43 プリンの逆襲
43 プリンの逆襲
そのウインドウを見たときに、俺はこう漏らした。
「原初魔法が、俺のスキルに……?」
スキルというのは、たとえば剣術の場合、剣の修行を重ねて自分の技を編み出していくうちに得られる。
ようするに『体得した』という意味だ。
魔術でいえば1種類の魔術が対象になるのが普通なのだが、原初魔法というのはそれよりも上のカテゴリーのような気がする。
いったいどういうことなのか確かめてみるべく、俺はスキルウインドウを開いてみた。
原初魔法
デュアルマジック
登録呪文
アイスクリンレベル1 アイスクリンレベル2 アイスクリンレベル3
ザガロレベル1 ザガロレベル2 ザガロレベル3
グラシアレベル1 グラシアレベル2 グラシアレベル3
シャーベラレベル1 シャーベラレベル2 シャーベラレベル3
ウインドウのレイアウトがじゃっかん変わっていて、『原初魔法』というスキルツリーができている。
「『デュアルマジック』……?」
そうつぶやきながら『デュアルマジック』の項目に触れてみると、説明ウインドウが現われた。
デュアルマジック
ふたつの魔術を同時に使うことができる。
ただし精神力の消費は単体使用の時よりも大きくなる。
「マジっ!?」と思わず声が出てしまった。
魔術というのは基本的に、ひとつの魔術しか行使できないとされている。
たとえば、体育の授業ではホウキを使って空を飛んでいたけど、そこでさらに杖を取りだして別の魔術を使うと、ホウキの効果が切れて落ちてしまうといった具合。
しかしこのスキルがあれば、空を飛びながら攻撃魔術を使うことができるということだ。
そしてこれは俺が思い悩んでいた、もうひとつの問題を解決してくれそうだった。
俺はゴクリと喉を鳴らすと、浴槽の前にしゃがみこむ。
両手を水の中に浸け、親指どうしを絡め合わせてから、たて続けに叫んだ。
「シャーベラ、レベル1! ザガロ、レベル1!」
すると水のなかで、紅蓮の花が咲き乱れた。
隣で覗き込んでいたミカンが、「すご……」と漏らす。
「み……水の中で、火が付いているのです……!?」
「ああ、これは『ひとり合体魔術』だ」
合体魔術……。
体育の授業のとき、俺とアイスクリンが街の火事を消すためにやったやつだ。
アイスクリンが放ったツララを、俺が炎を合わせて水に変えて、火を消した。
ようはその応用なのだが、『デュアルマジック』のスキルがあるおかげで、ひとりでもできるようになった。
それでもこの組み合わせは初めてだったのでいちかばちかだったのだが、思いの外うまくいった。
空気弾があるおかげで、水の中でも炎は消えることなく燃え続けている。
考えたらけっこうすごいことだと思うのだが、まさかそのキッカケが風呂を楽に沸かしたいから、だとはな。
しかし効果はてきめんで、浸けている手がじょじょに温かくなっていく。
ほっこりとした湯気がたち、わずか数秒でいい湯加減の風呂ができあがった。
「よし、風呂が沸いたぞ! この方法なら、いつでもアツアツの風呂が入れるな! さっそく……!」
と、隣を見たらミカンはいなかった。
視線を落とすと、ミカンは洗い場のタイルにひれ伏している。
「も……もう、疑いようがないのです……! ご主人さまは、かみさまなのです……!
こんなにあっという間に、お風呂を沸かせるだなんて……! お風呂のかみさまなのです……!」
「ずいぶん限定的な神様だな。まあいいや、それよりも風呂に入ろう」
「か……かしこまりなのです! ミカンが、かみさまのお背中を流すのです!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ミカンの生まれたままの姿を見たのは初めてだったのだが、人間の女の子とほとんど変らなかった。
泡にまみれた彼女は、ちいさな人魚のような可愛らしさだった。
浴室に石鹸は無かったのだが、ミカンが取ってきてくれた木の実の中に、『アライミ』があったので助かった。
これは、砕いて粉にすると泡だって、洗剤の代わりになるんだ。
最初にミカンの頭を洗ってやって、そのあとはミカンがどうしてもと言うので、背中を流してもらうことにする。
浴室の窓のほうを向いて座ると、背後から声がした。
「あ、背中をごしごしするためのタオルがないのです。ちょっと取ってくるのです」
ミカンはそう言って、とてとてと風呂場から出ていく。
「おいおい、走ると危ないぞ」と言ったそばから「きゃん!?」とシッポを踏まれた仔犬みたいな悲鳴がする。
振り向くと、尻もちをついたポーズで脱衣所のほうまでツツーっと滑っていく後ろ姿が見えた。
ミカンはそのまま立ち上がって出ていったので、ケガはしていないんだろう。
ふたたび背を向けて鼻唄を歌いながら待っていると、脱衣所の引き戸がカラカラと開く音がする。
ヒタヒタという足音が近づいてきてしゃがみこんだあと、アライミを泡立てる音がした。
そして……。
むにゅっ。
と、無限とも思えそうな弾力が、俺の背中に押し当てられた。
その弾力は上下に動き、俺の背中をむにゅり、むにゅりとこすりあげてくる。
「……すごく柔らかいタオルだな。まるでスライムみたいだ」
背中で感じた印象としては、そのタオルは連結したゴムボールのような形をしていた。
間には谷間があって、その谷間が首筋に押し当てられると、両肩にゴムボールがゆさっと乗る。
ゴムボールが寄せられると、むにっと形を変えて両頬に当たる。
その感触はすべすべで、まるでおもちみたいに柔らかい。
あまりの気持ちよさに、思わず頬ずりしてしまう。
「……すごく気持ちいいなぁ。こんなに気持ちいいものがこの世にあっただなんて、知らなかったよ」
肩に乗っているボリューミーな量感に手を伸ばしてみると、先端のようなものがあったのでつまんでみる。
「なんだこれ?」
指先でコリコリしてみると、まるでグミのような感触。
「あんっ!」と声がして、ゴムボールが生きているかのようにビクンと跳ねた。
その艶っぽい声は、明らかにミカンのものではない。
俺はとっさに飛び退いた。
目の前にある浴室に落ちそうになりながら振り向くと、あってはならないものが、そこに……!
「ぷっ……プリィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーンッ!?!?」
バケツで作ったようなたわわなプリンを両腕で抱え、バレたか、といたずらっぽく舌を出す、我が妹が……!
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