20 自称ライバル登場
20 自称ライバル登場
司会進行役だったダマスカス先生がどこかに飛んでいってしまったので、もう儀式はメチャクチャ。
剣士と魔術師の集団は俺をさんざん罵りながら、俺が開けてやった入口に我先へと駆けていく。
塔のまわりにある観客席は騒然となっていた。
「な……なんだ今のは!? ふ、ふたつ同時に開いたぞ!?」
「ま、まさかあそこにいる、バッド寮の少年がやってのけたのか!?」
「お……落ち着くのだ! 白き塔の門をふたつ同時に開けるなど、我ら賢者にもできぬこと!」
「そ……そうそう! 今年の新入生のレベルが高く、それが競い合って同時に開いたにすぎん!」
前も後ろも大騒動だが、突っ立っていてもしょうがないので俺も塔に入ることにする。
俺の目の前の門は閉まっていてたが、また原初魔法で開けた。
もうこの塔の門は、もはや俺にとっては魔導自動ドア感覚だ。
開いた門の向こうには長い長い廊下があり、その先にはエントランスがある。
巣にいるアリのように行ったり来たりする剣士や魔術師たちが見えた。
行き交う彼らのさらに奥には、閉まったままの北門がそびえている。
北門はたしか、その他の職業の生徒たちが集まっていて、門を開けてる最中なんだよな。
ついでだからと思って北門も開けてやると、開いている途中の隙間から、商人の格好をした生徒たちが濁流のようになだれこんでくる。
俺はのんびり歩いて向かっていたので、塔に入るのは全校生徒でもドベだった。
他の生徒たちはなにやら大忙しだが、俺は観光気分で廊下やエントランスを見てまわる。
この『白き塔』は、この世のものとは思えないほどに美しい。
中もすごいのだろうと思ったのだが、外見から想像もつかないほどに、どこもかしこも殺風景だった。
壁や床にはなにか飾られていた跡らしきものが残っていたので、かつては豪華だったのだろう。
おそらくそれがこの学院の生徒たちによって持ち去られ、今のようななにもない空間になってしまったのだろう。
神々の恵みを授かったというか、押し込み強盗みたいだな。
商人らしき生徒たちは大量の荷物を持ち込んでいて、エントランスで出店の陣取り合戦をしている。
あまり戦いが得意ではない彼らは、塔の戦利品を買い取ったり、または武器や消耗品を売ったり、装備の修理をしたりして貢献するらしい。
そして戦闘系の職業の生徒たちの行く先は、上級生と新入生で、おもに二手に分れていた。
上級生たちは巨大な鳥カゴのようなものがいくつも置かれた部屋へと向かい、人が何人も乗れそうな鳥カゴの中に入っていく。
その鳥カゴは上空から吊り下げられていて、魔導昇降機のように上階を行き来できる仕組みになっていた。
この昇降機は、塔の上まで一気に登れるという便利な設備らしい。
しかし自分が踏破した階までしかあがることができないので、この塔に入ったばかりの新入生たちはこの昇降機を使えない。
新入生たちはまず、この塔の1階を制覇して2階に上がらなければならないのだ。
2階のエントランスにある『踏破の証』と呼ばれる壁の魔法陣に触れると、1階を踏破したと認められる。
そのあとで塔を降りたとしても、次回からは昇降機で2階まであがれるというわけだ。
俺はこの塔に興味はあったが、他人を押しのけてまで上にあがりたいとは思わない。
最後のほうでいいやと思いながら、ゆったりとした足取りで2階へと続く通路へと向かう。
通路の入口の壁には『最初の試練』と彫り込まれていて、その先は『男子入口』『女子入口』と二手に分れていた。
新入生たちはみな先に行ってしまったのか通路はがらんとしていたが、女子のほうの入口には、見覚えのある背中がある。
「クリン」と声をかけると、彼女は光あふれる髪を揺らしながら振り向いた。
「相変わらずマイペースね」
「そういうお前もずいぶんゆっくりじゃないか。でも、なんでみんなあんなに急いでるんだ?」
「当然でしょう。この学院の成績は、この『白き塔』での功績が大半を占めているんだから」
「俺は成績なんて興味はないけど、お前はそうじゃないんだろう? ずいぶん余裕じゃないか」
後から知ったことなのだが、教室の席順は、前から成績の悪いもの順らしい。
後ろにある高みから見下ろせる席は、成績優秀な生徒のみが座ることが許されるそうだ。
クリンは教室でも後ろのほうに座っているから、かなりの優等生なのだろう。
ならば最初の試練をクリアするために気を吐いていても、彼女はクールなままだった。
