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19 愚者は誇り、賢者は欺く

19 愚者は誇り、賢者は欺く


 ひとりぼっちの少年は手をかざしたまま、突風に髪をなびかせている。

 その頭上を、満身創痍のダマスカスが打ち出されたロケットのように突き抜けてく。


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ダマスカスは暴走馬車に轢かれた猫のような絶叫とともに観客席を飛び越え、森へと消えていった。

 客席はそれまで水を打ったように静まり返っていたが、最初に我に返ったのは記者席にいる者たちであった。


「すっ……すげぇぇぇぇぇぇーーーーーっ! 一瞬で、一発で開けやがった!」


「『塔開きの儀』での最短記録だ! 間違いねぇ! ダントツで世界一だ!」


「それだけじゃねぇぞ! ひとりで門を開けるだなんて、勇者パーティでも不可能だったことだ!」


「それをたったひとりでやってのけるだなんて……あの少年、何者だ!?」


「おい!? いまの撮ったか!?」


「す、すみません! まさか落ちこぼれと言われていた生徒が、あんな一瞬で開けるとは思わなくて……!」


「バカ野郎っ! 特ダネをフイにしやがって! とりあえず、あの少年を撮りまくれ! あしたの一面にするんだ!」


 記者たちはこぞって魔導真写(しんしゃ)装置を構え、少年の雄姿をおさめる。


 この『塔開きの儀』において、トップで開門を果たした生徒は、将来を約束されたも同然。

 本来であれば観客席、特に権力者たちに向かってこれでもかと成果をアピールするのが普通なのだが……。


 少年は貴賓席には目もくれず、それどころかひとり思案に暮れていた。



 ――しまった。てっきり締まったときと同じくらいの速度でゆっくり開くと思ってたんだが……。

 まさか、あんなに高速で開くとは……ダマスカス先生には悪いことしちまったな……。

 せっかくだから、術式をちょっと改良してみるか。



 少年はまた手をかざすと、なにやらブツブツとつぶやいていた。

 それみたことかと、貴賓席にいる賢者たちは立ち上がって観衆に向かって訴えた。


「皆の者、よく聞くがいい! いまの開門は無効とする!」


「なぜならば、先ほどの開門は、あそこにいる生徒がした事ではないからだ!」


「扉がきちんと閉まっておらず、塔内との気圧の変化で開いたにすぎない!」


「それを証拠に見よ! あの生徒も半信半疑のような顔をしておるではないか!」


「やはりダマスカスの言うとおり、あの者はただの落ちこぼれなのだ!」


 賢者たちはこぞって少年の手柄を認めようとはしなかった。

 なぜならば、賢者たちはこの学院のOBたちである魔術師で構成されている。


 彼らは、最初に開門するのはウィザーズ寮の生徒たちであると信じて疑っていない。

 しかも落ちこぼれのバッド寮の生徒がひとりで、しかもかつてのOBたちの記録を大幅に塗り替える開門を認めてしまっては、魔術師の権威が地に落ちてしまうと考えたからだ。


 賢者たちが沈静化を図ったことにより、観客たちや記者たちは「なんだ……」と消沈する。


「どうりでおかしいと思ったんだよ、たったひとりで開門するなんて」


「ったく、とんだ詐欺師じゃねぇか。おい、もう撮らなくていいぞ」


「あーあ、真写(しんしゃ)の触媒をムダにしちまったじゃねぇか」


 しかしその文句は、一瞬にして驚愕で塗り替えられてしまった。


「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」


 なんと少年が手をかざした瞬間、開いていた門はゆっくりと閉じ始めたのだ。

 しかも少年は、「うん、うまくいった」みたいに喜んでいる。


「う……ウソだろ!? な、なにやってんだアイツ!?」


「ありえねぇ!? 門を閉じてるぞ!?」


「開いたのは偶然だったとして、偶然で閉じることなんてあるのか!?」


「や、やっぱり、あの生徒の力で開けたんだ!」


 手のひらを返し、ふたたび少年を激写する記者たち。

