11 はじめての体育
11 はじめての体育
教室から、タンカで運び出されていくダマスカス先生。
これから保健室につれていかれて集中治療を受けるらしい。
ということは、俺はこの学院に入ってからというもの、もう3人ほど保健室送りにしていることになる。
魔術師科にいてこれなのだから、剣士科だったらもっと多いんだろうなぁ。
なんて思っていたのだが、クラスメイトたちはみんなドン引き。
「な……なんなんだ、アイツ……!? 107傑を全員言えるだなんて……!?」
しかしクラスメイトたちは先生を保健室送りにしたことよりも、107傑を全員言えたことに驚嘆しているようだった。
俺は不思議に思う。
人の名前を107人分覚えるのは確かに大変だと思うが、そんなに驚くようなことか……?
俺は教室の隅に佇んでいたアイスクリンに聞いてみた。
彼女は野次馬には加わらず、ひとり本を読んでいる。
「おいクリン、107傑を言えることって、そんなにヤバいことなのか?」
顔をあげた彼女は相変わらずのクールビューティーだったが、表情にはわずかな変化があった。
「107傑を言えるのに、なんでそれを知らないのか」とでも言いたげだ。
「高名な魔術師は、自分の名前に魔術をかけて保護をするの。
保護された名前は書物などに記載することはできるけど、頭で記憶することが難しくなるの」
わかりやすいその説明に、俺はすぐに合点がいった。
「そっか、それでみんなビックリしてたのか。でもなんで名前に保護なんてかけるんだ?
名前が覚えられなきゃ不便なこともあるだろうに」
「一部の魔術は対象を指定する必要があるでしょう?
名前は、対象指定にもっとも簡単で正確なものだから」
「な……なるほどぉ! 名前が覚えられなけりゃ、攻撃魔術の対象にもなりにくいってわけか!」
おもむろに納得していると、クリンはため息をついた。
「……あなたって本当に変ってるわね。
107傑が言えるのに、魔術においては当たり前である、名前の保護も知らないだなんて」
「まぁ、俺は魔術を学び始めたばかりだからな」
「ところで、どうやって覚えたの? わたしでも、10人覚えるのが精一杯だったのに。
この学院でも、全員の名前を言えるのはごく一部の先生くらいなのよ?
それも、記憶補助の装備をつかってようやく覚えているというのに」
「ああ、俺はちょっとばかし記憶力がいいんだよ」
クリンと雑談している間に、中休みの終わりのチャイムが鳴った。
次の授業は外で行なうということだったので、俺は教室を出る。
クリンと一緒に行こうかと思ったのだが、彼女はさっさとひとりで行ってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次の授業は、学院の敷地内にある草原で行なわれた。
厳しそうな女の先生がホウキを槍のように立て、俺たち生徒を見回している。
「私は飛空術を教えるフライドだ。飛空術というのはとても危険な魔術なので、ふざけたりするとケガをする。
マジメに、真剣に授業に取り組むように」
そして俺はいまさらながらに気付いたのだが、俺以外の生徒はみんな手にホウキを持っていた。
手ぶらなのは俺だけ。
フライド先生は、鬼教官のように号令する。
「ではまず、キミたちがどれくらいの腕前なのかを見せてもらおう! 跨がれ!」
生徒たちは一斉にホウキにまたがる。
俺がキョロキョロしているうちに「飛べ!」と合図がかかり、合唱が始まった。
「箒神よ! 我が産声と引き換えに捧げし翼を、いまひとときこの依代に帰依させたまえ! 飛翔っ!」
すると、ホウキにまたがった生徒たちは、風にあおられたタンポポの綿毛のように浮き上がる。
俺は思わず目を見張った。
「す……すげぇ……! 魔術って、空を飛ぶこともできるのか……!」
しかしみんなあんまり高くは飛んでおらず、ほとんどの生徒は地面から30センチくらい浮いているだけだった。
なかにはすぐに足を付いてしまう者もいた。
フライド先生もホウキに乗り、3メートルもの高みから俺たちを見下ろしている。
「どうした!? その程度か! 今日の授業でもっとも高く飛べたものには成績に加味してやるぞ!
この私よりも高く飛べる者がいたら、満点をやろう!」
フライド先生からそう言われ、みんなは「あがれぇ~!」とウンウンと唸っていた。
俺はひとり突っ立ってみんなを影ながら応援していたのだが、とうとうフライド先生に見つかってしまう。
「おい、そこの生徒! キミはデュランダルくんだな? なぜ飛ぼうとしない? それ以前に、触媒のホウキはどうした?」
俺は空に向かって叫ぶ。
「あ、すいませーん! 俺、ホウキを持ってなくてーっ!」
「ホウキを持っていないだと!? キミはそれでも魔術師か!?」
俺はなんの準備もせずに飛び込みで入学したので、ホウキを持っていないのは当然。
しかしその事情を知らないフライド先生からは呆れられていた。
ホウキに乗ったデブな男子生徒がユラユラと漂い、俺に体当たりしてくる。
見ると、その奥ではホウキに乗ったザガロがニヤニヤとこちらを見ていた。
どうやら、ヤツが取り巻きをけしかけたらしい。
デブの取り巻きは言いつけるように手を挙げて言った。
「せんせーっ! 高く飛べたら加点ってことは、飛べないヤツは減点ですよね!?」
「うーむ、そういうことになるな……。おい、デュランダルくん、ホウキがあるなら取りに戻ってよろしい!
授業時間内に戻ってきて飛べることが証明されたら、減点は許してやろう!」
「きっとコイツはホウキを持ってるけど、飛べないから忘れたフリをしてんですよ!
コウモリ野郎のクセして飛べないだなんて、ケッサクですよね! あははははは!」
ザガロがそう言うと、まわりにいる男子生徒たち、揃いもそろって低空飛行のヤツらがこぞって嘲笑を浴びせてくる。
俺の寮の掃除箱にはホウキがあったから、あれを持ってきたら飛べるのかな……?
と思ったけど、その前に原初魔法で飛べないか試してみることにした。
えーっと、みんなが飛んだときの音は「フィンフラ」だったよな。
となると、術式は……。
「筐裡の第一節に ・ 依代せよ ・ フィンフラ」
それから、音を力に変換。
「變成せよ ・ 筐裡の第一節を ・ 喚声から ・ 発破なり……」
あとは、この力を放出すれば……。
「奔出せよ ・ 筐裡の第一節を ・ 不踏よりっ!」
次の瞬間、俺はクラスメイトどころか、フライド先生をも見下ろすほどの高みにまで飛び上がっていた。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つでも大変ありがたいです!
ブックマークもいただけると、さらなる執筆の励みとなりますので、どうかよろしくお願いいたします!