37 剣士たちのアイドル
37 剣士たちのアイドル
ランドファーの街を、3人の少年剣士たちが歩いていた。
彼らは身体じゅうに護符のようなものをぶら提げている。
「ったく、今日はマジでついてねぇなぁ」
「バッド寮の新入生にはボコられるし、そのせいでクラスのヤツらからは白い目で見られるし」
「サイフごと占い女にくれてやったせいで、持ち金もゼロになっちまったしなぁ」
「そのうえ雑用まで押しつけられるだなんて……ったく、この護符効いてるのかよ!?」
「さっさと終わらせて帰ろうぜ。えーっと、『剣の舞亭』に行けばいいんだよな?」
「ああ、ステーキコンテスト用の調理器具を学院まで運ぶのを手伝うんだと」
「ステーキコンテストかぁ、あれって毎回、『剣の舞亭』おかみさんが賢者たちにイジめられるんだよなぁ」
「おかみさんはちょっと人使いが荒いけど、たまにメシを食わせてくれたりするんだよなぁ」
「ったく、ムカつくぜ、賢者のヤツら……」
『剣の舞亭』のある通りに入ったところで、剣士たちはヤジ馬が集まっていることに気付く。
ヤジ馬たちはみな空を見上げていたので、つられて顔をあげてみるとそこには、信じられないものがあった。
なんと大柄な少女と、少年が大空に浮いているではないか。
「お、おい、見ろよ! 人が浮いてるぞ!?」
「しかもあれって、ストームプリン様じゃないか!?」
「なんでストームプリン様が、あんなところに!?」
ストームプリンと呼ばれた少女は、空の上で泣き叫んでいた。
「お……おねがだし! も、もう、許すし! 許すしぃぃぃぃぃぃーーーーーーっ!」
人目もはばからず、わんわん泣き喚くストームプリン。
ギャル女傑のような姿しか知らない剣士たちは、すっかり度肝を抜かれていた。
「す、すげぇ……! あのストームプリン様が、あんなに泣いて許しを請うだなんて……!」
「しかも見ろよ! ストームプリン様が、あんなに男に抱きついてるの、初めて見たぞ!」
「ストームプリン様って男に興味がないんじゃなかったのかよ!?」
『王立高等魔術学院』には、すでにアイドル扱いされている女生徒たちがいる。
魔術師科ならアイスクリンやコインコなどがそうなのだが、剣士科のアイドルはストームプリンであった。
ストームプリンはギャル系の美少女でナイスバディ、しかも剣士の名門の娘で家柄もバッチリ。
まさしく男子生徒の憧れの的となっていた。
剣士トリオも例外ではなく、許されるならストームプリンのパシリになりたいと思うほどであった。
「くそっ! 俺たちのストームプリン様の胸に顔を埋めるだなんて、なんなんだあの野郎!」
「俺たちゃ挨拶しても目も合わせてもらえねぇってのによ!」
「なんとしてもあの野郎の正体を突き止めて、ブッ殺してやろうぜ!」
しかしその正体はすぐに判明する。
ストームプリンの胸に埋められていた顔が、息継ぎをするようにぷはっと出てきたからだ。
その顔を目にした途端、剣士トリオは口から心臓が飛び出さんばかりの大絶叫。
「「「でゅっ……デュランダルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」」
しかしその顔が見えたのはほんの一瞬、ストームプリンが抱き寄せたことによって、またムギュッと胸に埋もれていた。
「やだっ、デュラン! 離しちゃやだし! 離しちゃ死んじゃうし! なんでも言うこと聞くから、離しちゃダメだし!
もういい子にするし! ニンジンも残さないし! お願いだからぁ! うわぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」
ストームプリンは恐怖のあまりすっかり幼児退行していたのだが、剣士トリオはすっかり誤解してしまう。
「す……すげぇ……! 離したら死んじゃうだなんて……!」
「ストームプリン様は、よっぽどあの野郎のことが……! しかも、なんでも言うこと聞くとか言ってるじゃねぇか!」
「く……くそっ! あんな最高の美少女ギャルに、あそこまで好かれるだなんて……!」
「「「うっ……うらやましぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」
剣士トリオは脳を破壊されたかのように頭を押え、泣きながら崩れ落ちていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は空中で「しまった」と後悔していた。
空飛ぶ魔術でプリンにちょっとお仕置きをするつもりだったのだが、想像以上に効きすぎてしまったようだ。
プリンは幼子みたいにわぁわぁ泣いていて、暴れ出さないのが不幸中の幸いだった。
しかし幸い中の不幸だったのが、プリンが俺を両手両足でしっかりホールドしてきたこと。
おかげで抱き枕状態で、顔どころか全身がプリンと密着。
プリンはいつも水着のような格好をしているので、ムチムチの身体と、吸い付いてくるようにモチモチの肌をモロに感じてしまう。
そのため俺は、集中力を欠かないようにするためにひと苦労する。
意識が他のことに奪われすぎると魔術の効果が切れ、落ちてしまうかもしれない。
俺は精神統一をはかりながら、ゆっくりと高度を下げていく。
時間をかけて店の裏通りに着地した。
「もう大丈夫だぞ」と声をかけると、プリンの脚はガクガク震えはじめ、そのままへなへなと腰砕けになる。
アヒル座りで地面にぺたんと座り込んでしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ちょ……超、ヤバかったし……し、死ぬかと思ったし……」
「悪かったな、ちょっとやりすぎた。でも、意地悪するお前も悪いんだぞ、これに懲りたら……」
しかしプリンは俺の言葉が耳に入っていないようで、迷子のようにあたりをキョロキョロ見回していた。
「あ、あれ? 紙切れがない? あれってデュランの大切なものだったんっしょ? あれがないと……」
「ああ、それならここにあるから心配するな」
俺はプリンがしていたように、指で挟んだ紙片をヒラヒラさせる。
プリンは赤みの残る瞳でハッと俺を見たかと思うと、次の瞬間には獲物を狙う女豹のように飛びかかってきていた。
「かっ……返すし! それはあーしがもらったんだから、あーしのものだし!」
かなり必死だったので、俺は意地悪したりせずに「ほらよ」と返してやった。
するとプリンは「え? いいの?」とアイシャドウに彩られた瞳をパチクリさせる。
受け取ったページを、もう離さないとばかりにギュッと胸に抱きしめていたので、俺は意外に思った。
「なんだ、プリンも原初魔法に興味があったのか。それならそうと言ってくれよ」
「へへーっ! これがこっちにある限り、デュランはあーしの……!」
「そのページは空中にいるときに読んで覚えたから、ずっとプリンが持ってればいい」
しかしプリンは突然、「こんなのいらねーし!」とページを地面に叩きつけていた。
いきなりの豹変ぶりに、「なんで!?」と俺。
「おいおい、お前はいったい何がしたいんだよ?」
「うっせーし! 死ね! このバカデュラン! ああ、もうっ! 超ムカつく!
デュランのクセしてあーしをこんな目にあわせるだなんて、ガチムカなんですけどぉーっ!」
困惑する俺を残し、肩を怒らせ大股で去っていくプリン。
我が妹は思春期に入ってからずっと、情緒不安定な気がする。
「やれやれ、アイツに好きな男でもできたら、ちょっとはマシになるんだろうけどなぁ……」
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