41 下された裁き
41 下された裁き
賢者たちは究極の選択を迫られていた。
生涯で最高のステーキだと思っていた牛肉が、なんとデュランダルの手によるものだったからだ。
ちなみにデュランダルは賢者たちのことをよく知らないし、興味すらない。
しかし賢者たちからすれば、デュランダルは不倶戴天の敵で、明日からさっそく抹殺するための会議を開く予定であった。
敵の作った肉を絶賛してしまったと、賢者たちは「ぐぬぬ……!」と歯噛みをする。
「デュランダルが熟成した肉だと知っていれば、吐き出してすむどころか、足蹴にしてやったのに……!」
しかし、審査員席の中心にいた、審査員長の胸章をしていた賢者だけは笑っていた。
「ふははは! 『剣の舞亭』の者どもよ、いままでのコンテストでの扱いを逆恨みして、我らに牙を剥くとはな。
デュランダルの作った肉を食わせることができれば、我らが人肉を食らったほどの屈辱を覚えると思ったのだろう?」
まったくそんなことはないのだが、審査員長は、すべてお見通しだったような態度だった。
「だが甘かったな! 我々がこのあとに出てくるステーキを、デュランダルのステーキ以上に食えばよいだけのこと!
そのラーグ牛はおそらく、市場に流せば億の値はくだらぬだろう!
それだけのものを使っておきながら最下位になるとは、やっぱり貧民の考えることは浅はかだな!」
『剣の舞亭』の面々は、なにを言われているのかわからず、キョトーンとしている。
彼らの態度を、審査委員長はすっかり勘違いしていた。
「ふははははははは! 言葉もないとは、愚策を打ち砕かれたのが、そんなに悔しいか!
賢者である我々に逆らったことを、これから骨の髄まで後悔させてやる! おいダマスカス、次の店のステーキをもて!」
『は……はいだます! そ、それじゃあ次は、王都で毎年三つ星を得ている、最高級レストランだます!』
嗚呼……! 賢者たちは、やはり厚い壁だったのか……!?
ひと口目で吐き出されることはなかったが、『剣の舞亭』の最下位は、なにをどうやっても覆せない……!?
たとえ、あの少年の力をもってしても……!?
……そんなことは無かったのは、もはや言うまでもないだろう。
2店目のステーキが審査員席に運ばれてきた途端、賢者たちはみな青い顔となる。
「うっ……だ、ダメだ……もう、ひと口も、入らない……!」
「な……なぜ……? デュランダルのステーキは、いくらでも食べられたのに……!」
「他のステーキは、見ただけで胸が苦しくなる……!」
『け……賢者様、どうしただますか!? は、早く召し上がるだます!
そして「剣の舞亭」以上のおかわりをするだます! でないと……!』
「う、うるさいっ! そんなこと、わかっておるわ!」
「これから食べるから、黙って見ておれ!」
しかし誰ひとりとして、ひと口すら手を付けようとしていない。
ふと、審査員長が言った。
「……『剣の舞亭』のステーキを、こちらに……」
『え? なんでだますか?』
「『剣の舞亭』のステーキといっしょに食べれば、なんとか食べられると思う……」
なんと賢者たち、あれほどの大口を叩いておきながら、デュランダルのステーキを所望。
しかも他のステーキを食べるための口直しに使うというのだ。
これにはさすがに観客たちからもヤジが飛ぶ。
「なんだよそれ!? そこまでして認めないってどういうことだよ!?」
「今年は、『剣の舞亭』の優勝でしょう!?」
「見ろよ! スコアボードを! 『剣の舞亭』は2万ポイントも付いてるんだぞ!」
「歴代最高記録は110ポイントなんだぞ!? それを圧倒的に上回ってるっていうのに!」
「ふざけんな! ふざけんなーっ!!」
ブーイングに包まれる賢者たち。
これまで賞賛しか浴びてこなかった彼らにとっては、初めての屈辱であった。
審査委員長は、ダマスカスから奪った魔導拡声装置で応戦する。
『……だ……だまれっ! 貧民の店が勝利することなどありえぬのだ!
貧民は、我らの栄光のための踏み台でしかないことを、お前たちもよく知っておるはずだ!』
それだけで、賓客たちは静まり返る。
彼らもまた、賢者と同じ人種だったのだ。
審査委員長は、『剣の舞亭』の面々に向かって命じる。
『さぁ、貧民よ! その熟成牛肉をよこすのだ!』
『剣の舞亭』の3人は、渡してなるものかと牛肉をかばっていた。
「お……お断りだよ! いい加減、認めたらどうなんだい!?」
「そうだそうだ! あんなにたくさんおかわりしといて、最下位だなんて……ひどすぎるよっ!」
『味など関係ない! 腕前など関係ないっ! 結果は、家柄こそがすべて……!
お前たち貧民はどんなにがんばっても、未来永劫、我々に踏みにじられる運命にあるのだ!
逆らうのであれば、もう二度とこの街で酒場ができぬようにしてやるからな!』
酒場を続けられなくなる……。
それは、一家にとっては路頭に迷うことを意味する。
おかみさんとミントはそれだけで心を折られそうになっていた。
しかし、店主の男は違った。
「か……かまわねぇだ!」と声をかぎりにする。
「お……おでたちは……! いっ……いままで、たたっ、耐え抜いてきただ……!
どっ、どんなに、いじめられても……! ひっ、ひと口も食べてもらえず、すすっ、捨てられても……!
すっ……少しでも、おおっ、おいしいステーキを、出そうと思って……! がっ、がんばってきただ……!」
店主はうつむき、握り拳を固めて震えていた。
「こっ……ここっ、この、牛肉があれば……けけっ、賢者様たちに、みっ、認めてもらえると、おおっ、思ったのに……!
おでたちの……! いや、デュランダルの、おっ、思いを、ふみっ、踏みにじるだなんて……!」
店主はキレたいじめられっ子のように、両手をグルグル振り回して突進していった。
「ゆっ……許せねぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「……そこまでだっ!!!!」
怒声を上書きする一喝が、会場を揺るがすほどに響き渡る。
我を忘れた店主すらも正気に戻すその声は、ステージ上からした。
審査員長は歓喜とともに立ち上がる。
「おおっ!? ナイツ・オブ・ザ・ブリザードではないか! まだ逗留しておったとはな!
いやあ、ご苦労ご苦労! いますぐこの狼藉者どもを、手打ちに……!」
しかしブリザードの目は、審査員長を貫いていた。
「黙れっ! このたびの茶番、そして不正! 伝統あるコンテストに泥を塗りおって! 恥を知れ!」
「なっ!? ぶっ、無礼者! 騎士風情が、賢者に向かってなんたる物言いか!」
「お前はもう、賢者ではない! 宮廷料理長グルメシア様は、たいそうお怒りになっておられる!
グルメシア様からの勅命を受け、我らナイツ・オブ・ザ・ビヨンドが、お前たちに裁きを下すっ! ひったていっ!」
ブリザードがそう告げると、会場の警備兵たちが審査員席を取り囲み、賢者たちを乱暴に拘束した。
そのドサクサにまぎれて、ダマスカスは忍び足で会場から離れようとしたのだが……。
背中から貫くような、鋭い声が呼び止めた。
「待て、そこの司会! 調べはもうついているぞ!
賢者たちとの癒着、そして我が夫に対する振る舞い……!
お前は、教育者にあるまじき男だ! 厳罰に処してやるから覚悟しろっ!」
「ぎっ……ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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