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02 剣士としてのデュランダル

02 剣士としてのデュランダル


『ママ! 花が風に吹かれるときはフラウワって音がして、草が風に吹かれるときはグラスラって音がするんだよ!』


『デュランはお花や草の声が聞こえるのね。それはとっても心がキレイな証拠なのよ……キャッ!?

 あ、あなた、デュランになにをするんですか!?』


『まやかしを言うな! 心の美しさは、強き肉体にこそ宿るのだ! こいっ、デュランダル!

 母親に甘えるヒマがあったら、死ぬ気で戦え! 今日はクマの巣に閉じ込めてやるからな!』


『や……やだよ、パパっ! た、助けて、ママーっ!』


 俺は、家に入ることも許されず、着の身着のまま家を出た。

 血と汗と涙の染み込んだ大自然の訓練場をあとにし、山を降りる。


 そして今は、ワラを積んだ馬車の荷台に揺られながら、ぼんやりと空を見上げていた。


 ……あの時は、本当に死ぬかと思ったなぁ……。


 子供の頃の思い出をなぞりながら、俺は風のようにあてもなく旅をする。


 村に立ち寄り、食べものを恵んでもらい、路地裏の軒下で寝て雨露をしのぐ。

 そしてまた馬車に乗せてもらって、次の村に行く……そんな日々を過ごしていた。


「この風は、ウイラリアラ。あのヒツジ雲は、ンメールラウン……」


 ワラにねそべりながら、耳に入ってくる音を言葉に直していると、馬車を操っていたじいさんが、振り向いて俺に言った。


「兄ちゃん、もうじきランドファーに着くよ。ここいらじゃ……いや、この国でも王都と並ぶくらいの大きな街だ」


 俺は起き上がる。


「ランドファー……。たしか、『王立高等魔術学院』がある街だよな」


「そうさ。あれを見てごらん、あの白い塔の下に、この国いちばんの学校があるんだ」


 じいさんが示していたのは、天を衝くほどにそびえる美しい塔だった。


「あの塔は女神様が建てなすった塔らしい。

 中には女神様からのお恵みがいっぱいあるらしくて、そのおかげで街はどこよりも発展したんだと」


 じいさんの言うとおり、ランドファーの街の中はいままで見たことのないものばかりだった。

 今までは代わり映えしない風景ばかりだったのだが、別世界に迷い混んだかのように、なにもかもが新しい。


 地面はどこもしっかりとレンガで舗装されていて、街並みも木造ではなくレンガ造りの家が並ぶ。

 道行く人たちは鎧ではなくオシャレなローブを着ていて、話し声とかもやかましくなく、喧噪すらも上品だった。


 そしてなによりも驚いたのは、街のあちこちに『魔導装置』があったことだ。

 魔導装置、それは魔術で動く装置のこと。


 大通りは炎とは違う七色の光で飾られ、奏者もいないのに賑やかな音楽が流れていた。

 それらはまさに魔法のように不思議で、まるで未来に来たような気分になる。


 いままで俺が旅してきた村は剣士の勢力が強かったから、どこも蛮族の村みたいなのばかりだった。


 剣士は魔術を邪悪なものとして嫌っているので、魔導装置は使わないんだ。

 かつて俺が住んでいた我が家にも、魔導装置なんて影も形もなかった。


 俺は華やかな街並みにすっかり魅入られてしまう。

 街並みが奏でるはじめての音に心を奪われていた。


 俺はたまらず馬車を飛び出す。


「じいさん、俺はここで降りる! 乗せてくれてサンキューな!」


「ああ、達者でなぁ」


 じいさんのノンキな声に見送られ、俺は街をあちこち見て回った。

 その最中、路地裏に人だかりができているのに気付く。


 近づいてみると、そこは建物の裏口にあるゴミ捨て場だった。

 ゴミの散らばった広場のような場所で、数人の盗賊のような男たちが、ひとりの魔術師の少女を取り囲んでいる。


「へへへ……いくら『氷菓姫』と呼ばれたお前さんでも、触媒が無けりゃただの女だ……!」


 盗賊たちのリーダーらしき男が、少女から奪ったのであろう、魔法の杖を手で弄んでいた。

 少女は「卑怯者……!」と歯を食いしばっている。


「お前さんに入学されちゃ困るんでね、ここでちょっと痛い目と、すごく気持ちのいい目に遭ってもらって、王都に帰ってもらえるかなぁ?」


「おおっと、気持ちいいのは俺たちだけどな!」


「なあに、すぐにお嬢ちゃんも気持ち良くなるって! ぎゃはははは!」


 下卑た笑い声をあげる盗賊たち。

 だいたいの事情を察した俺は、彼らのなかに割って入った。


「ちょっと邪魔するよ」と輪の中心にいる少女のところに歩いていく。

