ジェヴォーダンという魔物④
長らく空いてしまいました…
前回までのあらすじ
世界の理である”アチーブメント”を取得するべく転生を果たした元大賢者クシル。
剣聖からの依頼で魔導士ギルドの調査を行い大賢者への襲撃を知るクシルと剣聖は急ぎ賢者の塔へと向かう。
魔導士ギルドで負傷した剣聖を賢者の森に置いて先行するクシル。賢者の塔の最上階にたどり着いたクシルは襲撃者である魔導士ギルドギルドマスターのシェナス、そして魔導士ギルドでの出来事から接触によって魔法を奪うことができるとされている魔物ヴォーダンを現大賢者のエリが圧倒している所に出くわす。
一度敗走したシェナスだったが、事前に画策し賢者の森に導いていた魔導士ギルド員のポワンシーを人質に取り大賢者の前に再度現れる。
シェナスは人質と巧みな話術――そして話術の裏に隠されていた古の魔技”言霊”――を使いエリの精神を揺さぶっていき、隙をつかれたエリはヴォーダンとの接触を許してしまう。
接触により魔法をそして記憶を奪われてしまったエリ。なんとか助けようと相対するクシルにその魔物は話す。
「ヴォーダン、ではない、我の名はジェヴォーダン、だ」
と
――どうか……ジェヴォーダンを救ってやってくれ――
”ジェヴォーダン”――賢者の塔の係留場でクシルと相対する魔物から発せられたその魔物自身を表す名前。それは魔導士ギルドの地下で出会った闇を纏った精霊が”救ってほしい”と最期に語った名前であった。
未だ”生ける錘”の盾を挟んで視線を交わすジェヴォーダンとクシル。視線の更に先、ジェヴォーダンの後ろには傷つき床に倒れているポワンシーと魂の干渉による影響で意識を失っているエリの二人が居た。
近くにはプライドを傷つけられたからなのかパクパクと声の出ない口を動かして茫然としているシェナスが居る。
今は動きが止まっているとは言え人質として有効である二人。まずは二人を確保して安全な場所に移さなければジェヴォーダン達の絶対的有利は揺るがない。救出に向かうべく魔導士ギルドで見せた雷魔法による高速移動でジェヴォーダンの後ろに回り込もうとクシルは魔力を練り始める。
それを魔力感知で感じ取ったのかジェヴォーダンがすかさず同じように雷属性の魔力を練りはじめた。同様にして高速移動により回り込むのを防ぐ、または雷魔法により磁界を形成して雷魔法の操作を乱す……ともかくクシルの狙いを読みとった上でそれを潰すつもりなのだろう。
魔法戦に置いて相手が練った魔力から属性を読むのは定石、動かずとも発する魔力で牽制しあい、思考の中で先手を取り合う。それは賢者の塔で行われる弟子と師匠の訓練の一つ。ここ最近では見る事の無かった賢者の塔での日常の一つだった。
クシルはジェヴォーダンの優位を削ぐため人質を助け、ジェヴォーダンはその絶対的優位を用いてクシルを攻め立てる。一歩も動くことなく思考の中でお互いに有利な場面を展開しようと駆け引きを繰り広げる。
いくつもの属性を付与させた魔力を纏い、着実にそしてすぐさま対処していくジェヴォーダン。短い間に積みあがって行く試行の回数、その回数が増えていく毎にクシルは確信しそして思考の渦に落ちていく。
(どうすればいい……?)
