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魔を極めし者

 転移魔法(ドアーズ)の扉をくぐったクシルは目の前に現れた見慣れた塔の入り口へ向かう。最期を迎えてから6年経っているが大賢者としての意識が戻ったのは今朝方、気持ち的にはつい先ほどまで自分がいた場所で感傷に浸る事もなく足を進める。

 自分が死んでから時間が経って居る事に気が付いたのは塔の入り口を守っていたゴーレムに歩みを止められた時だった。

 ゴーレムは大賢者の命令を守り、使用者権限を持つ大賢者以外の人間を排除するようにクシルに襲いかかる。いつも――クシルが転生する前――は図書室を守っており、顔パスで通っていたのだが今の使用者は弟子のエリであり、そもそも転生によって肉体的にも別人になった今顔パスが効くはずもない。


 とは言えこのゴーレムを作ったのはクシル自身であり使用者権限よりも上の創造者権限の呪文を知っている。クシルはゴーレムに創造者権限の呪文を唱えると今にも掴みかかってきそうな腕は止まり、再び入り口の守りを固めるように向き直る。


 入り口の中に入るとクシルはツカツカと速足で塔の中を進んでいく。気になったのはゴーレムの位置くらいでそれ以外の結界や罠は見知ったもの。クシルはいつもの習慣で結界や罠を解き、再度仕掛け直しながら塔を登っていく。

 魔導士ギルドの魔導士達が野営をしながら結界の解析や罠の回避に汗を流し、あるいははまった罠に嘆きながら登っていた事も露知らず、クシルは隠し通路や抜け道を使いながら最短距離で最上階へと向かう。


 最上階にある研究室まで行くと少しだけ大人びた一番弟子が、いつも通り何かに巻き込まれたような不機嫌な顔で迎えてくれた。




-------------------------------------------------------

「もしかして……師匠……?」


「ん? おう! ただいまだな!」


「ただいま!? え? どういう事ですか? そもそもその姿はなんなのですか!!?」


 すでに馴染みすぎていた自分の容姿の事をエリの言葉で思い出したクシル。そんな反応に若干呆れながらエリはクシルに近づきまじまじとその姿を眺める。


「そういえば姿が違うんだった……えーっと……死んだんだけどもう一回生きても良いって言ってもらえてな!」


  エリの質問に対してクシルはアハハと笑い飛ばす。質問に対して更なる疑問が返ってきた事でエリは不機嫌そうな言葉で更に質問を飛ばす。


「だからどういう事なんですか~~!!」


 その反応に星の声の会話に理解が追い付かなかった自分の姿を重ねたクシルはそうだよな! そうなるよな! と笑みを浮かべる。

 全く理解の出来ない状況に、エリは喜べばいいのか問いただせばいいのか複雑な感情を纏いながら不機嫌顔のままクシルの肩をつかむ。


「もう! もう! ホント師匠は師匠なんですから……!」


 そういうとクシルを抱き寄せて


「……おかえりなさい」


 と一言、複雑な感情を全て飲み込んで自分を置いて先に逝っててしまった師匠を受け入れたのだった。




 -------------------------------------------------------

「どこから理解すればいいのか……」


 クシルはエリに一通り死んだ後の星との会話と大賢者としての意識が覚醒してからの状況と考察を伝えた。クシル自身も全て理解している訳ではない為、掻い摘んで伝えたのだが大枠は理解してくれたようだった。


「星が魂を管理しているというのは新しい発見ですね……」


 現役の大賢者だけあって新たな知識や発見に敏感なエリはクシルの言った事をメモに取り自分の頭の中で咀嚼していく。


「ですがそのアチーブメントというモノはまだ理解が追い付かないのですね……」


「そうだな……実際に見てもらった方がいいかな」


 そう言うと勝手知ったる研究室、クシルは近くの棚から紙と小振りな魔石を持ち出す。取り出した紙にさらさらと何かを書き始めたクシルは最後に血判を押して出来上がった契約書をエリに渡した。


