生産ギルド巡り
服飾ギルドに所属した事で”仕立て屋の針子”のアチーブメントを獲得しギルドカードを手にしたクシル。現状得る事の出来るアチーブメントを獲得するために、全てのギルドを回るという当初の目的通り、服飾ギルドを後にして次のギルドに向かう事にした。
次のギルドでも保護者のサイン問題があるのではないかとギルドカードを受け取る際に受付嬢に確認を取った所、保証人の情報も備考欄に記載され他のギルドでは保護者のサインは不要という事で身一つで王都の市場通りをグングンと進むクシル。
全てのギルドに所属する事を告げると服飾ギルドの受付嬢も驚きの顔を見せたが現在の各ギルドの試験についても教えてもらう事が出来た。その話によると“情報収集”で得ていた6年前の試験内容と何も変わっていない事が確認出来た。
生産系のギルドは試験を受けてギルドに所属する。そしてギルドの求めるものを納品し技術力を磨き、信頼と実績を得る事でランクを上げて行く。入るのに条件があるが、入ってしまえば腕を磨くだけとい事だ。
逆に戦闘ギルドは試験が無く望めば誰でも所属はできる。だが低ランクの間は討伐や納品等にノルマがあり、そのノルマを達成できないとすぐにギルドから脱退させられ、二度と所属することができないと厳しい面がある。入るのは簡単だが、維持するのに苦労すると言った所だ。
まずは試験のある生産ギルドへの所属を終わらせようと市場通りから職人が多く住む商業地区と工業地区をぐるりと回っていく。
時間は昼頃になり、職人は手を動かし商人は商談に励む時間。ギルドカウンターの前には人も少なく空いて居れば順次試験を受けさせてもらえるギルドもあったが、他にも所属希望が居れば合わせて試験を行う所もあった。
試験の内容も事前に確認していた通り難しい物は無く、所属するにあたって必要な基礎知識のテストや基礎的な作業の実演といった試験だった。知識だけなら誰にも負けることは無いクシルには試験とはいえない内容で、瞬く間に所属を示すマークがギルドカードに付与されていく。
[クシルはアチーブメント”鍛冶屋の丁稚”を達成しました。]
[クシルはアチーブメント”若葉の薬学者”を達成しました。]
[クシルはアチーブメント”調理師の卵”を達成しました。]
[クシルはアチーブメント”細工師の見習い”を達成しました。]
無事に各ギルドに所属し”情報収集”にアチーブメントを獲得したログが流れてくる。だがトラブルがなかったわけでは無かった。
それは薬学ギルドでの事だった。丁度、薬学ギルドへの所属希望の少女がいたため合わせて同じ試験を受ける事になった。
「この水薬を調合してもらう。材料はその棚から取りたまえ。出来上がり次第声をかけてもらう。それでは説明は以上だ。始めてくれ」
試験の内容は目の前に置かれた水薬を見て同じ物を調合するというもの。服飾ギルドとは違い薬学ギルドは学者気質が強く出ていて自分の研究が第一、試験の時間なんて二の次。そんな対応にクシルは手のかかる素人を排除する試験なのだろうと感じていた。
だが大賢者時代に薬学はある程度収めていたクシルは難なくお題の水薬を調合しはじめる。ところが同じ試験を受けている少女はその水薬を前に手を動かせないでいたのだ。
「出来ました……けど?」
滞りなく無事水薬が完成し試験中も別の資料を読み漁っていた試験官に声をかけると試験官は水薬に目をやりしぶしぶと効能を調べはじめる。試薬と手帳に目をやりながら驚いた顔を見せた後、不満そうにクシルに声をかける。
「正直驚いています…この水薬を作るにはかなりの知識と技術が必要です。ギルド所属前のそれもあなたの様な子供が作れるとは思っても居ませんでした。えぇ技術を持っているアピールとしては十分です。
十分ですが試験としては不正解です」
「いや、提示されてる薬を作ったんですけど……?」
「何を言ってるんですか。私が提示したのはただの毒消しです! ギルド所属試験でこの水薬を作らせるだなんて!」
そう言って試験官は目の前にあるお題の水薬を手にし見た目も違う事を比較するために両方を並べて置く。だが、お題の水薬とクシルの作った水薬に見た目の違いはなかった。
「あれはDランクの昇進試験の……あれ……コレ……毒消しじゃない……?」
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「いやー二人ともすまないね! クシル君の技術は本物だとわかった! だが飛び級という訳には行かないんだ」
どうやら試験官が試験用の水薬を取り違えていた事でクシルはギルド所属試験のお題にそぐわない物を作製していたのだ。少女の手が動かなかった理由は水薬の難易度に違和感を感じてだったようだった。レベルが上の試験に対して試験官に問い合わせようとした所、もう一人の試験者が何事もなく作り始めれば混乱するというもの。
その後少女は試験を受け直していたがクシルはというと試験官にカンニングを疑われ再度試験官の前で調合を見せる事になっていた。
「それは飛び級にすると間違った事を報告しないといけないからでは?」
「アッ…ソレハ……試験終了という事でギルドカードを作るからちょっと待っててネ……」
少女の一言は試験官の”この結果を報告したらどれだけ自分の研究時間が削られるか……隠さねば”という心中を見事に見抜き、これ以上の問答は危ないと感じた試験官は大汗をかきながらそそくさと試験終了の作業を始めた。
「君すごいね! まだ小さいのにあの薬作れるだなんて! ね! どこであんな事勉強したの? 今までギルドに入ってなかったんだよね? お父さんかお母さんに教えてもらったの?」
(君も十分小さいだろうに)
クシルの三つか四つ位年上であろう少女。背丈で言えばクシルと同じだが背筋の通った身体から発せられる大きな声に対して一言言い返そうかと考えたクシルだったがに金色二つに結った長い髪を揺らしながら試験官にチクりと釘をさす様子を見るに相手は口が達者だ。
朝方のエリとのやり取りを思い出し要らない事を言っても面倒になるだけだと口をつぐむ。
「内緒って言われてるんだ。じゃぁね」
「え? ちょっと待って! ね! もう少しお話ししましょう?」
大きな声でグイグイとクシルに迫る少女。どうやら試験前の騒動で目をつけられてしまったようだったがまだ他にもギルドを回る予定のクシルは時間を取られたくないと少女の誘いを断る。
「ごめんね、時間がないのでまた今度」
早く終わらせようと手早く進めてくれたおかげでギルドカードをすでに持っていたクシルは少女より早くギルドカウンタを後にする。受付で試験官に何度か謝られたがギルドカードを受け取った後は足早に薬学ギルドを後にした。
「今度っていつかしら……同じギルドメンバーだものねまたすぐ会えるわよね……」
「絶対……聞きださないと……!」
吐き出されたその言葉はもうクシルには聞こえないが、それでも少女の視線はクシルの後ろ姿を刺すように追っていく。
先ほどまでの柔らかいまなざしも無く少女はもう見えなくなったクシルを目を細め睨んでいた。
前話の情報収集スキルの説明を少し修正しています…




