36 プリンの挑発
36 プリンの挑発
学院のパーティではステーキコンテストが行なわれ、『剣の舞亭』のステーキが毎年かませ犬扱いされてるだなんて……。
なんだってそんなことを……!
学院にいるヤツらの多くは、やたらと他人を見下すところがあるなと思っていた。
特に立場の弱い者を、みんなでよってたかって迫害するようなところがある。
俺のバッド寮がいい例だろう。
でも俺がバッド寮に入れられたときは理不尽だとは思ったが、そんなに腹は立たなかった。
しかし、今回は違う。
悪趣味なコンテストの話を聞かされて、俺はこみあげてくるムカムカが抑えきれなくなっていた。
俺が怒ったのがそんなに意外だったのか、3人ともちょっと引き気味になっている。
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、いくらデュランダルでも無理さね」
「そうだよ、コンテストに参加するのは最高級のレストランで、コックも食材も一流なんだよ?
なにをやったって勝てっこないよ」
「それでも旦那さんは手抜きをせずにステーキを焼くんだろう? 命を捧げてくれた牛のために」
旦那さんは無言で頷く。
「だったら下ごしらえを俺にやらせてくれ。ステーキをさらに美味しくする方法がないか、考えてみたいんだ」
「ムダだよ」とおかみさん。
「下ごしらえについても、いろいろやってみたんだよ。
ラーグ牛は固いから、熟成させられないかってのも試してみたんだけど、ラーグ牛は熟成させられない肉らしくて、必ず失敗して腐っちまうのさ」
「熟成もダメなのか……。でも、他にいい方法があるかもしれないだろ!?
この俺に試させてくれ! たのむよ、おかみさん!」
おかみさんは「どうせムダなのに……」と言っていたが、俺の熱意に負けて手伝うことを認めてくれた。
「そこまで言うなら好きにしな。どうせ今日はパーティの料理を作らなくちゃいけなくて店は開けないからさ。
キャベツはもうぜんぶ刻んであるから、デュランダルにやってもらうこともそんなにないしね」
そう言って、おかみさんたちは厨房で『無限サラダ』作りを始める。
俺はみんなから離れ、食材倉庫に向かう。
そこで、天井からフックで吊されたラーグ牛をじっと見つめていた。
ついカッとなって手伝いを申し出たはいいものの、具体的なアイデアはなにもない。
俺は実家にいたころステーキはさんざん焼かされた。
美味しい下ごしらえのやり方も心得てはいるが、おそらくそんな小手先の調理テクニックでは、一流の味にはとうてい及ばないだろう。
「なにか、味に大きく差を付けるようなことをしないと……」
しかしそんな都合のいいネタがすぐに思いつくわけがない。
悩んだ挙句、俺は食材倉庫の裏口から表に出る。
外の空気を吸えば、気分転換になるんじゃないかと思ったのだが……。
そこには、思いも寄らぬ人物がいた。
「プリン……こんな所でなにしてるんだ?」
俺の妹のストームプリンが、店の裏口にある小道に立っていた。
「そんなの、あーしの勝手だし。っていうかデュランのほうこそなにしてるし?」
「俺も『王立魔術師養成』に入ったんだよ」
「ちげーし。デュランってば超目立ってるから、そんなのとっくの昔に知ってるし。いまなにしてるのかって聞いてるんだし」
「なんだ、そういうことか。俺はここでバイトしてるんだよ」
「バイト? うわぁ、ダサっ! 超ウケるんですけど!
でも自力じゃウサギ1匹狩れなかったデュランにはお似合いだし!」
俺たち兄弟は、『剣士たるもの、剣で富と名声を掴むもの』とオヤジから教わってきた。
そのため俺以外の兄弟たちには、汗水たらして働くのは力のない弱者のすることだという意識がある。
プリンはケラケラ笑っていたが、いまは妹の相手をしている場合じゃない。
俺はその場から立ち去ろうとしたが、プリンは指に挟んだ紙切れを俺に向かってヒラヒラさせた。
「これ、なーんだし?」
「なんだそれ……? って、それは、原初魔法の本のページじゃないか!?
それ、どうしたんだよ!?」
「へへーっ、ナイショだし。でもデュランがこれを超ほしがってるってのは本当だったし」
「そうだよ、それをくれ!」
俺はステーキのことも忘れてプリンに向かって手を伸ばしたが、プリンはページをさっと頭上にあげてしまう。
「取れるもんなら取ってみるし! ほら、たかいたかーいっ!」
「くそっ! 意地悪すんなよ!」
俺は背が低いわけじゃないが、プリンは俺より30センチも背が高い。
まるで大人と子供で、俺が全力背伸びをしてもぜんぜんページには届かなかった。
必死になって飛び跳ねる俺に、プリンは大爆笑。
「あはははっ! デュランってばカエルみたい! そんなにこのページが欲しいんだ!」
「当たり前だろっ! よこせっ、このっ!」
俺はページを取るのに夢中になるあまり、勢い余ってプリンの胸に飛びこんでしまう。
プリンは待ってましたとばかりに、俺の頭をガッと片腕で抱き寄せた。
プリンのような弾力に顔面が埋没し、息が苦しくなる。
「むぐっ!? は……はなせっ!」
「あはは、離して欲しかったら、力ずくでやってみせるし」
俺は両手両足を突っ張って離れようとしたが、プリンの片腕すらも引き剥がせない。
プリンはゴリラ並みのパワーがあり、リンゴどころかココナッツですら握りつぶせる。
俺はまるで赤子扱いだった。
「うりうり、あーしのおっぱい恋しかったっしょー?
デュランってば、あーしのおっぱい大好きだったもんねー?」
「だ……誰がっ! 誰が妹なんかの……!」
俺はプリンのプリンに包まれていて、プリンの表情は見えない。
でも急に、声が不機嫌になった。
「ふん、デュランのクセして意地はるなし。いい加減あきらめて、あーしのものになるし。
そしたら、いつだってこうしてあげるし」
プリンは不意に、「あんっ」とくすぐったそうに身をよじらせた。
「ちょ、おいたしちゃダメだし、デュラン、なにやってるし?
そんなとこチューチューするなんて、マジで赤ちゃんみたいだし。
でも、やっと素直に……」
誤解のないように言っとくが、俺はチューチューしてたわけじゃない。
俺がしていたのは、詠唱。
「プリン、いい加減にしろっ! 俺は怒ったぞ!
奔出せよ ・ 筐裡の第一節を ・ 不踏よりっ!」
ゴッ……!
風鳴りの音とともに、俺とプリンの身体は打ち上げられるように空に舞い上がる。
プリンのプリンごしに、彼女の心臓がドキリと跳ね上がったのを、唇で感じた。
やっぱり、予想どおりだ。
プリン小さい頃から、高いところが苦手だったんだ。
形勢は一気に逆転、我が妹は空中で大パニックに陥っていた。
「えっ!? えっ!? えっえっえっ!? な、なに!? なんでだし!?
なんでなんで、なんでっ!? いったい、なにが起ったんだし!?
やっ!? 高いのやっ! やだやだっ! やっ……やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
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