目の前で行われているやり取り、少し前――実際の年月にすればそれなりに前――ではあるが何度も行ったその訓練に感じるのはどこまで行けるのかという弟子を慮る喜びと知的好奇心、そして懐かしさ。
だが当時と今では状況が違う。クシルは息を吐き頭の中にある渦を消す為に思考を別の物へと向ける。
「魔法の読みも対策も……エリそのものだ。ジェヴォーダン君から答えを聞きたい。……君は魂に干渉して魔法を…記憶を読めるのか?」
「……肯定する。魔力を食べ、記憶を食べ、魔法を、扱い方を、大賢者の知り得る事柄を、読み取った」
仮説は証明され、そして解も提示された。
ジェヴォーダンはソウルイータであり魔力を食べる魔物。それが突然変異なのか魂に干渉し記憶ごと魔力を食べるように進化しそれを自身の力としている。
シェナスは大賢者の持つ魔法をジェヴォーダンを介して利用しようと考え、ジェヴォーダン自体は魔法ではなく大賢者が持つ知識が目的で共に狙いは大賢者であるエリの記憶、その一点で協力関係にあったという所だろう。
「エリ……大賢者の知識を読み取ったならば、魔法に関してこれ以上ない知識を読んだ事になる。その上で僕に何を求める?」
「我が求めるは、記憶の在処」
自身に求められている物であるはずなのに聞き覚えの無い言葉に目を細めるクシル。脳裏で検索をしながらも思った事が口から洩れる。
「記憶の在処…? それは……幾人の記憶を読んできた君のが知っている事柄だと思うけど」
「肯定する。しかし、否定する。食べた記憶は言わば追体験の出来る本。あくまで他人の記憶。だが主はどうだ……大賢者の師匠でもあり弟子。その記憶は混ざりあっていると大賢者は考察していた」
魂には記憶、そして記憶と経験と思考によって形成された”心”が刻み込まれている。魂と心、そして記憶は密接にかかわっている。
(”記憶の在処”――魂のどこに刻み込まれているのかという事だろうか)
エリの記憶を、魂を奪われた今、どう対処するべきかクシルの頭の中は思考の渦に飲まれていた。
このやり取りで渦を止めてくれると思ってはいない、ただ時間稼ぎのつもりでジェヴォーダンに質問をぶつけたのだが思いのほか真摯に言葉を重ねてくれる。
”魂”それは、転生したクシルにしても未だわからぬモノ。星の代行者としての優先は”アチーブメント”を取得する。理を解きほぐす事。だが、そもそも星の仕事である”魂”とは何か考えないわけではなかった。そんな知識欲をくすぐるやり取りにクシルの天秤は時間稼ぎではなく思考の渦の中心に座る知識欲に傾いていく。
「ジェヴォーダン、君は何を知っているの?」
だがそれを遮る声。
「うるさいッ!!」
視線の横から飛んできた投げナイフを、ジェヴォーダンから視線をそらさずに魔力針で撃ち落とすクシル。そのナイフの発射点は先ほどまで動きを見せなかったシェナスが居た場所。
「何をやっているヴォーダン! さっさと蹴散らせ! 『――其の身体を往く雷よ猛れ!!!――』」
何度自分の言葉を遮れば気が済むのかと呆れた表情を見せるクシル。クシルの言霊を解き、身体の信号を混乱させ精神支配の効果を乗せた言霊をジェヴォーダンとクシルに向かって口にするシェナス。
だが種がわかっている今、大賢者程の技量があれば音に乗っている魔力を反転化させて防ぐ事も可能だと気が付くにはシェナスの頭には血が上りすぎていた。
「なぜだ! なぜ言う事を聞かない……! お前を大賢者にしてやったのは私だぞ」
言霊を使ったというのにクシルもヴォーダンも一瞥もしない状況に焦りと憤りで声を荒げるシェナス。大賢者の魔法を奪う前提で左腕を切り落とし、雷化も行ったというのにジェヴォーダンは応えてくれない。
エリを追い詰めていた時の冷静さは今や見る影もなく、逆に追い詰められていた。
「お前も! 動くなと伝えたハズだ……! その代償は払ってもらう!」
ジェヴォーダンが動かない今、言霊でクシルの行動を縛れないのであれば……と絶対的有利を見せつける為に隠し持っていた投げナイフをシェナス自身が手放したポワンシーに向けて投げる。
ざざざざッ
クシルの耳が風を斬る音を拾う。それはシェナスの手から放たれた投げナイフの風切り音、そしてそれとは別に何か大きなものが風を斬る音。次第に音を大きくさせ賢者の塔に響いていく。
[ランスの”天駆”]
ジェヴォーダンの絶対有利を覆す為にクシルが取った時間稼ぎ。それに応えるように片手に剣を携えて賢者の塔の外壁を情報収集に流れて来たスキルの名前通り、剣聖は賢者の塔を天を登るかのように下から駆け上がる。