「この『最初の試練』は、見てのとおり男女で分れてるんだけど……。
それぞれ最初にクリアした生徒2人が、学年代表に選ばれるのよ。
学年代表となった生徒は、そのあともずっと一緒に行動しなくちゃいけないから……」
「なんだ、それが嫌なのか?」
「うん。わたし、男の子に興味ないから……」
そこまで言って、彼女はなにかに気付いたかのように、ことさら厳しい表情で俺を見た。
「もちろん、あなたも含めてね。だから、あまり馴れ馴れしくしないでちょうだい。
じゃ、わたしはこれで」
クリンは陽光を浴びた雪のように輝く髪をなびかせ、白いブーツをツカツカと鳴らして女子の通路へと去っていく。
なんだかよくわからないが、急に冷たくされてしまった。
かと思えば、彼女は急に立ち止まり、また振り返る。
「そうだ、最後にひとつだけ聞かせて。午前の授業でやった、魔術合戦のことを」
「なんだ?」
「あの時、あなたはわたしの『皎々たる雹薔薇』に似た魔術を使ってみせた。
あの魔術は複数のツララを撃ち放つ魔術だけど、狙いを付けるのは難しい。
わたしの場合、6本のツララのうち1本を、狙ったところに当てるだけで精一杯なの」
「それがどうしたんだ?」
「でもあなたは、30本ものツララを撃ち、そしてその全てを操って、ザガロくんたちを磔にした。
教えて、いったいどうやったら、あんな風にコントロールできるの?」
「またザガロたちを保健室送りにしたらかわいそうだと思って、ローブだけを射貫こうって思っただけだよ」
「えっ、たったのそれだけ……? それだけの気持ちで、30本ものツララを……?」
「それだけだよ。あ、もしかしてお前、ツララのコントロールで悩んでたのか?」
「べつに、悩んでたわけじゃ……」
「なら、魔術を使うときに、好きなヤツのことでも思い浮かべるんだな」
「好きな、ひと……?」
「ああ。師匠でも、両親でも、恋人でも誰でもいい。その人に手取り足取り教わっているのをイメージするんだ。
大事なのは、その人なら心を許せるって人で、失敗しても許してもらえる人を思い浮かべるんだ。
そうすればおのずと気持ちが落ち着いて、狙いも定まるはずだ」
「魔術は学問で、論理的なものよ。なのにあなたの言ってることは、ぜんぜん論理的じゃない……。
そんなので魔術の命中精度があがるとは思えないわ。あの時のことは偶然だったんでしょう?」
「ああ、そうかもな」
「そう。やっぱりそうだったのね。これで納得がいったわ。
じゃあ、わたしはもう行くわね」
もう未練もない様子で、クリンはふたたび俺に背を向ける。
「妹もそうだったけど、女ってのは本当にわからねぇなぁ……。まあいっか、俺もそろそろ行こっと」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
女子側の『最初の試練』。
入口には、ひとりの少女が壁にもたれ、腕を組んで立っている。
その様は、壁の花という質素さではなく、壁の花輪のようなゴージャスさだった。
その前をアイスクリンが通り過ぎようとすると、鼻で笑う。
「ふふん、いちばん最後に試練に挑むだなんて、ずいぶん余裕がおありですわねぇ、アイスクリンさん?」
「……コインコさん……」
アイスクリンは顔にこそ出さなかったが、「厄介なのに絡まれた」と内心思う。
コインコと呼ばれた少女は、壁から離れて黄金の巻き毛を優雅にかきあげる。
「デュランダルくんは、わたくしがいただきますわ」
「え?」
「デュランダルくんは最初の試練において、間違いなく男子のトップになるでしょう。
わたくしの目に、狂いはありませんわ」
いきなりデュランダルの名を出され、アイスクリンは言葉を失う。
図星を突いたとばかりに、コインコはビシッと指を突きつける。
「学年代表となった男女ペアは、この塔においてはずっと行動を共にしなくてはならない……!
それは学院公認のカップルということになり、過去のペアはみな、一生のペアになっておりますわ……!
唖然とするアイスクリン。
コインコは手の甲を口に当て、もう勝利したかのように高笑いをしていた。
「わたくしは女子のトップとなり、デュランダルくんを手に入れることに決めましたわ!
アイスクリンさんの前で、毎日イチャイチャしてさしあげましょう! おーっほっほっほっほっほーっ!!」
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