6年間の穴埋め
魔法を術式で細かく分類すると占星術や呪術、幻術や妖術、東では忍術と呼ばれる術式があり、多岐にわたる術式体系が存在している。
だが魔力操作という面で大きく分類するならば魔法は三つの分類を持つ。
”放出”、”還元”、”譲渡”
魔力に属性を宿して”放出”することで――魔力に属性を宿し魂へと”還元”することで――魔力に属性を宿して”譲渡”することで――魔の法則が力を現す。
この三分類は魔導士としての方向性にも関係しており、”放出”が得意な魔導士は攻撃重視の”キャスター”に、”還元”が得意な魔導士は回復重視の”ヒーラ”に、”譲渡”が得意な魔導士は”エレメンタラー”に魔導士ギルドの中でも得意分野で分かれていた。
三分類を説明するのに必要なもう一つの要素が属性。属性とは基礎属性の”火、氷、雷、水、土、風、光、闇”そしてそれらの組み合わせ、特殊な物として、”無、時”といった属性がある。
魔力を術式に通してこれらの属性を付与し魔力操作を行う事で魔法となる。
アチーブメント取得のログが流れた後に、クシルはアチーブメントリストで取得条件を確認していく。
三分類の魔法の内、最上位魔法を発動する事で職種ランク5までのアチーブメントを取得し、全てのランクを取得する事で各魔力操作を極めた事が認められ”魔力の解放者”、”回帰する魔力”、”魔力の源泉”を取得。最後に三分類全てを収めた”魔を極めし者”という流れで取得していた事が確認できた。
大賢者であれば師からの教えや受け継がれてきた図書館の書物から魔力操作の方法や各属性の扱い方、極意を学ぶ機会がある。
しかし一般的な魔導士達では5段階ある魔法の2段目、得意な属性であったとしても3段目がやっとというのが普通だ。つまり星から見た”魔を極めし者”のアチーブメント取得者は現段階ではクシルと現大賢者エリくらいだろうとクシルはアチーブメントの厳しい条件を再確認していた。
一息ついて後始末と言わんばかりに何か言いたそうなエリを差し置いてクシルは塔の焦げた部分を魔法で修復し始める。といっても発した熱はシルフの風魔力ですぐに窓から抜けていったため表面部分を触媒を使った土魔法で綺麗にするぐらいでその作業もすぐに終わり、それを察してかクシルの背中から声がかかった。
「ご主人様は死んでも生き帰っても構わず通常運転でございますね……」
声の主はフクロウの姿をした使い魔のシャル。出来るフクロウは元主人に呆れ顔で器用にお茶を運んで来た。
「もうご主人様はやめてくれ、お前の主人はエリだ。私の事はクシルでかまわないよ。……それにしてもお前達の言う通常運転はなんか棘があるな」
呆れ顔のシャルに対して反論するクシルだったが
「『虹ウサギが僅かながら空間移動している!』って研究をはじめ気が付いたら2年も”情報収集”で虹ウサギを追っかけ回し。挙句、空間移動にアンカーが必要だとかでさらに3年かけてアンカーを作って世界各地に設置しに出かけ……弟子を年単位で放任するのが普通の師匠でしたからね」
通常運転に痛い目を見た張本人であるエリが先ほど焼かれた毛先をケアしながら反論に反論で返す。
「知りたがりは死んでも知りたがりって事が良くわかりました」
思い当たる節が多すぎるクシルは流石に少し反省したのかそれ以上の反論をする事はなかったが、今更思い返しても意味が無いと逆に開き直りシャルが淹れたお茶に手をかける。
「で、これからどうするのですか?」
もう少し反省の色を見せるかと期待もしたが、期待するだけ無駄だったようで新しい話題をふるエリ。
「そうだな……とりあえず全てのギルドに属してみようかと思っている。ギルドに属せばそれぞれの基礎的なアチーブメントを取得できてそれ以降の取得方法が開示されるだろうしな。ギルドの場所は6年前と変わってないよな?」
「そうですね、支部も含めると王都で全てのギルドへ行く事ができますね」
それは5大陸のうち賢者の塔が立って居るルアン大陸、その中心に位置するブルゴ王国の最大の都市である王都シャブリクリュ。
歴史も長く交易の中心地としても栄えてきた為か生産ギルドの大店が設置されている。また賢者の塔の近くという事もあり魔導士ギルドの本部がありその他の戦闘ギルドについては支部が設置されていた。
「6年の間”情報収集”ができてないとなると情報が古くていかんな」
クシルが大賢者として意識が戻るまでの6年の間は世界の情勢を知る術がなく、記憶として残っているのは自分の回りの事だけ。
生前の知りたがりが抜けないクシルは自分の情報が古い事に苦い顔をして記憶にふける。だがすぐになにか思い付いたのか顔色が変わった。
「……そうだ! エリ言いつけ通り魔石への書き込みは怠ってないだろうな?」
スキル”情報収集”の内容は情報書込によって書き出しが可能だった。大賢者としてエリを育てた際に口うるさく自分の知りたがりを弟子に伝授していたのだ。
『情報は常に更新し続けろ古い情報は適宜消していけ。ただしバックアップは怠るな。新しい情報の基礎となる可能性もある』……と
「6年前からの情報書き込み済み魔石はありますけど……6年の間のログ全部読むのですか? いや読まないって回答が来ない事ぐらいはわかっていますが正気じゃないなと……」
言いつけ通りエリは”情報収集”を使って騒動や時事ネタを押さえた、情報の塊を作り続けて居た。
ある程度整理はされているがその情報の塊は6年の間、エリがコツコツと集めて来た世界中の情報であり、それを読み直すと言い始めた師匠にエリは少し引きつつもその魔石の準備を使い魔たちに依頼する。
「流し読みだ、流し読み、それに自分の持っている情報と不一致が有った時に見返すだけさ。しばらく借りるぞ」
「まぁ構いはしませんけども……王都のギルドを回るのでしたら魔導士ギルドだけは気をつけてくださいね? 師匠が基礎魔法なんてもの作るからあいつら増長しているんですよ……」
《少し師匠の責任ですよ?》ときっと伝わらない怒りを込めて釘を刺すエリだが、もちろんクシルには伝わらない。
「それは舐められているからじゃ……? まぁ魔導士ギルドはもう用がない……」
ゴッ
言ってはいけない一言を言ってしまったようで、6年分の情報が書き込まれた拳大の魔石がいくつか物理的に情報を頭に入れるのかというスピードでクシルの額めがけて飛んできた。
「もう! 一応そんな大賢者の弟子なんですよ!? もう私良くわからなくなってきましたけど!」
本当に呆れ顔のエリは次の目的地へと向かう準備をする師匠兼弟子を見送る。
「一応……弟子なんですから……なにかあれば師匠に言うんですよ?」
「おう! じゃ行ってくるな」
そんなエリの心配をよそにクシルは次の目的を達成するために額に回復魔法をかけつつ、王都近くの隠し小屋に転移するため転移魔法を起動した。
気になる言い回し等を少し修正




