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24 世界が揺れた日

24 世界が揺れた日


 コインコが女神像に手を重ねた、というか重ねさせられた瞬間、像の背後にある壁が光り出す。

 アイスクリンの時と同じように、天井近くの水晶球が輝きだした。


 水晶球のなかにはアイスクリンとコインコ、ふたりの顔が浮かび上がっている。

 周囲には花びらのようなハートが舞い散っていて、その下には文字があった。


『今年の学院公認カップルは、このふたりに決定しました!』


 とある。

 それは華々しい祝福だったが、見上げていた女生徒たちは、あんぐりと開けた口が塞がらなくなっていた。


「ま、まさか……」


「女生徒どうしが、カップルになっちゃうだなんて……」


 コインコは豆鉄砲をくらった仔インコのような表情で、立ち尽くしていた。


「あ……ありえませんわ、こんなこと……!」


 その肩が、ポンポンと叩かれる。


「1位になれてよかったな。じゃ、俺はこれで」


「お……お待ちなさい! こんなこと、許されると思っているんですの!?」


 今度こそ立ち去ろうとしていたデュランダルは、またか、といった様子で振り返った。


「まだなにかあるのか? お前は1位になりたかったんじゃなかったのかよ?」


「1位になりたかったというのは、そういう意味じゃありませんわ!

 学年代表を決定する『最初の試練』は神聖なる儀式……! なりたくないからって、譲っていいものではありませんわ!」


「たしかに俺はなりたくないけど、別に誰彼かまわず譲ったわけじゃないぞ」


「えっ」


「お前、死ぬ気でがんばったんだろ? そのナリをみればわかるさ」


 デュランにそう言われて初めて、コインコは自分の髪や服装がありえないほどに乱れていることに気付いた。


「お前とアイスクリンは甲乙つけがたい。お前だからこそ、1位を譲ったんだ。

 やっぱり、俺の目に狂いはなかった。女神像も認めてくれたんだからな。

 ……がんばれよ、お嬢様」


 確かなる口調で言い切られ、コインコは不思議と顔が熱くなるのを感じていた。

 三度背を向けるデュランダルを呼び止めることもできず、嬉しいような嬉しくないような、複雑な表情で唇を噛みしめていた。


 アイスクリンはもうずっと心ここにあらず。

 マッチをすべて擦ってしまったマッチ売りの少女のように放心し、真っ白になっていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 塔の外にある観客席は、混迷の極みを迎えていた。


 なぜならば『最初の試練』は、『塔開きの儀』と同じくらい、この国の関心事である。

 学年代表となった生徒ふたりは、生涯のペアとなるのは言うまでもないが、それ以上に将来を約束されたも同然であるからだ。


 男女が1名ずつ選抜されるのが当たり前なのに、なんと女生徒ふたりが代表となってしまった。

 それはこの学院の長き歴史において、初めてのことである。


 本来ならば賢者たちが「歴史に反するからやり直しだ!」と口を揃えていてもおかしくはなかった。

 しかし、2点の理由からそれはできなかった。


 まず1点めの理由は、デュランダルも言っていたが、『女神像が認めた』から。

 塔の守り神とされる女神の決定は絶対とされており、それを覆すためには賢者たちにとって大きなリスクとなるからだ。


 それでもデュランダルが学年代表になっていたら、賢者たちは無理を承知で道理をひっこめ、やり直しを宣言していたであろう。

 しかしもうひとつの理由が、それを邪魔をする。


 もう1点めの理由は、選ばれた生徒。

 コインコのいるゴディバ家といえば、この国でも有数の魔術師の名門である。


 そんな生徒を、いったん決定してしまった学年代表から引きずり下ろすことは、後ろ盾をひとつ失いかねない行為といえる。


 そのため貴賓席にいる賢者たちは、難しい舵取りを迫られていた。

 彼らが守り続けてきた、歴史と伝統という名の既得利権を、女神と名家の令嬢とで天秤にかけなくてはならないのだ。


 記者たちは賢者たちを取り囲んで、インタビューをする。


「賢者様! 学年代表に女生徒ふたりが選出されるのは初めてのことですよね!?

