16 魔術合戦
16 魔術合戦
学院生活3日目の朝。
俺はミカンに見送られて登校し、授業に出席していたのだが……。
またしても俺は、ダマスカス先生の足元に這いつくばっていた。
「あの、ダマスカス先生……昨日、俺は魔導107傑を全員答えましたよね?
それなのになんでまた、この落ちこぼれの席に……?」
昨日の授業のあとに何があったのかは知らないが、ダマスカス先生はだいぶ様子が変っていた。
頬はこけ、クマのある目は血走っていて、腰を痛めているのか杖をついてやっとのことで立っていた。
親の仇を見るような鬼気迫る表情で、俺を睨みおろしている。
「昨日のアレはどうせ、カンニングをしたに決まっているだます……!
カンニング、そしてまた授業を妨害した罰として、バッド寮はマイナス100点だます……!」
どうやら俺が想像している以上に、ダマスカス先生は俺のことが嫌いらしい。
「あの、減点は別にいいんですけど、せめて授業くらいはまともに受けさせてもらえませんか……?」
しかしそれがまた気に障ったのか、ダマスカス先生は俺の訴えなどまるっきり無視して授業をはじめる。
「午後からはいよいよ『塔開きの儀』が始まるだます。
そこからは実戦も伴うことになるだますから、その予行練習のかわりとして午前の授業は『魔術合戦』といくだます。
好きな者どうしで、最大6人までのパーティを組むだます」
『魔術合戦』……。
その名前から想像するに、魔術師どうしで戦うことなんだろう。
入学式のときに、校門で俺とザガロがやったみたいなことを、複数人でやるんだと思う。
しかし俺は檻のようなところに閉じ込められていたので、誰ともペアを組むことができない。
ダマスカス先生はせせら笑った。
「ムホホホ! やっぱり落ちこぼれのデュランダルくんと組みたがる生徒は誰もいないだますねぇ!
こうなったらひとりぼっちでやるだます!」
しかしふと、俺が這いつくばっている檻のそばに、人影が現われた。
「わたしがデュランくんと組みます」
「えっ……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
その一言だけで、教室じゅうは叫喚の渦に包まれる。
「そ……そんな……!? な、なんであんなヤツと……!?」
「ザガロ様をはじめとする、名家のご子息の誘いはガン無視だったのに……!?」
「なんでなんで、なんでぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!?!?」
首を捻って見上げてみると、そこにはクリンが立っていた。
俺を誘いに来たはずなのに俺には目もくれず、ダマスカス先生を見据えている。
「ダマスカス先生。わたしとデュランくんのペアが勝ったら、デュランくんをここから出してください」
クリンの氷のような冷たい視線に射貫かれたダマスカス先生は、ワナワナと震えていた。
「ぐっ……! 氷菓姫と呼ばれるほどのアイスクリンさんが、どうして……!?
どうして、こんな落ちこぼれに加勢するだますか……!?」
「特別な感情はありません。ただ、デュランくんが不当な扱いを受けていると思ったからです。
デュランくんは魔術師としての経験は浅いですが、その才能は本物だと思います」
「それを判断するのは、教師である私だますっ!
いいだます! どちらの判断が正しいか、はっきりさせるだます!
そのかわり、あなたたちペアが負けたらどうするだますか!?」
「わたしも、デュランくんといっしょにこの落ちこぼれの部屋で授業を受けます」
「そ……そんなのはダメだます! グラッセ家のご令嬢がそんなことをしたら、私の責任問題になるだます!
