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34 はじめての料理魔法

34 はじめての料理魔法


 とりまく世界が大きく動きはじめたことも知らず、俺はランドファーの街中を疾走していた。


「やべぇ、だいぶ遅くなっちまった! 初日から遅刻だなんて、シャレにならねぇぞっ!」


 尻に火がついたウサギのような勢いで飛びこんだのは、大通りにある酒場『剣の舞亭』。

 『準備中』のスイングドアをくぐると、そこには恰幅のいい中年女性と中年男性、そして俺と同じくらいの少女が待ち構えていた。

 エプロン姿の中年女性は俺を見るなり一喝する。


「遅い! なにトロトロやってんだい!」


「悪い、おかみさん! ちょっと面倒なことに巻き込まれちまって!」


 俺がはじめて攻撃魔術を使ったとき、事故で廃屋をブッ壊しちまった。

 その持ち主がこのおかみさんで、そのときは解体費用が節約できたと、たいそう感謝された。


 その縁で、俺はおかみさんの酒場で働かせてもらえることになった。


 俺はいまだに無一文だから、武器どころか新しい服すらも買えない。

 学院の寮母さんから食材を分けてもらっているので食べるものはなんとかなっているが、金がないと不便なことがこれから出てくるだろう。


 だから俺は、放課後の時間を使ってアルバイトをすることにしたんだ。

 今日はその初日だったんだが、いきなり遅刻しちまった。


 おかみさんの隣にいた女の子が、俺を見るなり「あっ」と声をあげる。


「キミってば、デュランダルくん!?」


 女の子は小柄でベリーショートな髪、ワイシャツにサスペンダーをしたショートパンツで、まるで少年のようないでたちだった。


「俺のことを知ってるのか?」


「キミのことを知らない子なんて、ウチの学院にはいないよ! キミってば、もうすっかり有名人なんだから!」


「ああ、同じ学院の生徒なのか、名前はなんてんだ?」


「ボクはミント! ミント・ハント・シュージィだよ!」


「お前もここの酒場でバイトしてるのか?」


「ちーがーう! ボクはここの娘だよ!

 まあなんにしても、学院でもこの酒場でもボクのほうが先輩なんだから、尊敬するように! ねっ!」


 そう言って小さな子供のように、にぱっと笑うミント。

 隣に立っていたコック姿の中年男性の肩をぽんぽん叩く。


「あ、こっちにいるのがパパね! パパ、デュランダルくんだよ!」


 ということは、おかみさんの旦那さんってことか。

 旦那さんは無口な人らしく、俺が挨拶してもなにも言わなかった。


 おかみさんがパンパンと手を叩く。


「はいはい、挨拶はそのくらいにして、さっさと仕事をしておくれ!

 夜までに学院に料理を届けなくちゃいけないんだからね!」


「おかみさん、俺はなにをすればいいんだ?」


「そうだねぇ。それじゃあまず、アンタがどれくらい使い物になるか、見せてもらおうか。こっちへきな」


 俺はおかみさんから厨房へと案内される。

 そこにはタルに詰まったキャベツがいくつも並べられていた。


「学院に届ける料理は前菜とメインのふたつなんだけど、前菜用にキャベツを千切りにしておくれ。

 1時間でキャベツを何個千切りにできるかで、アンタの下ごしらえの腕前を見させてもらうよ。

 それが終わったら料理の腕前だ。キャベツを使ってなにか1品こしらえてもらうから、キャベツを切る間にでも考えとくんだね」


 俺が「わかりました」と返事をすると、おかみさんは「1時間後にまた来るからね」と言って厨房から出ていった。

 遅刻のマイナスイメージを払拭すべく、俺は袖捲りをしてやる気をだす。


「よーし、やるぞ! 俺は剣の扱いでは落ちこぼれだったけど、包丁の扱いは得意だからな!」


 実家にいた頃、俺は家族全員の食事を3食毎日作っていた。

 兄弟の母親たちもトレーニングに忙しかったので、家事はぜんぶ俺の役割だったんだ。


 ひとりひとりが恐ろしいほどの大食漢だったので、おのずと短時間で量を作る腕前が身に付いていった。

 キャベツなら、それこそ畑ひとつぶんくらいは毎日刻んでいたと思う。


 千切りもお手の物だったのだが、ふと、俺はあることを考えつく。


「千切りってけっこう疲れるんだよな……。そうだ、魔術でもっとラクできないかな?」


 俺は生活魔法として、雑巾がけをある程度ではあるが自動化した。

 ということは、料理魔法も作れるんじゃないか……?


