤解が……あったようで……」


「誤解されたからって、あんな意地悪をしていいわけじゃないだろ。

 それに、あれが無いと困るんだろう? 取ってやるよ」


 「えっ?」とメガネごしの目を見開くグラシア。

 図書館で封印箱を持ってやったときもそうだったが、自分がそんな風に親切にされるだなんて、信じられないといった表情をしている。


「そ……そんな……悪い……です……」


 やたらと消極的な彼女とは対極的に、ミカンは積極的だった。


「そういうことなら、このミカンにおまかせくださいです! インセクターミカンと呼ばれるほどに、木登りが大得意なのです!」


 ミカンは脊髄反射のような素早さで、木にしゅばっと飛びついた。

 まさに虫のように四肢を蠢かせて上ろうとしていたが、1メートルもいかないうちにズズズッと滑り落ちていた。


 木にしがみついたまま、地面にぺたんと座り込んでしまうミカン。


「うう……。実をいうとミカンは、木登りは初めてなのです……」


「それじゃ、俺がなんとかしてみるよ」


「ご主人さまは、木登りがお得意なのです?」


「実家にいた頃はトレーニングのかわりにさんざんやらされてたよ。でもこの木は高いわりに細いから、登るのは難しそうだな」


 俺は考えるフリをしていたが、もう自分のなかでは答えを出していた。

 女の子のことはいくら考えてもわからないが、こういう問題解決の手段を考えるのは、自分の性に合っているのかもしれないな。


 そして俺にとって問題解決の手段といえば、もっぱらアレ(・・)だ……!

 俺はすでに、術式を紡いでいた。


奔出せよ(ディステア) ・ 筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 不踏より(ソイレク)っ!」


 胃が持ち上がるような浮遊感とともに、俺は一瞬にして数メートル上空まで飛び上がる。

 通りすがりに、木の枝に引っかかっていた魔術の杖をさらい、そのままストンと着地。


 ミカンとグラシアは正反対の性格だと思うのだが、この時ばかりは仲良し姉妹のように、揃って口をあんぐりさせていた。


「す……すごいのです……」


「ほ……ホウキもなしに……空を飛ぶだなんて……」


「ご主人さまは、パーフェクト神様なのです……」


 ポーッと頬を赤くする姉妹。

 その姉のほうに、杖を返してやる。


「ほら、大切にしろよ。それに意地悪されたら俺が助けてやるから、めげるんじゃないぞ」


 そして俺はついクセで、そのままグラシアの頭を撫でてしまった。

 しかし彼女は嫌がることなく、うつむいたままじっとしている。


「は……ひ……あり……が……ござ……ます……」


「ああっ、ずるいのです! ご主人さま、ミカンにも努力賞をくださいです!」


 順番が待ちきれない子猫のように、にゅっと頭を突き出してくるミカン。

 俺は両手を使って、ふたりの少女の頭をナデナデした。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つでも大変ありがたいです!

ブックマークもいただけると、さらなる執筆の励みとなりますので、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼小説2巻、発売中です!
7hvwdlf379apa7yvevb69i01k8og_446_ak_f0_7eof.jpg

▼コミカライズもあります! コミックス4巻、発売中です!
28ljb537fzug5lqw8beiw9gkpb9_17p_8u_53_2km0.jpg 5xum8m9e13ya9l92au875h51lf5c_hn9_3l_53_yys.jpg ggyekgjc9lu18lkkdgnk6rm0dnp6_r7m_3h_50_116r.jpg 4om2fige57u0dmzj2m8s71ickh0b_16s7_3j_50_x2f.jpg 88vrc7ltimlvk2qickpre92gb8ih_107e_3j_50_10h1.jpg
▼小説2巻、発売中です!
iu0q1ytnmg8g2f84e0uajrwaj4hm_5er_3k_52_10m8.jpg b6p06snj3rhy7kof9yna3zmg6aqa_7fe_3k_52_14sq.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] 心音を聞けば心停止しても大丈夫。 主人公ならね? [一言] 心が汚れているのでふた○り少女って読んだけど、そんな自分がキライじゃないぜ!
[一言] みかんの無駄にあふれる自信嫌いじゃないぜ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