 たしか、学年代表は男女ひとりずつという取り決めがあるはずですが、どうされるおつもりですか!?

 お認めになるのでしょうか!? それともやり直しするのでしょうか!?」


 それまで賢者たちは威厳に満ちていたが、いまは全員しどろもどろになっていた。


「あ……えーと……う、うむ、それでは順番に、左端の賢者殿のご意見から……」


「えっ!? な、なんでワシがっ!? 右端からすればよかろう!」


 彼らはさんざん言い合ったあと、どこかの政治家のような当たり障りのない回答をする。


「あ、そ……あの……えっと……取り決めは覆してはならん……ということも、なくもないわけでもなく……。

 今回のことは重く受け止め……その、多様性を認めるという意味でも、論議を重ねて……善処してまいりたいと……」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 賢者たちが謝罪会見さながらの、針のムシロに包まれていたころ……。

 もうひとつの会見場は、ちゃくちゃくと準備が進められていた。


 それは、デュランダルの実家である、ブッコロ家。

 デュランダルを追放した家長のゴッドファーは、朝から準備に余念がない。


 素肌に狩りたてのクマの毛皮だけをまとい、鏡に向かって筋骨隆々の身体を見せつけるようなポーズを取っていた。


「うむ! 完璧な仕上がりだ!」


 剣士というのは家柄にもよるが、肌を露出した服装を好む。

 鍛え上げられた肉体こそが、いちばんのオシャレだと思っているからだ。


 そしてなぜ、彼が精一杯のおめかしをしているのかというと……。


「もうじき、『塔開きの儀』と『最初の儀式』の結果を携えた記者どもがやって来る!

 そのどちらにも、我が息子たちの名が刻まれているのは間違いない!」


 ゴッドファーは息子たちを学院に送り出すときに、こう言っていた。


「まずは『塔開きの儀』と『最初の儀式』!

 これらふたつの儀式でトップを取ることこそが、打倒魔術師のための第一歩!

 お前たちの命にかえても、必ずやふたつとも制するのだ!

 もし取れなければ、我が家の敷居を再びまたぐことは、できないと思え!」


 ゴッドファーは願っていた。

 これだけ焚きつけていれば、必ずや息子たちはやってくれるだろうと。


「あなた! 記者たちが大勢やってきました! やっぱり、私の子が大活躍したみたいです!」


「なに言ってるの、私の子に決まってるでしょ!」


「きぃーっ! そんなわけないでしょ!」


 妻たちの知らせに、ゴッドファーは確信する。

 やはり我が息子たちはやってくれた、と。


 儀式を制した生徒の家には、記者たちが大挙として取材に押し寄せてくるからだ。


 ゴッドファーは満を持して自室を出る。

 髪を引っ張り合って争う妻たちを横目に、毛皮のエリを正し、家の外へと向かった。


 家の外にはあらかじめ、会見場を作ってある。

 しかし訪れた記者たちの数は会見場のキャパシティを大幅にオーバーしており、立ち見まで出ていた。


 これは、ふたつとも制したな……! とゴッドファーはほくそ笑む。

 彼は雄大なる鷹のように、両手を広げて記者たちに言った。


「『塔開きの儀』と『最初の儀式』! そのふたつを制することは、何ら驚きもないことだ!

 なぜならばその者は、我が一族でもっとも優秀な男だったのだからな!」


 すると記者たちは「おおっ!」と歓声をあげる。


「やっぱり! あの生徒は、ブッコロ家のご子息だったんだ!」


「手を尽して調べた甲斐があったな!」


「でも、あの一騎当千の活躍ぶりも、これで納得がいった!」


「ラストネームが違っていたから、もしやとは思ったが……!」


 記者たちの話からすると、確信を持ってここに来ていたわけではないようだった。

 ゴッドファーはいぶかしがり、記者たちに尋ねた。


「ちょっと待て。お前たちが言っている『生徒』というのは……?」


「え? そんなの、デュランダルくんに決まってるじゃないですか!」


「えっ」


 ゴッドファーの目は、頭の上に乗せていた毛皮のクマのように点になる。

 しかしやがて事態を理解したのか、その瞳孔は爆発せんばかりに膨らんでいった。


「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」

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