17 魔術合戦やりなおし
17 魔術合戦やりなおし
しん、と静まり返る教室。
観客であった生徒たちの視線は、磔になったザガロたちと、冷気をまとう手をかざしたままのデュランダルの間をさまよっていた。
「な……なんだ、いまの……? いったい、なにがおこったんだ……?」
「あ……あんな呪文、初めて見た! ほんの一瞬だったぞ!?」
「しかも、デュランダルが出したのって、『皎々たる雹薔薇』じゃねぇか!?」
「アイスクリン様の得意とする呪文を、なんであんなヤツが……!?」
当のアイスクリンは、かつてないほどに目をまん丸にし、口をポカンとさせたまま、デュランダルを見つめていた。
「な……なに……? いまの呪文……?」
デュランダルは事もなげに答える。
「ああ、お前の呪文をマネさせてもらったんだよ。お前の呪文だから、お前の名前を付けたんだ」
「じゅ、呪文をマネする……? 名前を付ける……? あ、あなた、なにを言って……?」
異星人と言葉を交わしているかのように、困惑しきりのアイスクリン。
フィールドの中央でアゴが外れんばかりになっていたダマスカスは、不意に我に返ったかと思うと、狂った。
「ぎっ……ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?」
頭を抱え、朝日を浴びた吸血鬼のように悶絶する。
デュランダルがしでかしたのが何なのか全く理解できていなかったが、ともかくこのままではマズいと思ったようだ。
「いっ……いまのはナシだます! 反則だます! ズルだます!
こっ……この、卑怯者ぉぉぉぉぉぉ~~~~っ!!」
アイスクリンもまだ混乱していたが、デュランダルを卑怯者呼ばわりされてムッとする。
「なにが卑怯なんですか? デュランくんは、ちゃんと呪文使って……」
「え……えーっと、パートナーと同じ呪文を使うのは反則だます! だからやりなおしだます!」
審判のメチャクチャな言い分で、この試合は無効試合となってしまった。
磔にさせられたザガロたちは助けられ、仕切り直しとなる。
ダマスカスは再試合の準備をしてるデュランダルを、親指の爪を噛みながら苛立った様子で見ていた。
――い……いまのはいったい、何だっただますか……?
原初魔法はすべての魔術の源といわれているだますから、アイスクリンさんの魔術を再現できるのは理解できるだます……。
でも詠唱をあそこまで短縮できるだなんて、聞いてないだます……!
でもでも、あのインチキツララは次の試合では使えないだます。
これで、ザガロくんたちの勝利は間違いないだます……!
そう安心しかけて、ハッとなるダマスカス。
――いや、油断してはダメだます!
もしあの落ちこぼれが、別の魔術を再現できるのであれば、他にも攻撃手段はあるだます!
こ……こうなったら……!
ダマスカスは杖をついて、ヨロヨロとザガロたちのほうに歩いていく。
そしていけしゃあしゃあと宣言した。
「デュランダルくんがインチキした罰として、再試合は私がザガロチームに加勢するだます!」
「えっ……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
もはやメチャクチャであった。
観客の生徒たちもすっかりどよめいていたが、ダマスカスは完全に開き直っていた。
「それでは……気を取り直して……!
『魔術合戦』第一試合、デュランダルチームとダマスカス&ザガロチーム……ファイトだます!
ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
試合開始の宣言とともに、ダマスカスは杖をついてデュランダルに挑み掛かっていく。
その血走った目はもはや教師というより、完全に狂った老人であった。
――私がこうやって襲いかかっていけば、いくらデュランダルの詠唱が短くても、唱えることはできないだます!
すべての魔術師には、白兵戦に弱いという共通の弱点がある。
理由としてはいくつかあるが、代表的なものとしては、以下の2点が挙げられるだろう。
呪文の行使を阻害するため、重い鎧などは身に着けることができず、防御が手薄になる。
呪文の詠唱には意識を集中する必要があるので、その間は無防備になってしまう。
魔術の教師であるダマスカスはその弱点を知り尽くしていたので、それを利用した新たなる作戦でデュランダルに挑んだのだ。
やり方としてはインチキ千万であるが、魔術師しかいない戦いにおいては有効な選択肢といえる。
あるひとつの盲点さえなければ、この作戦は完璧だっただろう。
デュランダルは呪文を唱えるヒマもないどころか、下手をするとダマスカスによってボコボコにされていたかもしれない。
そう……あるひとつの重大な、盲点さえなければ……!
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!! 死ぬだますぅぅぅぅぅぅぅーーーーっ!!」
聖職者としての枠組みを完全に超えた形相で、大上段に構えた杖を振りかざすダマスカス。
しかしデュランダルは身体ひとつ動かすだけで、その一撃をやすやすとかわした。
「あの、ダマスカス先生? 『魔術合戦』なのに、物理攻撃ってありなんですか?」
「これもなにもかも、インチキしたデュランダルくんが悪いだます! 正義の鉄槌を受けるだます!」
キレやすい老人のように、喚きながら杖をブンブン振り回すダマスカス。
ポカーンとしているザガロたちに向かって、ヒステリックに叫んだ。
「なにしてるだますか!? 私が詠唱を妨害しているうちに、とっとと呪文を叩き込むだます!」
ザガロたちはハッとなり、杖を構える。
アイスクリンは我に返って抗議しようとしていたが、デュランダルに視線で制されていた。
デュランダルは杖攻撃をひょいひょいとかわしながら、呆れた様子でため息をつく。
「あの、ダマスカス先生。いくらやってもムダだと思いますよ? こんなので俺の詠唱は妨害されないんですけど……」
「ぎえええっ! ハッタリはやめるだます! 内心は怖くてビクビクだます!」
「いえ、ぜんぜん怖くないです。だって俺……」
彼は幼い頃から真剣の一撃に晒されてきたのだ。
非力な魔術師かつ、腰を痛めたおじいちゃん同然で、ド素人の攻撃など目を閉じていてもかわせるだろう。
そう、完璧かと思われていたダマスカスの作戦、その唯一の盲点は……。
この少年が、剣士の名門の息子であったこと……!
ザガロたちの詠唱を耳にしていたデュランダルは、またしてもつぶやく。
「そろそろかな」と。
ダマスカスの攻撃をよけるついでに足をひっかけて転ばせたあと、軽やかに身を翻し、手をかざした。
「ザガロ、レベル1っ!」
次の瞬間、デュランダルの手のひらから火炎放射のような炎が噴出した。
直撃させてはマズいと思い、足元に向かって炎をスイングさせる。
「うっ……!? うわあっ!? あちっ! あちっ! あちちちちっ!!」
ザガロたちは詠唱どころではなくなり、焼けた鉄板の上にいるかのように踊りはじめた。
炎はとうとうローブの裾に燃え移り、ザガロたちは「助けてぇーっ!」と大パニック。
ダマスカスは決闘フィールドの上から観客席へと転がり落ち、「こっ……腰がぁぁぁーーーっ!?」とのたうちまわる。
教室はもはや、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
クラスメイトや教師が大変な目に遭っているというのに、観客たちは目もくれない。
彼らの視線は、ステージの中央に立っているひとりの少年に向かって注がれていた。
「す……すげ……7人を相手に、たったひとりで……」
「しかも、白兵戦をしながら、一瞬で勝っちまったぞ……」
「あ……アイツは、バケモノか……!?」
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