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仕立屋の針子

 ”転移魔法(ドアーズ)”はクシルが開発した比較的新しい魔法であった。それは一度異空間へ移動して目的の近くのアンカーポイントから出るというもの。


 アンカーポイントはどこでもいい訳ではなくある程度の制約が存在する。特に座標の役割をしている魔道具は魔法の要であり迂闊に人に触られていいものではない。

 そういった経緯もありクシルは人の出入りが少なく管理可能な建物にアンカーポイントを設置していたのだった。




 王都近くにある小屋その地下に転移したクシルは隠し扉を使って表へ出る。小屋が幾つか立ち並ぶその区画は夜には閉まる王都正門を通れなかった者たちが止まる簡易的な宿泊所であり、小屋と呼んでいるが実際にはただ屋根が付いて居る箱であった。

 王都に近くそして門からも良く見えるので悪さをするには難しいその施設は魔道具を隠すには丁度良く、誰が建てたか不明という事で不審がられる事もあったが今では気にするものもおらず夜になると少なくない声が聞こえる状況であった。

 

 ただ今は昼前の時間帯、王都に用があって一晩過ごす利用者達は朝には正門に向かう。誰もいないことを確認したクシルは魔法を唱える。


[クシルは”隠密魔法(ステルス)"を唱えた。クシルに"気配遮断"、“感知遮断”の効果。]


 王都に入るには王都への訪問理由や出身、身分の証明などが必要で手間がかかる。子供が一人……という点に身構えた訳ではなく生前から大賢者という身分を証明する為に奔走しいちいち不審がられていたクシルは()()()()()面倒事を避けるために隠密魔法で姿を隠す事にしたのだ。


 門には“気配遮断”の効果を持つスキルや魔法への対策に感知魔法が掛かった魔道具を設置してある。だがその魔道具自体が賢者の塔で研究された代物。

 “感知遮断“によって対策済みであり気配を断ったクシルは門をするりと抜けていく。


 難なく王都に入ったクシルは近くの市場を訪れた。昼前の時間で市場は一段落しているはずだが、活気は今だ続いている。

 ギルドに所属する順番を決めているわけでは無く一番近い所から…と思っていたクシルの目にとある展示物が映る。


 生産ギルドの一つ“服飾ギルド”。服飾の神の許、レザーアーマー、ローブ等の軽装備から普段着、フォーマルな衣装、革や布材を扱う業種の組合だ。

 “アチーブメントリスト“の項目には戦闘職だけではなく生産ギルドの項目もあり服飾ギルドに所属すれば”仕立屋の針子“というアチーブメントが取得できる。


 そんな服飾ギルドの販売ブースに置かれた黒い天鵞絨(ビロード)で織られたローブの前でクシルは目を凝らす。

 見事な裁縫技術に魔力を持つ糸を編み込んであるのだろう特殊な素材。魔力の流れから解析して“魔法反射”の効果が付与されているのがわかった。


(ここまでの物を自分の力で作り上げないと“魔力の解放者”のような道を究めた際のアチーブメントは取得できないのだろうな)


 その道を究めるという事がどれだけ難しい事かはすでに究めた道を歩いた事のあるクシルは十全に理解していた。

 その圧倒的な技術力に落胆したり絶望したりするわけではなく、逆に目標を目にする事ができて一歩前進という気持ちでローブに施された技術を少しでも理解しようと短くない時間その場でローブを眺めていると後ろから人影が現れる。


「おや、かわいらしいお客さんだわね。このローブに見とれるとはなかなか目が良い」


 まじまじと見すぎたのだろうか恰幅の良い女性が声をかけてくれたのだ。


「このローブすごく良い装備だね。ローブ自体に魔力反射が付いている物はとても珍しいので気になった」


 生前の記憶を取り戻したばかりでクシルという6歳までの自意識が薄れ喋り方も内容も6歳とは程遠いやり取りに女性は驚きの顔を見せる。


「その年でローブの加工がわかるのかい……その通りさ。アラクネの吐く糸が手に入ってね」


「それは珍しい素材を手に入れたんだね…だから値札が付いてないのか」


「そうさね、これは言ってみればお披露目用の品物だからね。こんな場所で値札なんてつけても誰も買う奴なんか居ないさ……もしかしてボウヤ買う気だったのかい?」


 ローブの廻りで値札のつく品物を改めて見ると、そこに有るのは良心的な値段で良心的な品質の技術的に見ても普通の品物ばかり。

 このローブはギルドに所属している職人のレベルを外部に見てもらうための展示だったのだろう、段違いの技術力は職人のレベルを披露するには十分だった。


「それともなにかを探しに来たのかい? いや迷子……?」


 生前も多くの誤解を招いてきたが子供に戻っても誤解を招くようでクシルは女性に向かって完結に目的を話し誤解を解く。


「服飾ギルドに入りたくて」


「ほぉ……まだまだなんでもやりたい年頃だろうに……まぁあんたみたいな目の奴は歓迎さ。年のせいか仕事なら融通できるから何かあったら私が顔利きしてやるよ」


 幼い身でギルドに所属する子はそう多くはないが居ないわけではない、大半が道を極めんとする最初から情熱を持った子、その次に二代目三代目といった家系で技術を受け継いだ子だ。

 親の姿が見えないので前者だとにらんだ女性であったが目の前の幼子は前者でも後者でも無く別の理由を答えた。


「なんでもやりたい年頃……そういえばそうだね。まぁなんでもやりたいというのは正解で全てのギルドに所属してみるつもりなんだ」


 全てのギルドに所属するそういう例は過去にも実例がある。だが、それは自分は何が得意で何ができるかわからない、そんな人間が実力や得意な事を見つける為に全てのギルドに一度所属する……そんな理由としては半ば自暴自棄になったような実例なのだ。

 だが女性の目に映るまっすぐ自身を見つめる幼子は自暴自棄になったとは思えない。


「ハハッ! 面白いね!! あんた良い目をしている。技術を盗んで自分のモノにしようという目だ。とりあえずやってみるなんて目じゃないね、見ればわかる…見れば分かるが……あんたの熱を見誤ったね! あんた全てのギルドにその熱を注ぐつもりだったのかい! それは面白い!」


「ありがとう、だからこそ少しでも早く所属して事を成していかないとね」


 事も無げに肯定されてなお笑いが止まらない女性だった。


「とんだ大物だね! わかったちょっと待ってな!」


 そういうとクシルのまわりを確認した後ギルドカウンターの奥へと消え変わりに受付嬢と思われる若い女性が声をかけてくれた。


「君がギルドに所属したいって子かな?」


「ん? はい、早速手続きを進めたいのだけど」


「ええ構いませんよ。ではまずこちらの書類に保護者のサインを書いてもらってから、簡単な筆記試験を受けてもらって合格となれば所属となります」


 一通りの説明を受けるも自分が今6歳の身体であるという自覚が足りないクシルは父と母にサインを貰っているわけもなく、筆記試験の前段階で早速足止めを食らうのだった。

仕立屋の針子→服飾ランク1~ランク5→針の穴に想いを通す


基礎アチーブメント、職種ランク、極意アチーブメントという感じで取得できます。

魔法使いの弟子とかぶってるので基礎アチーブとタイトルを少し変更

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