え、えーっと……そうだます! 負けたら、デュランくんは卒業までずっと、落ちこぼれの部屋で授業を受けるだます!」
クリンは「そんな……」と言いかけたが、「俺はいいぜ」と割って入る。
かくして、俺の落ちこぼれ人生を賭けた『魔法合戦』が行なわれることとなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ダマスカスが指をパチンと鳴らすと、教壇の後ろにあった壁が移動して広いスペースを作り上げる。
テニスコート4面分くらいの決闘場ができあがり、1メートルほどの高さにせりあがった。
生徒たちはそのまわりに集まり、観客のように取り囲む。
パーティ別に分れた生徒たちを、壇上から品定めするように見回しながら、ダマスカスは言う。
「では……アイスクリンさん、デュランダルくんのペアの相手は……! ザガロくんパーティだます!」
「おおーっ!」と歓声が起る。
「いきなり優勝候補じゃないか!」
「しかもザガロ様は6人パーティだから、3倍の戦力差があるじゃないか!」
「いや、デュランダルはどうせ役立たずだから、6倍の戦力差だろ!」
「いくら氷菓姫と呼ばれたアイスクリン様でも、6人の相手は無理だろうなぁ!」
「こりゃ勝負は決まったようなもんだな!」
観客たちの期待を一身に受け、ザガロを筆頭とした男子生徒たちがどやどやと決闘のリングにあがる。
リングインするなり、ザガロはダマスカスに問う。
「ダマスカス先生、この『魔法合戦』では、パーティメンバーの半数が降参、もしくは魔術による一撃を半数に与えた時点で決着となるんですよね?」
ダマスカスが「そうだます」と頷くと、ザガロはパーティメンバーたちに命じた。
「よし、みんな、狙うはデュランダル1匹だ。
僕の大切な婚約者であるアイスクリンさんを傷付けるなよ。デュランダルだけを黒焦げにするんだ」
作戦を皆の前で堂々と言ってのけるザガロ。
それほどまでに、彼は自信に満ちあふれていた。
「入学式の決闘はお遊びだ。今度こそ、僕の本当の実力を見せつけてやる」
この魔法合戦において進行役と審判役をつとめているダマスカスは本来は中立の立場のはず。
でも今は、頼もしい仲間のようにザガロを見つめている。
そしてザガロといっしょになって、不倶戴天の敵のようにデュランダルを睨んでいた。
――ムホホホ……!
原初魔法の弱点なんて、この私にはとっくにお見通しだます……!
原初魔法の弱点、それは……!
術式である以上、長文になることは避けられず……詠唱に時間が掛かってしまうということ……!
原始的すぎるがゆえの、弱点だます……!
もちろん1対1ならば、高速で詠唱することができれば、現代魔術に勝利することも可能だます……!
でも、相手は6人……!
ひとりを倒したところで、残りの5人の詠唱は止められず……!
デュランダルは、黒焦げ確定だます……!
ヤツを保健室送りにしてしまえば、こっちのものだます……!
ダマスカスは狡猾であった。
灰色を通り越したどす黒い脳細胞で、すでに原初魔法の弱点を見抜き……。
デュランダルを葬るための罠を、完璧なまでに張り巡らせていたのだ……!
デュランダルチームとザガロチームは、フィールドの両端に分れて戦う準備を始めている。
デュランダルはすでにダマスカスの術中に嵌まっているのだが、まったく気付いていない。
「それでは……『魔術合戦』第一試合、デュランダルチームとダマスカスチーム……ファイトだます!」
ダマスカスの合図とともに、一斉に杖を構える少年少女たち。
「震え! 凍え! 怖れよ! すべての生命絶えし大地、そのただ中にわたしはいる!」
「燃えよ尖! 燃えよ天! 燃えよ神! 古より天地を支配し竜よ! 惰弱なる愚民にその力を示せっ!」
いくつもの詠唱が交錯するなかで、デュランダルだけは無言のまま、両手をぶらりとさせていた。
動き出さないデュランダルに、アイスクリンは詠唱を続けながら「何をしているの!?」と視線で責める。
ダマスカスは大爆笑。
「ムホホホホホホホホ! どうやら自分でも弱点に気付いて、あきらめてしまっただますね!
でももう試合は始まってるだます! 今更やめたいと言っても、もう遅いだます!
ああ、でも跪いて命乞いしたら、考えてあげなくもないだます!」
しかしデュランダルは肩をすくめる。
「いや、ちょっとだけ遅れてスタートしたほうが、公平かと思って……」
「えっ」
ダマスカスがマヌケな声をあげているうちに、詠唱は終盤にさしかかる。
「五指は棘となりて一生、四象を貫く!」「咆哮は業火となりてすべてを焼き尽くすっ!」
デュランダルは「そろそろいいかな」とつぶやくと、早撃ちが得意なガンマンのような速さで手をかざした。
「アイスクリン レベル1っ!」
たったそれだけで、彼の手からは無数のツララが放出される。
それはさながら、火縄銃しかない世界で、突如としてレーザーガンが撃ち放たれたような光景であった。
「えっ……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
目を剥く観客たち。
迫り来るツララに、ザガロたちも詠唱どころか言葉すらも忘れてしまう。
次の瞬間、彼らはローブの袖や裾を射貫かれて吹っ飛ぶ。
6人まとめて、教室の壁に磔にさせられてしまった。
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