27 過去を暴く悪魔
27 過去を暴く悪魔
奇声のような悲鳴がしたかと思うと、映像のグラシアに実物のグラシアが覆い被さっていた。
「やっ……やめてくださいっ! な、なぜこんなにも、私の過去をハッキリと!?
いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
グラシアは半狂乱、映像の中にいるグラシア以上に顔を赤熱させ、両手をわたわたさせている。
なんだかよくわからなかったが、かなり恥ずかしがっているようなので、俺は手をグーにして映像を止めた。
壁に張り付いたままのグラシアは、追いつめられたウサギのように、涙で目を真っ赤にしている。
大丈夫か? と声をかけようとしたら、
「いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
トマトのようになった顔を押え、どこかへ走り去ってしまう。
グラシアがいなくなったあとの市場は、またしてもしんとしていた。
またかと思いつつ振り返ってみると、市場じゅうの上級生たちがものすごい形相で俺を睨んでいる。
特に女生徒たちの視線は突き刺さるようだった。
何事かと思ったが、目の前にロックがやってきて、俺の胸倉を掴んだ。
「テメェ……! コウモリ野郎どころか、とんでもねぇ変態野郎だったとはな……!」
「なんのことだよ?」
「あそこまで堂々と証拠を見せといて、とぼけんじゃねぇぞ!
女子寮に忍び込んで、魔導装置を仕込むだなんて、ふざけたマネしやがって……!」
「魔導装置?」
それでみなが怒っている理由が理解できた。
さっきの映像は、魔導装置で隠し撮りしたものだと思われたらしい。
「違うよ。魔術でグラシアの過去を見たんだ。まあ自分でも、ここまでうまくいくとは思わなかったけどな」
すぐさま、占い屋通りの女生徒たちから異論の声があがる。
「うそよ! 過去を見る占いっていうのはね、おぼろげな絵が見えるだけなのよ!
世界最高の占い師であるミエール・オブ・フォーチュン様だって、あんなにハッキリしたイメージを出せないのよ!」
「あなたが出したのは、完全に映像で、音まで付いてたじゃない! あんなのは魔導装置を使わないかぎり、ありえないのよ!」
「っていうかそれ以前に、触媒すら使わずに占いができるわけないでしょ!」
俺は女の敵のように非難ごうごう。
「さいってー」「剣士たちをやっつけたときは、ちょっとカッコイイと思ったのに……」「見損なったわ……!」
民意を得たロックは、正義の味方のように拳を振り上げる。
しかしその拳はすぐには振り下ろされなかった。
「テメェに、最後にチャンスをくれてやる。いますぐ土下座して謝るか、それともまだ無実だと言い張るのか、いますぐ選べ」
「そうだな……それじゃ、お前の過去もさっきみたいに映し出したら信じてくれるか?」
ロックは「ヘッ」と笑う。
「いいだろう、そこまで言うなら見せてみろよ、俺の過去ってやつを! どうせ無理だろうがな!
それに、俺はあのメガネブスと違って、どこに出しても恥ずかしくねぇ生き方をしてるんだ!
たとえクソしてるところを見られても、なんともねぇよ!」
本人のお許しが出たので、俺は遠慮なく詠唱をする。
対象をグラシアからロックに変え、同じように壁に向かって手をかざす。
パッと映ったそれは、またしても寮の一室で、部屋の主はまたしても机に向かっていた。
リーゼントの頭を撫でつけながら、それをノリがわりにして便せんに封をしている。
『よーし、寝ずに書いただけあって、最高にイカしたラブレターになったぜ。これでグラ……』
「ぎょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
奇声のような悲鳴がしたかと思うと、映像のロックに実物のロックが覆い被さっていた。
それはさながら、デジャヴのような光景だった。
「やっやめろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!?
今朝の俺を映すんじゃねぇ! 映すんじゃねぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」
映像のロックは、ラブレターと称する手紙をローブの胸ポケットにしまう。
俺は映像を止めながら、ヤツに言った。
「なんだ、お前はグラシアのことが好きだったのかよ。だったらなんであんな意地悪を……」
「はっ……はぁぁぁぁーーーんっ!? テメェ、ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!
誰があんなメガネブスを好きになるかよ!」
「だって便せんの宛先のとこに『愛するグラシアへ』って書いてあったぞ?」
「そっ……そんなわけあるかよ! デタラメ抜かしてっとブッ殺すぞ!」
怒り肩でずかずかと俺に向かってくるロック。
その胸ポケットには、映像と同じ便せんが飛び出ている。
宛先は隠れているが、『グラ』だけは読めた。
途中で俺の視線に気付いたのか、ロックは胸を撃ち抜かれたように手で押え、あとずさる。
「ふっ……ふふふ、ふざけんじゃねぇぞ……こ、この、変態野郎っ……!」
その声と身体は、大地震に見舞われているかのように震えていた。
「悪かったな。でも、これで俺が無実だってわかっただろ?
っていうか、別に隠すようなことじゃないと思うんだが……」
俺の背後からは、ヒソヒソ話が聞こえてくる。
「ロックくんって、グラシアさんのことが好きだったんだ……」
「どうりで、あんなにグラシアさんのことをからかってたのね……」
「好きな子に意地悪するだなんて、なんだか小さい子供みたい……」
主に女子たちからのその声に、ロックの顔が、メーターが上がるようにみるみるうちに赤く染まっていく。
そして、デジャヴがふたたびやってくる。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ロックはトマトのようになった顔を振り乱し、どこかへ走り去ってしまった。
俺はその背中を見送りながら、やれやれとため息をつく。
「しっかしロックがグラシアのことを好きだったなんて、意外だったな……。
でもグラシアがノートに描いていた顔は、ロックには見えなかった……。
ってことはグラシアは、別のヤツのことが好きってことか……」
なんにしても他人の色恋沙汰だから、俺には関係ない。
ふたりの恋を、陰ながら応援するくらいしかできることはないな。
なんて思いながら振り返ってみると、ヤジ馬に異変が起っていた。
さっきまでドブネズミでも見るような顔つきだった上級生たちは、百獣の王を前にしたかのように後ずさっている。
「や……やべぇ……やべえよ、アイツ……!」
「なんで、人の過去が見れるんだよ……!?」
「と……とりあえず、アイツを怒らせねぇようにしよう……!」
「そ、そうだな……! アイツを怒らせたら、大変なことになっちまう……!」
「ボコボコにされるだけじゃなくて、過去まで暴かれるだなんて、恐ろしすぎる……!」
「あ……悪魔か、アイツは……!?」
先輩たちは俺を刺激しないようにしているのか、みんな引きつった愛想笑いを浮かべている。
俺はとうとうバケモノを通り越して、悪魔になっちまったようだ。
今日も調子が良かったので、2話更新とさせていただきました!
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