39 ステーキコンテスト開催
39 ステーキコンテスト開催
夜の帳が下りつつある『白き塔』。
しかしそこはライトアップされ、昼間のような明るさであった。
塔のまわりには白いテーブルクロスの掛けられたテーブルがいくつも並べられ、さながら天井と壁のない高級レストランのような有様になっている。
テーブルの席には、この国では名の知らぬ者がいないほどの名士たちが揃い踏み。
彼らはみな、ステージに注目していた。
『さあっ! 今年も無事に「塔開きの儀」と「最初の試練」を終えることができただます!
「塔開きの儀」での功績を認められたのはザガロくん!
よって、塔の門は1年間「ザガロ門」と呼ばれるようになるだます!』
ステージ上のダマスカスが、塔の門をサッと指し示す。
門の上には水晶板があるのだが、その上には木製の看板が打ち付けられていた。
きらびやかに飾られた看板には『ザガロ門』と書かれている。
しかし風が吹いただけで、看板はベリッと剥がれ落ちる。
高所から落ちた看板はバラバラになってしまう。
そして覆い隠されていた水晶板が露わになったのだが、そこには、
『デュランダル門』
とあった。
塔の守り神である女神は、デュランダルがいちはやく開門をしたことを見抜いており、塔の施設である水晶板にその名を掲げていた。
しかしそれをどうしても認めたくない一部の人間が、わざわざ看板を作って真実を覆い隠していたのだ。
その一部の人間の筆頭であろう、ダマスカスは肝を潰されたように叫んでいた。
『ぎっ、ぎええっ! は、早く看板を元通りにするだます! 女神の乱心を、晒すわけにはいかないだます!
次は絶対に外れないように、しっかり打ち付けておくだます!』
ハシゴを抱えた作業員たちが慌てて塔に向かうなか、ダマスカスは何事もなかったかのように司会進行を続ける。
『そして「最初の試練」を最初に乗り越え、学年代表になったのは……。
アイスクリン・マロン・グラッセさんと、コインコ・チョコ・ゴディバさんだます!
みなさん、盛大に、拍手、拍手だますーっ!』
このパーティにおいて、庶民の生徒たちは立食形式だったのだが、名家の子息たちは来賓と同じくテーブル席にいた。
なかでも結婚式かと思うほどの豪華なカップル席に座らされていたのが、アイスクリンとコインコ。
ふたりともまるで、カップル御用達のレストランに間違って入ってしまったかのように、気まずそうな表情で並んでいた。
『さらに今回は嬉しいニュースがあるだます!
長きにわたってこの国を悩ませてきたテロリスト、チョーカーが賢者様たちの活躍によって逮捕されただます!』
賢者たちは席から立ち上がり、手柄を誇るように周囲に手を振った。
それが事実なら本当は万雷の拍手だったのだろうが、彼らに向けられたのはまばらな拍手のみ。
当然であろう。来賓のほとんどは、誰の活躍によってチョーカーが捕まったのか、目の前で見ていたのだから。
賢者たちはそれでも自分がやったと言い張っていたのだ。
一部の支持者たちがそれを後押ししていたので、拍手にはかなりムラがあった。
支持者たちは立ち上がるほどに賞賛を送っていたのだが、そうでないものはシラケきった表情。
支持者の筆頭であろうダマスカスは、魔導拡声装置があることをいいことに、大盛り上がりを演出していた。
『さて! 我が校の優秀な生徒と、賢者様たちの素晴らしい活躍を祝福したところで……さっそく本日のメインイベントにまいるだます!
「塔開きの儀 ステーキコンテスト」だますぅぅぅーーーーーーっ!!』
今度こそ来客全員からの拍手がおこる。
『「塔開きの儀」にあわせて行なわれてきたこのコンテスト、いまでは最高のレストランを決めるための、もっとも権威あるものになっているだます!
このコンテストで優勝したレストランは、王室御用達の名誉を授かり、国際交流の場でその腕を振るえるだますっ!』
ダマスカスは会場の隅にある調理ブースに向き直る。
『すでに、この国の選りすぐりの一流レストランが集まり、ステーキを焼いているだます!』
わざとらしく、手をひさしのようにして遠くを眺めるような仕草をしてみせた。
『ああっ!? また「剣の舞亭」がまぎれこんでるだます!?
毎年最下位になってるのに、なんで性懲りもなくやってるだますかねぇ!?
あの店の肉は臭くてかなわないだますから、次からはおトイレで調理してもらうだます!
それだと捨てる手間も省けるだますからねぇ!』
観客からどっ、と笑い声がおこる。
『剣の舞亭』は毎年こんな調子で、コンテスト中にさんざんイジメ倒されてきたのだ。
調理は店の家族3人が行なっていた。
毎年、この世の終わりのような表情でステーキを焼いているのだが、今年は違った。
3人とも、やる気に満ち満ちていたのだ。
『おやおやぁ? 今年はなんだか違うだますねぇ!?
去年のステーキは、ブタですら食べなかっただますのに!
あ、今年はカエルの肉を使うことを思いついただますね!』
嘲笑に包まれる3人。
屈辱に耐えるように、歯を食いしばっていた。
家族の周囲にいるのは、まるで貴族かと思うほどのきらびやかな服装のコックたち。
コックたちの調理台は一段高くなっていて、下ごしらえした食材の余りを家族に向かって投げつけていた。
家族は肉の切れ端や野菜の皮にまみれ、まるで生ゴミから出てきたかのような悲惨な姿になっていく。
それでも彼らは黙って調理を進めていた。
それもなにもかも、受け取ったバトンをゴールさせるため。
デュランダルが抜け殻になってまで作り上げた熟成肉で……一矢報いるためであった……!
そしてついに、全レストランの調理が終了する。
『さあっ、それでは順番に試食タイムだます! 毎度のトップバッターは「剣の舞亭」だます!』
『剣の舞亭』は最初に試食をやらされ、賢者たちはひと口食べて吐きだす。
さんざん罵ったあと、口直しに一流レストランの試食を行ない、事あるごとに『剣の舞亭』を引き合いに出すというのがお約束の流れになっていた。
審査員席にいる賢者たちに、白い皿に盛られたステーキと、木の器に盛られたキャベツサラダが並べられる。
それだけで賢者たちは、うげっと吐くような仕草をしてみせた。
「まったく、今年もラーグ牛ではないか。こんなクズ肉を性懲りもなく出してきおって」
「こんなクズ肉で喜ぶのは貧民くらいのものだろう、これなら革靴でも食べたほうがマシだ」
「まったく、こんなのを食べたら舌が腐ってしまうわ」
審査員席まで降りてきたダマスカスは、わざとらしい困り笑顔で揉み手をする。
『ほんとに、こんなゴミみたいな料理を食べさせてしまって申し訳ないだます。
でも今年は、このコンテストは魔導装置で中継されていて、宮廷シェフもご覧になっているだます。
ブタもまたぐ料理を賢者様にお出ししたとわかったら、きっと宮廷シェフはお怒りになって、店を潰すだます。
さぁさぁ、ひと口食べて、「まずーっ!」と叫んでくださいだます!』
コンテストは多くのエントリーがあり、量を食べることになるので、ステーキはひと口サイズになっている。
賢者たちは意地悪なニヤニヤ笑顔で、焼きたての肉をフォークで突き刺した。
そしてタイミングを揃えて「まずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーっ!!」とハモるために、同時に口に運ぶ。
しかし次の瞬間、彼らの口から迸っていたのは……。
「うっ……うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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