そのまま係留場の柵を越えるとシェナスの投げたナイフを魔力の針で叩き落し目の前に倒れていたポワンシーの前に滑り込んだ。
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「待ってました」
クシルの歓迎する声を耳で聞きながら剣聖は周囲の状況を確認する。
回復魔法をかけてもらい身体は回復しているが気力の回復は心もとなく本調子とはまったく言えない様子で肩をおおきく上下させていた。
「剣聖ッ!!! どこまでも邪魔な奴だ!」
そんなシェナスの叫びを無視しポワンシーを抱きかかえた剣聖は乱れた呼吸を整える。
スゥ――
肺に溜まっていた空気を全て吐きだし、息を止めた剣聖は剣に力を込めてジェヴォーダンに向かって走り出す。
後ろからやってくる剣聖に対しジェヴォーダンは振り向くことなく手を振りクシルとの間にあった”生ける錘”の盾を剣聖の前に動かして進路を塞ぐ。
そんな事お構いなしに盾に向かって走り続ける剣聖は込めていた力を抜き、盾を軽く一撫でするように剣を沿わせる。脱力と言えど剣聖と謳われた人物の剣。防いだとは別の違和感にジェヴォーダンはその瞬間だけは目線を剣聖に向けた。
目にもとまらぬ速さで振られた剣、そして振るわれた盾の動きクシルもジェヴォーダン同様にその剣技に目線を奪われ魔力感知を持って食い入るように見守っていた。
[ランスの”魔斬り”]
魔法の液体で出来た超高密度の盾は剣筋を起点にするりと斬り分けられ。その後にやって来た剣速は斬り分けられた盾を強引に斬り開く。
斬り離された盾の間には人が通れる道が作り出され、剣聖はその隙間にポワンシーを抱きかかえたままねじ込みすべり込む。ジェヴォーダンとの距離を詰めなおスピードを落とさず剣聖は剣を構えたまま進む。
魔力を斬るという芸当、魔力密度を上げたとしても恐らく自身に届く刃。ジェヴォーダンも危険を感じたのかその刃が届く前に叩き潰そうと以前よりも格段に上がった魔力操作で拳の魔力密度を上昇させ向かってくる剣聖に振りかざす。
ドゴンッ
轟音あげ床板の石材がめくれ上がり、轟音の中心地から亀裂が走る。
だがその亀裂はジェヴォーダンの想定していた規模ではなかったのか、すぐさま迎撃準備を行っていた。
フェイントに備えて身体を起こしたジェヴォーダンの目に入ったのはトップスピードのままするりとジェヴォーダンの攻撃を避けてクシルの隣まで足を進めていた剣聖の姿、同時に風魔法で大賢者の身体を引き寄せ、抱きかかえるクシルの姿も見てとれた。
抱きかかえていたポワンシーを床に下ろした剣聖はクシルに回復をお願いすると再度ジェヴォーダンの正中線上に剣を構える。
「状況は?」
「相手はジェヴォーダンという名前付きのソウルイータ、仮説通りです。魔力を食べるという能力が異常発達したのか魂をに干渉して記憶を食べる能力を有しています。魔導士ギルドのギルドマスターの妨害もあり大賢者との接触を許してしまいました」
「そうか……それで……大賢者は、エリちゃんは……なんとかできるのか?」
”魂の干渉に記憶を食べる”言うは易し、原理もなにもわからないその能力。一端をくらった剣聖自身でも未知の症状に苦しんでいるというのにその対策、ましてや回復策なんて思いつきもしない。
自身の不甲斐なさは自覚している、だがこの魔導士ギルドからの一連の真っただ中にいる友人であれば……大賢者の弟子であればと一縷の望みが口からこぼれる。
「わかりません」
聞きたくはない一言、泥沼の中に居るような気力が尚沈み、なんとか確保していた期待という光源は消ていく。暗澹たる思いの中、剣聖は落ちそうになる視線をなんとかこらえジェヴォーダンに向かい合う。
だが剣聖には見えてなかっただけだった、わからないと答えたその友人の目には期待という光が失われていなかった事を。
「ですが……大賢者の仕事はこの世界に起きた出来事を読み解く事。わからないを無くすのが仕事です」
ポワンシーのケガを回復させ、まだ動ける大賢者の使い魔に二人を任せたクシルは片手剣を手に剣聖の隣に立つ。
ジェヴォーダンから離さないようにと視線は前を向けていたが自然と下がっていた顔を直した剣聖は横目でそのあふれんばかりの光に目をやる。
その言葉は、行動は剣聖を引き上げ、まだ回復しきらない気力を身体に回すには十分だった。
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遅くなりました……戦闘と言いましたが戦闘?
次回こそ戦闘……!のはず