 そう思ったらいてもたってもいられなくなり、俺は術式を考える。


「えーっと、まず試しに、雑巾がけをした術式を応用して、自動的に包丁が動くようにすれば……」


 しかしいきなり詰まってしまった。


「方角を指定する術式って、12方向ぶんしか知らないんだよな。

 包丁は上下に動かさないといけないから、方向の『上』と『下』ってどういう術式なんだろう……?」


 俺が読んだ本のなかにはそんな術式はなかった。

 俺はさらに考えて、別のアプローチを思いつく。


「そうだ、空を飛ぶ術式が使えないかな?

 あの時は、空を飛ぶ力を足の裏から放出させてたけど、それを包丁の刃から放出させるようにすれば、少なくとも上に動かすことはできそうだ」


 しかしすぐに問題に気付く。


「でもキャベツを刻むためには、上にあげた包丁を下に降ろさないといけない。

 下に降ろす術式がないと、やっぱり無理なのか……? 他にいい手は……? うーん……」


 不意に、パッと閃く。


「あ、そうだ! 下に降ろすんじゃなくて、空を飛ぶ力を、包丁の峰から放出させればいいんだ!

 これなら理論上は、包丁を上下させることができるはず!」


 『刃』と『峰』を現せそうな術式なら、たしかあったはずだ。


「よし、やってみよう。まずは、空飛ぶ音を力に変換。

 筐裡の第一節に(セレヴォファース) ・ 依代せよ(イコーラ) ・ フィンフラ

 變成せよ(エクスチェイン) ・ 筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 喚声から(コーラー) ・ 発破なり(マイツ)……」


 あとは繰返しの術式で、上下に力を放出させてやればいい。


回帰し(リフレラ)

 筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 奔出せよ(ディステア) ・ 腹壁より(ストマ)

 筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 奔出せよ(ディステア) ・ 裡門より(ドロワ)


 すると、まな板の上にあった包丁が、ブオンブオンと羽音のような音をたてて小刻みに震えはじめた。

 振動に流されるように、まな板の上を動き回っている。


「あ、そうか……。刃と峰から、高速で交互に力が放出されてるから、包丁が小刻みにしか動かないのか……。

 これはこれで使い道がありそうだけど、キャベツは刻めないよなぁ……。

 やっぱり、それぞれで移動距離を指定しなきゃダメなのか……」


 そう思いかけて、ある術式がひらめく。


「そうだ、休止の術式が使えるかもしれない! えーっと、たしか……。

 筐裡の第二節を(セレヴォセクタ) ・ 依代せよ(イコーラ) ・ 500(ファイハンラ)


 これを、繰返しの術式のあいだに、挟んでやれば……。


回帰し(リフレラ)

 筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 奔出せよ(ディステア) ・ 腹壁より(ストマ)

 臥褥せよ(スネイプ) ・ 筐裡の第二節のあいだ(セレヴォセクタ)

 筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 奔出せよ(ディステア) ・ 裡門より(ドロワ)

 臥褥せよ(スネイプ) ・ 筐裡の第二節のあいだ(セレヴォセクタ)……!」


 詠唱を終えた途端、包丁が高速で上下移動をはじめる。

 その様はまるで、まな板の鯉のような暴れっぷりだった。


 俺はあわてて包丁の柄を握り、上下運動の軌道を安定させる。

 片手を伸ばして近くにあったタルから、キャベツをひとつ取って、包丁の下に置いてみると……。


 ……ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 なんと10秒もかからずに、千切りキャベツのできあがり。

 その速さには、我ながら舌を巻いてしまった。


「す、すげぇ……! まるで自分の手が、魔導装置になったみたいだ……!」


 術式を組むのに時間はかかったが、それを補ってありあまるほどのハイスピードだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 制御出来るならいいか……。 [気になる点] 危い。 [一言] ……このままだと自動戦闘でオート狩りすることになりかねねのだぜ……っ!
[気になる点]  あの~~~、キャベツの芯まで千切りにしても大丈夫なんですか?( ̄▽ ̄;)
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