 盗賊たちのリーダーが「なんだテメェは!?」とすぐさま噛みついてきた。


 俺は足元に落ちていた、ちょうどいい長さの棒きれを蹴り上げてキャッチする。


「お前ら盗賊だろ? 卑怯なのは専売特許だろうが、これはやりすぎだろ。

 それもひーふーみー、8人がかりか。ひとりの女によってたかって何考えてんだよ」


「なんだとぉ!? そう言うテメェは剣士だろうが!? それなのに、魔術師に味方するってのかよ!?」


「ああもう、ガマンできねぇよ! どっちもやっちまおうぜ! 女のほうはグチャグチャに、男のほうはギタギタにな!」


 号令一下、盗賊たちは抜刀する。まるで餓えた野良犬が、がむしゃらに牙を抜くように。

 俺は傍らにいた少女を抱き寄せた。


「キャッ!?」と目を丸くする少女。


「悪いが、ちょっとだけダンスに付き合ってくれるか」


 俺は少女の返事を待たず、彼女の腰を抱いたままその場で回転した。

 ちょうど斬り掛かってきた盗賊の攻撃が外れ、目の前でつんのめる。

 その無防備な尻を後ろから蹴り飛ばすと、盗賊はゴミの山に頭から突っ込んでいった。


 俺は一族では最弱だったが、それはあくまで最強の部類に入る剣士の一族のなかでのことだ。

 こんなチンピラどもが相手なら、女の子をかばっていても遅れを取ることはない。


「あ、あの……ちょっと……?」


 少女は戸惑いながらも俺にぶん回されていた。

 その間にも、盗賊どもはひとり、またひとりと沈んでいく。


 頭を割られ、喉を突かれ、俺の足元で悶絶する男たち。

 一瞬にして半数になってしまった盗賊たちは、「ううっ……!」と後ずさる。


「な……なにもんだ、コイツ……!?」


「ただの棒きれで、しかも女をかばいながら戦ってるのに……!?」


「め……メチャクチャ強ぇっ!?」


 しかしチンピラたちのリーダーは不敵なままだった。


「ほう、若造のクセに、ちっとはやるようだなぁ……。

 ハヤテと言われたこの俺を、少しは楽しませてくれそうだなぁ」


 リーダーは少女から奪った杖をふところにしまうと、両腕をクロスさせて腰のナイフを引き抜く。

 チンピラたちが威勢を取り戻す。


「やった! ハヤテの兄貴が本気になった!」


「おいクソガキ、お前、死んだぞ!」


「いまだかつて兄貴の太刀筋を見切れた剣士はいねぇんだからな!」


 チンピラたちはさんざん脅してきたが、俺はなんとも思わない。

 ハヤテの兄貴はワニのように姿勢を低くするという、独特な構えを取っていた。


「……シャアッ!」


 そのあまりの速さに唖然とするチンピラたち。

 しかし俺はアクビをこらえるのに必死だった。


「こっちの兄貴はずいぶん遅いな。俺の兄貴に比べたら止まって見えるぜ」


 棒きれをひょいと差し出し、ハヤテの兄貴の鼻先に突きつける。

 俺はヤツの軌道を読み、その前に棒きれを置いただけだった。


 それでもハヤテの兄貴はその棒にまともに突っ込んでいた。

 鼻を砕かれた、意識の外からの一撃を食らったかのように吹っ飛んでいった。


 「ぎゃいんっ!?」と兄貴。

 「犬かよ」と俺。


 俺はすでに棒きれを足元に落としていて、兄貴の懐から抜き取った魔術の杖を手で弾ませていた。

 チンピラたちは後ずさるどころか「うわあっ!?」とのけぞる。


「な、なんだ、今の……!?」


「太刀筋が、まったく見えなかった……!?」


 そりゃそうだ。俺は棒を振ってないんだからな。


「それにいつの間に、ハヤテの兄貴から杖を奪い返したんだ!?」


「スリの名手と言われる兄貴から、スリ取るだなんて……!?」


「こ……こいつ、バケモンだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?」


 倒れている兄貴を見捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げだすチンピラたち。


「す……すご……」


 声のしたほうを見ると、抱き寄せていた少女がまじまじと俺を見ている。

 まるでイリュージョンでも目の当たりにしたかのように、目をまん丸にしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] つよい。 [気になる点] 最強一族だけじゃなくチンピラレベルから嫌ってるのか。 (中間はわからないけど) [一言] ……生き残ってるだけで凄いのか。
[一言] バイバーイチンピラくーん! これに懲りたら悪さはしないでねー!
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