 賢者たちも我が目を疑っていた。


「そ、そんな、バカなっ……!?」


「白き塔の門を、開けるだけでなく、閉じるだなんて……!?」


「い、いったい、どうやっているのだ!?」


 しかし功績を認めるわけにはいかなかった。

 賢者たちはすぐさま火消しにかかる。


「お……落ち着くのだ、皆の者! 閉門をするのはたいした力ではない!」


「さ、さよう! 開門はとても難しいのだが、閉門は呪文を習いたての子供でもできるのだ!」


「そ……そうそう! あの生徒は、呪文の初歩の初歩を披露して悦に入っておる、低俗な輩にすぎん!」


 口からでまかせを並べ立てる賢者たち。

 少年の前にある門が閉じたあと、少年は東西の方角を見やった。


 東側の魔術師たち、西側の剣士たちは、まだ一生懸命になって門と格闘している。



 ――門は俺が開けたんだけど、司会のダマスカス先生がいなくなっちゃって、知らせる人がいないから、まだみんな気付いてないんだな……。

 そうだ、せっかくだからついでに開けてやるとするか。

 そうすれば、どっちが早く門を開けたかなんて、くだらねぇ争いも無くなるだろうし。



 少年は、バッ! と両手を広げる。

 左手は西側の剣士たちの門に、右手は東側の魔術師たちの門に向いている。


 その様子を、観客たちは固唾を飲んで見守っていた。


「あの落ちこぼれ……こ、今度はなにをするつもり……えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」


 本日最大級の阿鼻叫喚が、客席から噴出する。

 そのくらい、少年が起こしたことが信じられないことだったのだ。


 なんと、東西の門がゆっくりと、寸分たがわぬタイミングで、開いていくではないか……!


「うっ……うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 賢者たちはアイデンティティが崩壊したかのように、頭を押えて崩れ落ちる。

 観客席は騒然となっていたが、少年以外の生徒たちはそれを勘違いしていた。


 「うおーっ!」と雄叫びをあげる剣士たち。


「や……やった! 開いたぞ! しかもこんなに早く!」


「間違いなく、魔術師に勝ったぞ! 先輩剣士たちの無念を、ついに俺たちが晴らしたんだ!」


 魔術師は魔術師で大喜びだった。


「やったぁーーーっ! 最短記録を大幅に塗り替えたぞ!」


「こんなに早く開いたのは初めてだ! やはりこの世界は我ら魔術師のものだ!」


 剣士も魔術師も自分たちの勝利を疑わず、好き勝手に勝ちどきをあげていた。

 そして彼らは、同時に少年に気付いた。

 ぽつんと佇む彼を見て、指さしてせせら笑う。


「おい、見て見ろよ! あの落ちこぼれ!」


「当たり前だけど、まだ開門できてねぇぜ!」


「魔法合戦のときはちょっとすごいって思ったけど、やっぱり落ちこぼれね!」


「ざまあみろっ! お前は一生そこでそうやってろ! バーカっ!」


 生徒たちは少年をさんざん馬鹿にしていた。

 ただ、ひとりの少女を除いて。


 少女は熱気溢れる魔術師たちのなかにおいてもなお冷静に、しかし大いなる戸惑いとともに、真理を見極めていた。



 ――ふたつの門を同時に開けるだなんて、賢者にだってできっこないことを、やってのけるだなんて……。

 どうやったのかはぜんぜんわからないけど、これだけはわかる……。


 デュランくんが、開けてくれたんだ……。

 彼のことだから、剣士と魔術師の門、両方いっぺんに……。


 これだけの偉業を成し遂げたのなら、もっと誇っていいはずなのに……!

 なんで……どうして? どうしてあなたはそうなの……?

好評なようなので、さらに続けていきたいと思います!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 普通に自分のところのを(一つずつ)開ければいいのに、後ろの騒ぎが聞こえてたのかな?
[一言] ちょっとよくわからんな
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