「よしこれでいいな! エリこれにサインしてくれ」


「え? これなんですか?」


「"エリはクシルを弟子にする"という契約書だな」


「はぁぁぁぁぁぁ!? 師匠が弟子に????? また訳の分からないことを!!」


 師匠と再会したこの短時間の内に弟子時代に戻ったようにエリは理解が追い付かない表情を何度もクシルに向けていた。

 だが、そんな事は知ってか知らぬかなに食わぬ顔で早くサインをしろとアピールするクシルを見てこの人はこうなると次に進んでくれないと諦めペンを手にする。


[クシルはアチーブメント”魔法使いの弟子”を達成しました。]


 エリの血判によって契約が完了した瞬間、クシルの"情報収集(データログ)"のログにアチーブメント取得を告げる一文が刻まれる。そのログを確認したクシルは先ほど持ち出した魔石に手をかざして念じ始める。


[クシルは”情報書込”を開始した。「情報書込」は成功した。]

[クシルは”情報書込済みの魔石”を手に入れた。]


 ”情報収集”で得た記録は”情報書込”のスキルで魔石に転写する事が可能であった。アチーブメントの内容を含むログを魔石に転写させたクシルはそれをエリに渡し見てみろと促す。


「”魔法使いの弟子”ですか……」


「あぁ取得条件は簡単でな魔導士と名乗れればいいみたいだ。まぁ魔導士と名乗るためには誰かしらの承認が必要で一人じゃクリア出来ない訳だが……」


 そう言いながら、クシルは"魔法使いの弟子"を取得したことで、他にも取得できるものが増えたかどうか"アチーブメントリスト"で確認していた。


「魔導士ギルドに所属してもそのアチーブメントは取得できそうなんだが、その後が面倒そうだったんでな…」


「その後? まだ何か取得出きるものが有るんですか?」


 いままで見たこともないログを興味深く眺めるエリはログと自身のメモに視線を交互させながら、後ろでクシルが準備運動をしていることにも気がつかず質問を続けた。


「後は職種というもに応じたアチーブメントが取得出来そうだったんだが……魔導士ギルドの中でレベル5の魔法を撃つと悪目立ちしそうでな」


「へぇーレベル5の魔法を撃つのが取得条件なんですか……って……? ……え!???」


 ゴォォォォォォッ


 クシルの動きに気がついた時にはもう遅く、エリの目の前でクシルの魔法によって爆発的に上昇した熱エネルギーが光と轟音を伴って炎となり広がっていく。部屋に収まりきらない炎は部屋を埋め尽くす勢いで広がっていくが、どこからともなく吹き荒れる風によって誘導され唯一開いていた窓を通って一度収縮し火柱となって抜け出していった。


[クシルは”爆炎魔法(ブレイズ)5”を唱えた。クシルの”爆炎魔法(ブレイズ)5”]

[クシルはアチーブメント”キャスター:ランク5”を達成しました。]

[クシルはアチーブメント”魔力の解放者”を達成しました。]


[クシルは”回復魔法(キュア)5”を唱えた。クシルの”回復魔法(キュア)5”]

[クシルはアチーブメント”ヒーラー:ランク5”を達成しました。]

[クシルはアチーブメント”回帰する魔力”を達成しました。]


[クシルは”精霊召喚(サモンエレメンタル)”を唱えた。クシルは”シルフ”を呼び出した。]

[クシルはアチーブメント”エレメンタラー:ランク5”を達成しました。]

[クシルはアチーブメント”魔力の源泉”を達成しました。]


[クシルはアチーブメント”魔を極めし者”を達成しました。]


「その通りランクのアチーブメントは魔法のレベルによって取得出来るみたいでな。あーそれ以外にも何か取得できたみたいだ……”魔力の解放者”か! これはランクとは別でその道を究める事で取得できるようだぞ!」


 アチーブメント取得の為に魔法の空撃ちをしたクシルはログを見ながら結果を報告する。

 空撃ちといっても5段階ある最上位の魔法を空撃ちしたのだ、その影響はすさまじく最上階から放たれた火柱を遠くから眺めていた賢者の塔攻略者達がこの搭は二度と登るまいと決意を改める程のものだった。


 不意打ちを食らったエリは髪先を少し焦げさせながら呆れた顔で6年たって薄れていた師匠の通常運転を嫌と言うほど思い出していた。

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